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「日本昔話再生機構」ものがたり 第5話 浦島太郎の苦悩 1. 不安な出だし

 むかし、むかしの日出る国の白砂の浜。3人の男の子がウミガメを蹴って痛ぶっていた。そこに、暗く思いつめた表情の漁師が通りかかるが、子どもたちには目もくれず行き過ぎようとする。
 ウミガメを蹴っていた男の子のうち、一番小柄な子が漁師に目を向けた。
あれ、タローが行っちゃう
と、ラムネ語のテレパシーで他の2人に声をかける。
「まさか?」
痩せてひょろひょろの仲間が顔を上げ。
「ありゃ、ホントだ。なんか、ボヤっとしてるな」
と言う。
「タローが行っちまうって? なわけ、ねぇだろ」
一番デカイ男の子が顔を上げずウミガメを蹴りながら言う。
タローが俺らを止めに来なかったら『浦島太郎』が始まらねぇ。沖合の海底には竜宮城のセットが組みあがって乙姫とバックダンサー併せて40人のキャストが待機してんだぞ
「だけど、本当に行っちゃうよ」
「なんだって?」
デカイ男の子が顔を上げ他の2人の視線を追い
「あいつ、何やってんだ?」
と驚く。

 蹴られていたウミガメが男の子たちに
「ボヤっと見てないで、タローちゃんを連れてきてよ。タローちゃんが来なかったら、ボク、蹴られ損だよ」
とテレパシーを送る。
「あぁ、そうだ。今連れて来る」
最初に漁師に気づいた男の子が駆け出して行った。
 ウミガメと3人の男の子は、日本昔話『浦島太郎』を再生するためにラムネ星から時空転移してきたクローン・キャストだ。そして、彼らを無視して歩き去ろうとした漁師がこの物語の主役、浦島太郎。演じるのはクローン・キャストのタローだった。

 タローは浜に戻ってきて男の子たちにウミガメをイジメるのはやめるように言い、男の子たちは浜の奥の松林の中へ逃げ去った
 ウミガメが助けてもらった御礼に竜宮城のご案内しますと言うと浦島太郎は「あ、ううん」と気のない返事をしてからウミガメの背中にまたがった。

「タローちゃん、どうしたの。ボクたちが目に入らないみたいにフラフラ歩いてくなんて、タローちゃんらしくないよ」
竜宮城に向かう海の中でウミガメがタローに話しかける。タローから返事はなく。少しすると、タローがウミガメの背中で身体をずるっと右に傾かせた。ウミガメはバランスを取り戻そうとしたが、タローの体重に引きずられ横転してしまう。タローの身体がウミガメから離れ海底に向けて沈んでいく。
「うわ、タローちゃん、自分で泳いでよ」
ウミガメは慌ててタローを追っていった。

『第5話 浦島太郎 2.  ヘルプデスクの非情』につづく