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お支払いにまつわる話

先日、あるお得意先に月末〆で合計1,842円の請求書を発行致しました。見本程度の販売しかなかった月はこのような請求額になる時もたまにあります。翌月20日のお支払いの際、そのお得意先からこちらの口座へ1,347円の入金がありました。今回はそんなお支払いにまつわる話です。

こちらの請求額1,842円の内訳は、商品代1,675円と消費税の167円の合計です。それに対しての入金額1,347円の内訳は、支払い時の歩引3%(1,842円x0.03=55円)と振込の際の銀行の振込手数料(440円)を差し引いた額なのです。こうなりますとこの販売は事実上ボランティアです。小さな金額での例ですので特に目立つのですが、今の繊維業界のお支払いに関しては、納得の行かない点がいくつかあります。

まず歩引という行為に関してです。私が34年前、刺繍レースの業界に入った頃は、ほとんどのお得意先の支払い方法は90日~120日の手形でした。会社に入る前までは、物の売り買いは基本的に現金が当たり前でした。学生時代、就職活動の為にスーツを買った際は、お金もなかった為、5回払い位で金利も払って購入した覚えがあります。現代でも家を買えばローンには利子が付きます。それなのに会社同士の売買では90日も120日も先にしかお金にならないし、その間の金利も払ってもらえないのです。

入社間もなかった私は手形の意味を上司に聞きました。お得意先は刺繍レースを購入して、それを使って商品を作る。それが店頭に出て商品が売れて初めて得意先の手元にお金が入る。そのお金が入ってから、仕入れた刺繍レースの代金を払う。日本の商習慣はそれで回っており、後日のお支払いを約束する証として手形をもらうのだと教わりました。

話はそれますが、昔の私の得意先で120日手形での支払い条件で商売をさせて頂いていた所がありました。その得意先がある月に、何の通達もないまま、150日の手形を発行してきたのです。理由を聞くと、特に意味はないです。来月から120日に戻しますから・・・と云い、手形の切り直しはしてもらえませんでした。その会社はその後、それ程の間を置かず破産しました。

ある時期から「お支払いの方法を手形から現金払いに変えます」という申し出が多くのお得意先から出てくるようになりました。その代わり、現金化の日数が短くなったのだから、その短縮期間分の金利額を支払い時に歩引きしますという条件を各社が付けてきたのです。歩引率はみな口裏を合わせたように一律3%でした。100万円請求しても97万円しかもらえないのです。こちらが90日とか120日の間、得意先からお金を借りるという訳ではないのにです。

財務内容が良くなく、ヒヤヒヤしながら手形を頂いている先でしたら、たとえ3%引かれてもすぐに現金を頂いた方が良いのですが、当時、現金支払いに変更を言ってくる先は、現金で支払う力のある優良な財務内容のところや、銀行から融資をすぐ受けられる様な、安全な先が多かったのです。

当然、現金でのお支払いになった時点から、刺繍レースの単価を今までよりも3%上げるお願いなど通じる物ではありませんでした。「御社の御手形は、日銀券(いわゆるお札)と同じくらい信用していますので、どうか今まで通りの歩引きなしの手形でのお支払いをお願いします」と交渉しに行っても、先方の3%歩引戦略は取り下げられませんでした。

本来ならば、手形でのお支払いの際は、90日や120日の間、入金を待つのはこちらなのですから、金利は逆にそちらが払うべきじゃないのでしょうか。現金で支払う場合、請求に対して満額で支払うのが筋というものではないのでしょうか。

当時の市中金利がどれくらいであったか覚えていませんが、90日で3%でしたら、年利12%になります。本当に丼勘定です。現在は金利なんて有って無いような世の中です。たまに仕事用の口座に <リソク ¥4>とか記帳される事がありますが、会計処理の手間が増えるだけで少しも有難くないです。しかし今でも、現金払いで歩引の条件を言ってこられる先の歩引率は決まって3%です。

再び話はそれます。私の担当していた得意先で90日の手形決済でお支払いしてもらっていた先がありました。そのお得意先より「来月のお支払い分より、ご請求額の3%を歩引させて頂きます」という文書が届いたのです。手形支払いのままです。もうこうなるとパワハラです。主旨が理解できません。この得意先はその後まもなく消滅致しました。

現在、新しく商売をさせて頂くお客さまの中で、支払い時に歩引きをする新規得意先の方たちは、必ず前もってその旨伝えてくださいます。そういう意味では、歩引きという商習慣に関しては、相手の了承を(一方的にでも)得てから行うものという意識はお持ちの様です。

しかし、<振込手数料分を差し引いてのお支払い>の件に目を向けてみますと、商売を開始させていただく時点で、その旨通達して下さるお得意先はほとんどありません。なんの通達もなく、お支払いの際は銀行の振込手数料額は差し引かれています。昔、現金振り込みをされる得意先が増えだした頃は、皆さま決まって手数料を差し引く旨通達してくださいました。しかし、現在そのように事前に意思表示してこられる先はまずありません。一方的に差し引かれるだけです。

手形にてお支払いをして下さっているお得意先の中には、請求書発送の際、手形郵送の為の切手を貼った封筒(簡易書留ですので400円をこえるのです。)を同封することを義務付けておられる先もあります。

銀行の振込手数料や手形郵送料って、売主と買主のどちらが負担すべきなのでしょう。歩引もふくめて、このあたりの件は下請法とか民法とかをきちんと読めばある程度明記されているように思うのですが、そんな事に時間をかけて、その上でお得意先の経理課の方と言い争いをするというのが私の本意ではありません。すべての弱い立場の企業や自営業者の為に、持続可能な開発に必要である平等なパートナーシップの構築や、サプライチェーンに対する意識の見直しを2030年位までにすべての会社が行ってくださる事を望むだけなのです。弱い立場の人たちがさらに弱い立場の人に接する際の意識も然りです。あと、この文章を私のお得意先の方が読まないことを望むだけなのです。

最後にもうひとつ。

月末に現金でお支払いの条件のお客様の中には、末日が土日祝日にあたる場合、翌月初の送金になるところが有ります。9月の1日2日が土日の場合、夏休みが9月2日まで伸びるのとはちょっと訳が違うと思うのです。脆弱な資金力の自営業の私はこの状況になると、月末の資金繰りが苦しくなることをぼやきまして、この文章の締めとさせて頂きます。最後までお読みいただき、有難うございました。


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