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”楽“に気づいたあの日

 小学生時代で覚えていることが一つある。昼休みの時間だ。昼休みになると、暑い寒いなんて関係なく友達と校庭で遊んでいた。ドッジボールや鬼ごっこ、時には縄跳びなどもしていた。校庭には推定樹齢が130歳になるクスノキがあったので大きな木陰があり、涼しい場所もあった。


 タイトルの通り「“楽”に気づいたあの日」というのは、月に一回ほどあった”クラスのみんなで遊ぶ日”のことだ。他所の学校でもあったのか、うちだけの文化なのかはよくわからないが、普段は外に行かないような男子や、一緒に遊ばない女子も含めて、昼休みの時間にクラスの全員で遊ぶというものだ。予め遊ぶ日は決まっており、一週間ほど前になると係の子が多数決をとって遊ぶ種目を決めていた(雨天の場合は教室の中でできるもの、フルーツバスケットとか)。

 基本的にルールが簡単で、男子の速いボールを取れない女子もいたこともあり、鬼ごっこ系の採用が多かった。バナナ鬼や氷鬼、ケイドロ(ドロケイというところもあるらしい)とか。この”クラスのみんなで遊ぶ日”を嫌がっているクラスメイトも数人いたが、ぼくは身体を動かすことが好きだったので楽しく遊んでいた。



 1年生から3年生の頃は足の速さが重要で、速い人が良く逃げ切っていた。ぼくも速いほうだったので、逃げ切ることが多かった。おにのときは男女構わずたくさんの人を捕まえていた。

 4年生にもなってくると足の速さだけではなく、頭の良さというものも重要になってきていた。たとえ足が速かったとしてもたくさん走ると疲れてくるし、”個”の動きをしていたおにたちが”集”の動きをしだし、挟み撃ちやコーナーに追い込む、逃げている人の位置や何人いたかなどの情報を共有し始めていた。こうなると純粋に逃げているだけでは、おにに捕まってしまうのは明白である。

 小4のぼくは逃げ切りたいし疲れたくもない。ということで、頭を使って逃げ始めだすのである(足もまだまだ速かった)。

 ある時はコーナーに追い込まれて、じりじりとおにが近づいてきていた。ぼくはタッチされそうな瞬間に、後ろの壁をのぼって壁を蹴っておにの頭の上を通り越して逃げた。おにの立場からすると、せっかく追い込んだのにタッチできなかったというのは精神的にきつかっただろうなと思う。

 ある時は追いかけ続けられ、お互い疲れて2メートルぐらいの間隔を保ちながら歩いていた時に「もう無理、疲れた。捕まえていいよ」と言って歩くのをやめた。おにも「やっと諦めたか」と思っただろう。ぼくは近づいてくるおにをぎりぎりのところでかわして、全速力で逃げた。遠くから見たおにの表情は死んでいた気がする。

 ほかにもサッカーのゴールを使って時間を稼いだり、鬼が走ってきたときにわざと鬼に向かって走り、ぶつかりそうになった瞬間にぎりぎりでよけたり。あとは、体育館の下のスペースに身を潜めたり、砂場で遊んでいる低学年の子たちに紛れ込んだり。単純におにを笑わせて追いかける気力を削いだときもあった。


 今思うとルールのぎりぎりなことをしていたし、後半は単純に足の速さ関係ないじゃんと思った。逃げ切りたいから、最小限の体力で乗り切ってやろうに趣旨が変わってしまった感があった。

 小4から小6の時も変に頭を使わずに足の速さだけで勝負していれば、足の速さも落ちなかっただろうし、体力ももっとついていたと思う。足が速い人から、普通の人になってしまった気がする。あの時に変に頭を使った分、中学・高校の体育の授業に悪い影響を与えてしまったような気もしなくもない。



 楽な方法を見つけたあの日、ぼくはあらゆることに「どうしたら楽にできるかな、やりすごせるかな」と思い始めた。でも、そんなことがあったからこそ、「楽をするだけではいけないんだな」と中学生時代になって気づくことができた。頭を使うのは勿論必要なことである。ただ、その頭を楽なほうに持っていくか、敢えて自分にとって厳しいや苦しいに持っていくか。そこの使いわけで人は成長できるし、逆に退化することもあるだろう。努力というものは、その厳しいや苦しいに持っていく作業のことだと思う。

 頑張り続けている人はたまにはほどほどにしてみたり。怠惰な生活をしている人は、何かギアチェンジをしてみたらいいと思う。

 鬼ごっこを最後にやったのはいつだろう。中1かな。これから先の人生で鬼ごっこをすることはなさそう。そう思うと寂しいような。あの頃みたいにむじゃきに走ることはないだろう。大人になれば走るということも遊びではなく、ただの作業になっていくのかな。それってつまらないけど、仕方のないことか。

 広い公園で大勢で鬼ごっこしてみたいな。疲れそうだけど、全力で逃げきりたい。これから先に絶対にないけど、あったら楽しそうだな。なんて思いながら、淡々とコースを走っている体力に自信がない20手前の19歳男性。





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