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【COSMOPOLITAN KOREA】日本のアニメオタクがTXTのスタイルディレクターになった話

(2023/04/01追記)
Webにてフルバージョンが公開されたので一部追記しました。

2022/11/15公開

TOMORROW X TOGETHER(以下TXT)のスタイルディレクティングを担当するホ・ジイン(Rakta)は業界内で「耽美主義者」と密かに呼ばれている。友人と一緒に女性アーティストにフォーカスした雑誌を作ったり、パーティーではDJとして活躍したり、そして日本のアニメが大好きな「オタク」だった1人の少女がアイドル・アーティストのスタイルディレクターになった。メインストリームで自分の好みを思う存分に繰り広げている彼女にとって、アイドルのスタイルディレクティングとは人々から耽美主義的な本性を引き出すことである。


Q:ユニークな点だと思ったのですが、BIGHIT MUSICにはビジュアルディレクターというポジションは無いのですね。
A:BIGHIT MUSICではアーティスト別にクリエイティブ室が存在します。アルバムやプロジェクトを企画する際にその中の全ての人が集まって大きなテーマを決めます。その中にはビジュアルクリエイティブチーム(VC)があり、そこで私はスタイルディレクティングを担当しています。私はVCチームの製作と企画関連の運営者であるプロダクションコーディネーターと一緒に仕事をすることが多いです。

Q:「スタイルディレクティング」とは一体どの部分まで関与しているのですか?
A:アルバムジャケットやミュージックビデオなどの全般的なビジュアル、そしてアーティスト1人ひとりのヘア・メイク、スタイリングまでビジュアルに関する全てに関わっています。

Q:それはキャラクターのアティチュードとかもですか?
A:撮影の際は、アクティングノートも準備していき、現場で細かい点を直接話し合ったりもします。

Q:スタイリストとは違う役割のように聞こえますね。
A:スタイリストは私たちの企画を直接具現化してくれる役割ですね。私がBIGHIT MUSICに入社して間も無くスタイリストが変わったのですがとても息が合い、かれこれ2年ほど一緒に仕事をしています。

Q:確かに、スタイリストと息が合うかはとても重要そうですね。
A:慎重だと思われるでしょうが、スタイリストだからといって全員が務まるポジションだとは思っていません。特にTXTの場合はコンセプトをよく理解し、私とコミュニケーションを取りながら、ディテールの部分までうまく具現できる方でなければなりません。衣装や小物、ヘアスタイルでも隠れているメッセージを表現したいからです。

Q:あなたが定義する「スタイリング」とは何でしょうか?
A:「絵を完成させること」だと思います。今私はシャツを着ていますがここで急にトラックパンツを合わせた時と、私が今着用しているようなドレーパリーなスカートを合わせた時では印象が全然違いますよね。どちらがより良いスタイルかということは決められませんが何をマッチさせるかで全く異なる絵が出来上がります。ピンとくる絵があればあまり興味が湧かない絵があると思いますが、スタイリングもまさに同じなのです。

Q:これまでTXTのビジュアルを担当してきた中で、最も反響があったと思うのはどれですか?
A:ファンの反応が一番良かったのは正規2集<混沌の章:FREEZE>というアルバムだと思いますが、その中でも「WORLD」バージョンのコンセプトフォトは特別でした。これは私がTXTメンバーたちに実際に会って受けた印象をそのまま表現しようとしました。以前からTXTには関心を持っていましたが、実際に見てみるととても美しい顔をした少年たちで、一方では無力で簡単に傷つくことができる繊細な感受性があるようでした。そのイメージを土台にして思い浮かんだ単語が「継ぎ接ぎ王子」でした。

Q:童話の中に実在するキャラクターかなと思っていました。
A:いいえ、ただ思いついただけです。たしか王室のような服飾、軍服みたいなものを着ているのにボロボロでどこか怪我をしたような人でした。そこから始めてコンセプトフォトも撮り、群舞衣装の方向性、ステージ衣装までつなげることでTXTならではのイメージを明確に構築するのに寄与したと思います。当時、ファンダムへの新規流入が非常に増えたと聞きました。

