いつもそばにいる(下)
人物
宮本由衣 (18)
宮本めぐみ (46)由衣の母
大原博之 (45)めぐみの上司
河合武司 (41)由衣の担任
宮本康史 (48)由衣の父
ラジオパーソナリティ
○めぐみの家のリビング (夕)
キッチンではめぐみが夕飯の支度をしている。
由衣の声 「ただいま」
由衣が帰ってきて、リビングに入ってくる。
めぐみ 「お帰り」
料理の手を止め、由衣の顔を見にいくめぐみ。
由衣 「でたの」
興奮気味な由衣。
めぐみ 「何が?」
由衣 「葛飾北斎!」
めぐみ 「へー、渋すぎるハンカチも役に立ったわけだ」
由衣 「結構それ以外もできてさ、手ごたえありだったの。お母さんから借りハンカチのおかげかな。着替えてくるね」
上機嫌で話し二階の自室に向かう由衣。 笑顔でキッチンに戻るめぐみ。
× × ×
食卓に食事が並び、由衣とめぐみが夕飯を食べている。
由衣 「ねぇ、あのハンカチ、次の試験にも持っていってもいい?」
めぐみ 「いいけどそんな効果あるかわからないわよ」
由衣 「モノは考えようなんでしょ。なんかパワーもらえそうだし」
めぐみ 「それはよかった。由衣にそのハンハチあげるわ」
由衣 「じゃ、代わりに私のお気に入りのハンカチあげるね」
由衣は立ち上がり、リビングを出ていく。手にハンカチを持って入ってくる。ハンカチをめぐみに渡す。
めぐみ 「アラフィフの私には可愛すぎるハンカチね」
由衣 「一枚くらい可愛すぎるのもあってもいいんじゃない」
めぐみ 「本当?それもそうね、次の試験日は ? 」
由衣 「次の木曜日」
めぐみ 「その日は上半期の業務成績が出る日だ。このハンカチ使うわね。ご利益あるといいなぁ」
康史の声 「ただいま」
めぐみ 「あ、お父さん帰ってきた」
ハンカチをテーブルに置き、玄関に向かうめぐみ。テーブルの上のハンカチ。
○めぐみの会社、会議室
大原博之 (45)が書類を見ている。書類には上半期個人業務成績結果報告書と記してある。ドアをノックして入室するめぐみ。
めぐみ 「失礼します」
大原 「宮本さん、座って 」
大原のむかえに座るめぐみ。
大原 「前期と同様この上半期の宮本さんの接客や業務態度も高評価でね、連続して高い評価結果だし来期から時給アップも検討してるんだよ」
めぐみ 「本当ですか」
表情が明るくなるめぐみ。ポケットをさすり笑みを浮かべる。ポケットから由衣のハンカチの端が少しでている。
○高校
パソコンを見つめる河合武司 (4 8)と由衣。由衣は右手にめぐみのハンカチを握りしめている。時計は 9:58を指している。
河合 「もうすぐで合格発表だな」
由衣 「はい」
河合 「受験番号は?」
受験票を出し河合に見せる由衣。 受験票には894の数字が書いてある。パソコンには大学の合格発表のページが表示されている。
○めぐみの家、リビング
パソコンの画面には大学の合格発表ページが表示されている。パソコンの前に座り操作するめぐみ。 めぐみ 「894番...」
緊張しながら呟く。左手には由衣のハンカチ。パソコンの画面に合格者の受験番号の一覧が映し出される。由衣のハンカチを両手に握りしめ画面を見つめるめぐみ。
めぐみ 「8、9、4、8、9、あ!」
携帯で着信音がなり、ラインが届 く。携帯を見るめぐみ。由衣から『第一志望、 合格した 』とのラインが届く。おめでとうのスタンプ をすぐ返信するめぐみ。めぐみは目頭が熱くなり由衣からもらったハンカチで軽く目をおさえる。
○めぐみの家のリビング
後日。めぐみがリビングにいる。ドアが開き由衣が顔を出す。
由衣 「お母さん。そろそろいくね」
めぐみ 「はーい」
席をたち由衣の方へ向かうめぐみ。
めぐみ 「入学式まであと数日あるんだからまだうちに居ればいいのに」
由衣 「いーの。憧れの一人暮らし早く慣れたいし。それに大学始まったらバタバタしそうだから今のうちに引越しの荷物片付けておきたいし、行ってきます」
玄関に向かう由衣、後についていくめぐみ。
めぐみ 「ハンカ...ってもう言わなくてもいいのよね」
由衣 「ハンカチ?もってるよー。その口癖も聞き納めか」
にっこり笑ってお尻のポケットを叩きながら出ていく由衣。お尻のポケットにはめぐみからもらったハンカチがある。
めぐみ 「行ってらっしゃい 」
微笑むめぐみ。寂しそうな表情ものぞかせる。リビングの机には由衣と交換したハンカチ。
了
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