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「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 4. 地球連邦政府の陰謀

『第4話 スパイたち 3. 冷徹な判断』からつづく

 サタリアたちは、地球連邦中央情報局がラムネ星でスカウトしたラムネ星人工作員で構成されるラムネ星浸透チームで、地球にある中央情報局本部から「昔話再生審査会」と「日本昔話再生機構」の癒着を暴くことを命じられていた。
 
 事の発端は、「昔話成立審査会」に所属する地球人巫女が、「審査会」が意図的に「昔話再生機構」に有利な判定をしている疑いがあると、地球連邦警察に訴えてきたことだった。
 
 審査員は時空の彼方で進行している昔話の再生を自らの目で見ることはできないが、巫女は透視能力で昔話再生状況を見ることができる。巫女の視覚情報がホログラム化されて審査員の前に映し出され、審査員はそれを基に「昔話」の成立・不成立を判定するのだ。

 巫女は審査員の「眼」の役割を務めるだけだから、昔話の判定基準は知らされていない。連邦警察に不正疑惑を訴えてきた巫女は、彼女の直感をもとに訴えてきたのだが、巫女の直感はよく当たる。
 事実、連邦警察が匿名を条件に異なる時期に審査員を務めた10人のOGに証言を求めたところ、直近5年間に審査員を務めた3人の巫女が、直感的に怪しいと感じた判定があったと語った
 しかし巫女の直感を根拠に立件することは法律上は不可能だ。連邦警察は捜査を中止した。

 
ところが、地球連邦政府は、この事態をラムネ星統合政府を脅すネタに利用することを考えついた昔話再生審査会」が「機構」に有利な判定をしているとしたら、「機構」が「審査会」に何らかの働きかけをしたと考えるのが自然だ。
 たとえば、「機構」が「審査会」にワイロを渡して有利な判定を下してもらっているとしたら? それが明らかになれば、これをネタにラムネ星統合政府を脅し、「昔話再生機構」の管理を地球連邦政府に移管させることができる。
 
 地球連邦政府は財政難から組織のリストラを進めており、幹部職員に与えられるポストの減少に悩んでいた。「日本昔話再生機構」の支配権を握れば、「機構」に幹部職員のポストを用意できる。「機構」の運営費用の7割はラムネ星統合政府が負担しているのだから、地球連邦政府の腹は大して痛まない。

 ただし、「機構」と「審査会」の癒着を暴くことは、地球連邦政府にとっ諸刃の剣だった。「審査会」には連邦政府が任命した地球人審査員もいる。しかも、地球人審査員4名・ラムネ星人審査員3名と、地球側が多数派なのだ。ラムネ星側から地球側の審査員任命責任を追及される危険性があった。
 
 事を慎重かつ大胆に進めることを、地球連邦政府は決定した。
 まず、癒着が事実であることを確認する。次に、「日本昔話再生機構」が「昔話成立審査会」違法に働きかけたことを確認する。
 この二点を確認できた時点で地球人審査員全員を解任し、地球に帰還させる時空転移装置に事故を起こさせ、ラムネ星側の聴取に応じられない状態にしてしまう。その上で、「機構」の不正を一方的に責め、ラムネ星統合政府を屈服させる。

 これが、地球連邦政府が描いたプランだった。このプランに基づいて地球連邦中央情報局に極秘調査命令がくだり、地球浸透チームの活動が始まったのだった。

『第4話 スパイたち 5. 癒着の状況証拠』につづく