Q:「軍服」と「ぼろ切れ」、「王子」と「忘れられた帝国」というギャップがファンの心を揺さぶってついには崩壊させてしまったのかもしれません(笑)
A:実際ファンも「亡国の王子たち」と表現していました。このコンセプトに関しては衣装に本当に力を入れました。軍服は実際、海外からヴィンテージの舞台衣装を空輸してきて直接リフォームしました。ウェディングドレスを破ってヨンジュンさんの体に巻いて服を作ったりもしました。

Q:メンバーそれぞれ個性があると思いますが、それぞれの長所を最大限に活かす方法も考えるのですか?
A:実のところメンバー全員が受容性が良い方です。TXTで私が試みるビジュアルコンセプトやスタイルは、典型的なイメージの男性アイドルグループが消化しやすいスタイルではありません。そもそも企画段階で「ジェンダー」は除いて考えるので、拒否感なく受け入れられるように説得力のあるビジュアルを企画しようと努めています。それを心から納得していないと表現することができないと思うからです。メンバーたちは本当に良くやっていると思います。

Q:メンバーたちは最初からよくやっていたのですか?それとも合わせていく過程があったのでしょうか?
A:「私たちは典型的な王子を見せるのではない」というメッセージを伝え続け、私たちは他人と同じことをするチームではないということを表明しました。メンバーたちは思考が非常に柔軟です。TXTが本当に格別なグループであると感じたのは2021年のKBS<ミュージックバンク>上半期決算のステージです。<ミュージックバンク>側でヴィランやヒーローのようなコンセプトをしてほしいとのことで私とVCチームがハーレイ・クインのコンセプトを提案しましたがメンバーたちがそれを受け入れ、心からステージを楽しんでくれました。

Q:メンバーたちと直接話をする機会は多いですか?
A:普通は公式の場でブリーフィングをしますが、それ以外にもメンバー別の衣装をフィッティングする時やヘアスタイルを変える時にはしばしばコミュニケーションを取ります。「この服を着る時はこういう表現をしてくれれば良いと思う」等のメッセージを細かく伝えています。なので本当に私たちが企画したコンセプトをよく理解してくれています。このようなチームに出会えたのが私の立場として幸運です。

Q:BIGHIT MUSICとはどのようにして縁を結びましたか?あなたは元々<ヘビーマガジン>で編集をしていましたよね?
A:私は自分でクルーを集めて企画をするという仕事のスタイルがよく合うと思っていました。会社員として6~7ヶ月働いたりもしましたが大変でしたから。その後スタイリストとしての仕事が多く入るようになり、ビジュアルディレクティング関連でも作業をするようになりました。当時<ヘビーマガジン>も創刊して休む暇もなく時間を過ごしていたところ、業界にいる知人から「BIGHIT MUSICがビジュアル関係の人材を募集している」と一度志願するように言われました。ポートフォリオを送りましたが幸いにもよく見てくださったようです。TXTとよく合いそうだとのことでした。

Q:それはどんな点だと思いますか?
A:私はアンダーグラウンドでDJとして活動し、サブカルチャーに関心が高いです。私が経験したことをメインストリームで生かしたいという話をしました。直接お聞きしたことはないですが、おそらくそのような点ではないですかね?

Q:実際に生かすことはしましたか?
A:そうしようと努力はしています(笑)反応が全くない訳ではありません。実際海外でエモカルチャーを愛する人々の間でバイラルされるのをインターネットで目にしたりしました。「LO$ER=LO♡ER」の活動時は特に反応が大きかったです。

Q:なるほど。私も「継ぎ接ぎ王子」でエモカルチャーを少し思い浮かべました。
A:マニアックな要素はもちろん多かったですが、K-POP的な要素も確かにありました。例えばK-POPから「王子」を切り離すことはできないですよね(笑)

Q:話を聞いているとHYBEにどのようなポートフォリオを送ったのか気になります。
A:<ヘビーマガジン>の他にも個人作業を多くしていました。ソウルの魅力的なアーティストを集めて撮影するプロジェクトも進めていました。かなりマイナーな趣向が表れていたはずなので、エンターテインメントの会社に志願する人のポートフォリオとして見るのは難しかったのではないかと思います。

