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④「以前はできたことができなくなる」か?

誰の目にどのように映っていたか
前回(「療育」での当たり前を疑って発達支援をアップデートする③「経験不足でできない」)は、“できなかったことができる”ようになることを促すというテーマで書きました。それとは正反対に、子どもの様子をとらえて“以前はできたのにできなくなった”と言われることがあります。そうした言葉を聞くと、つい「以前からできていなかったのではないか?」、「どういう状況で“できていた”のか?」、「ほんとうに“できなくなった”のか?」といったことが頭に浮かびます。誰がどのような状況で子どもの様子を観察した結果を“以前はできた”と表現し、“できなくなった”と評しているのか、という疑問です。

「人を見て行動する」とはどういうことか?
そして、多くの場合に“この子は人を見るから…”という話につながりがちな気もしています。学校、幼稚園、保育所や児童発達支援事業所等では、年度毎に担任や支援の担当者が交代することが珍しくないと思います。前任者が先輩職員やベテランの支援者であった場合、こうした言葉は後任者へのプレッシャーになり、ともすれば後任者は自分のことが非難されているようにも感じてしまうでしょう。そして、できれば自分も子どもが以前のように“できる”状態を取り戻したいと思い、一生懸命支援にあたろうとするのです。ここで、“人を見る子ども”が支援者との間でどのようなやり取りを行っていたかを振り返ってみることが大切です。

「できていたことができなくなる」一つの例
一例ですが、前の支援者は子どもに対して厳しい態度で指示を出し、子どもがそれに応えて行動するまで待ち、行動できたところで「よくできたね」などと言って褒めていたとします。後任者もそれに倣って、行動できるまで待って褒めてあげよう・・・と考えていても、なかなか指示に応じてくれないと褒めようもありません。見かねた前任者が「以前はできた」、「この子は人を見るから厳しく言わないといけない」といったアドバイスを(おそらく善意から)するといった状況が考えられます。

「褒めて伸ばす」ができているか
発達支援の現場では、子どもの行動変容を促すための理論的な基盤として、ABA(応用行動分析)を取り入れていることが少なくないと思います。それを意識していなくても、保育や教育において“褒めて伸ばす”ことが可能になる背景には同様の原理が働いています。そして、前例の支援者(前任者)も、子どもが行動できたところで“褒めて”、そのことが目的の行動を強化していたと考えていたのかもしれません。しかし、実は“褒めて強化”していたのではなく、“厳しい態度が和らぐことによる強化”によってその行動が起きることを支えていたと考えられるのです。そのために、最初から“厳しい態度”という取り除きたい刺激を提示しない支援者(後任者)の前では、同じような行動が起きないのです。

子どもが“厳しい先生の前ではしっかりするのに、優しい先生の前では甘えてできなくなってしまう”などといった評価を受けることがあった場合には、何がその子どもの行動を支える前提条件になっているかを、一度見直してみる必要があるかもしれません。

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