Q:大学ではファッションを勉強していたのですか?
A:はい。ライセンスファッションマガジンでアシスタントとして働いたこともあります。メインストリームのファッションマガジンはどうやって作るのかとても気になっていました。学部生の時もインディペンデントファッションマガジンを1年以上作ったことがあるほど、マガジンを作りたい気持ちが常にありました。

Q:あなたが友人と創刊した女性アーティスト専門雑誌<ヘビーマガジン>はいつも尋常ではないと思っていました。なぜ名前に「ヘビー」と付けたのですか?
A:<ヘビーマガジン>のブランディングはほとんど私が手がけました。アーティストの作品を紹介しながら積み上げていけばアーカイブが重く(heavy)なるのでは無いかと思いましたし、日本では「ヘビ(헤비)」といえば「蛇」を意味します。聖書で蛇はイヴに実を食べろと誘惑して罪を犯させた存在です。私は数多くの女性アーティストがまるで罪人のように扱われているのを残念に感じていました。男性アーティストはあちこちでスポットライトを浴びますが、女性アーティストは疎外される傾向があります。なのでどうせ罪人になるのであればもう少し罪を犯すべきだ、自分の言いたいことを思う存分言うべきだと考えました。

Q:「いい子は天国に行ける。でも悪女はどこへでも行ける」という言葉を思い出しました(笑)
A:SNSの投稿にも蛇を連想させるデザインが本当に多いですし、ポップアップ展示をする時もヘビ型ソファーを作りました。

Q:当時の作業が今でも影響を及ぼしているのですか?
A:直接的にはないですが、そのすべてが積み重なって今この仕事ができるのではないかと思います。ずっと私が好きだったアンダーグラウンドシーンとは関係を断たないようにしています。友達に会ったり、パーティーも行ったり、音楽を聴きに行ったり。

Q:音楽と漫画がお好きなことはよく知られていますが、作業しながら一番インプットになるのは何ですか?
A:以前他のインタビューでも話したことがあるのですが、私にとって間違いなく「テキスト」です。文の中でも質の良い文、主に本をあれこれ同時に積んでおき、いつでも読んでいます。ある文句の1、2行で私の生活様式と価値観が変わったりもします。なのできっと作業にも影響を及ぼしていると思います。

Q:多読する人は本を何冊も同時に読むと言われますよね。
A:イメージを作るのが私の仕事なので、絵や映像を見るのが役に立ちそうですがあまり惹かれないのです。特に映像は私が想像できる余地を残さないように感じます。映画以外はほとんど観ないですね。

Q:私も共感です。あくまでテキストが先にあって、映像がテキストの代替をすることはできないと思います。
A:説明の多いコンテンツが嫌いなんです。まだ絵や写真は映像よりも直接的な説明が少ないと感じるのでよく見る方です。また写真よりは絵や造形物が中心ですね。音楽でも情報量が多いと感じる時は歌詞のない演奏曲を中心に聴いています。

Q:それはクラシックとかジャズですか?
A:それらも聴きますし、エレクトロニックや、レイヴ音楽も聴いています。

Q:最近一番よく聴くのは?
A:最近ビョーク(Björk)が『Fossora』というアルバムをリリースしましたが、そこに収録されている「Atopos」という曲がガバ(Gabber)というジャンルです。もともとサブカルチャーのレイヴで流す(机をドンドン叩いて)ような曲です。とても反復的で攻撃的なジャンルなのに、ビョークはそのジャンルをとても優雅に解きほぐしていたのが不思議でした。

Q:音楽にハマったのはいつからですか?
A:音楽好きの間で冗談のように言われていますが、ロック好きな人は中学生の時に選ばれるらしいです(笑)私は14歳くらいの頃だったと思います。 日本のアニメのオープニング曲のほとんどがロックでもありましたし。ロックが変化していく過程に沿って私も多様なジャンルを知り、DJを学びました。キセワ(KISEWA)というDJとデュオとして活動し始め、それがBAZOOKAPO SEOULというグループの始まりです。

Q:ビジュアルの話に戻りますが、最近あなたが見た最も新鮮なビジュアルは何ですか?
A:新鮮というよりも興味深く見たのはイギリスのアーティスト、ジェーン・エデンの「飛行」という作品数点です。まるで異なる種の生命体がかみ合わさったようでした。ハイブリッド生命体やキャラクターに高い関心を持っているのですが、それにスチームパンクムードを加えるという視点が面白いと思いました。それ以外にはあまりないですね。誰かにとっては私の作品がそうかと思いますが、時々どのビジュアルを見ても疲れてしまう時があります。

Q:そういう時もありますよね。私も普段雑誌をあまり見ませんから(笑)
A:多くのものが結局はどこかに回帰し、何かを発展させたバージョンだと感じてしまうことが多いです。だからこそ、より一層誰かの視線を捕らえるような新鮮なビジュアルを作りたいという欲望にとらわれたりします。

Q:特に意識しているアーティストや作品はありますか?
A:本当に面白いことですが、K-POPのビジュアルを直接探すことはしていないのですが、誰かに「これ興味深くないですか?」と言って見せられると、その時から意識してしまいます。できるだけそのような反応が出ないように気をつけてはいます。

Q:競争心と達成欲が強い方ですか?
A:そうみたいです。寝る前に偶然見たビジュアルがとても良くて眠れなかったこともあります。私はチャンスを逃し、これ以上良いものは作れないと感じてしまいます(笑)

Q:このタイミングでする質問ではないかもしれませんが(笑)あなたは天才型か、努力型かどちらだと思いますか?
A:それに関してはずっと考えていたのですが、まずは天才の定義から考えなければならないですよね。努力してインプットをしたりアーカイブしなくても自然に何かが見えたり聞こえるのが天才だとしたら、私は天才だと思います。ですが、天才が天才であるためには努力が必要だと思います。あくまで私が作るものは大衆芸術ですから、 私の分野で純粋芸術をしようとすればそれは天才ではないですね。 自分の目に自然に見えて、耳に聞こえてくるものを多くの人に魅力的に伝える能力があってこそ、本当の天才だと思います。

Q:これまでの作品の中であなたを代表するものは何ですか?
A:ありません(笑)というのも私が関わった作品は私だけで作ったものではないからです。私を代表すると断言できるものをこれからも作れるかは分かりません。 まず、今は私が集中するTXTというチーム自体が私を代表する作品でありアーティストです。

Q:あなたは人気のあるアーティストのビジュアルを作る仕事をしていますが、 愛される、よく売れるビジュアルの共通点は何だと思いますか?
A:愛されるビジュアルとよく売れるビジュアルには根本から違いがあると思います。私の考えでは愛されるビジュアルはもっとマニアックな感覚に近いです。見た瞬間、胸がいっぱいになって肌がピリピリして体が熱くなることがありませんか? 愛されるビジュアルは人をそうさせます。それからそのような感覚になった理由を説明するのが最初から難しかったり、そうかと思えば逆に本当に長々と説明できます。その反面、よく売れるビジュアルは必ずしもそうではないようです。好きな理由を簡単に説明できますし。よく売れるということは、ずっと見たくなる中毒性があるということではないでしょうか。私の場合、大げさに聞こえるかもしれませんが、私にとっての愛らしいビジュアルが擦り減ってしまうのが怖くて大切に見てしまう時があります。

参考資料
Rakta インスタグラム
・ヘビーマガジン インスタグラム 公式サイト
・Weverse Magazine「TOMORROW X TOGETHERがファッションで具現した世界」(2022.05.18公開)「TOMORROW X TOGETHER「ACT : LOVE SICK」ツアー・レポート」(2022.09.13公開)
・Noblesse「2022年私たちが注目すべき顔」(2022.01.13公開)
・Kaufman インタビュー (2023.03.30公開)

サムネイル:BIGHIT MUSIC公式サイトより

(補足)
 彼女がTXTのスタイルディレクターとしてクレジットされているのは、2020年10月の『Minisode 1 : Blue Hour』から2023年7月の日本セカンドアルバム『SWEET』までになります。その後クリエイティブスタジオKyriéを立ち上げ、現在でも多くのアーティストのスタイリングに関わっています。
 なお、TXTが2024年4月にリリースした『Minisode 3 : TOMORROW』にはVisual Concept Consultingという役割でクレジットされています。








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