「欲望のオブジェ」要約 1章: 進歩のイメージ
影響を受けたデザインの本、オススメのデザインの本は何かと聞かれた時、エイドリアン・フォーティの「欲望のオブジェ―デザインと社会 1750‐1980」という本をあげている。
しかし、残念ながら、この本は現在は絶版なのだ(前に紹介したら、3000円が30000円に跳ね上がった)。
「欲望のオブジェ」は、エイドリアン・フォーティが、18世紀から20世紀の、デザイン史を「産業の視点から」まとめた本だ。この本はデザインの造形や美術側面を一切語らない。ツールとして、欲望の生産装置、説明装置として、デザインがどのように資本主義に用いられ、進化してきたかを論じている。(日本のデザイン教育が、あまり教えてくれないタイプのデザイン史だ)。
すごくいい本で布教をしたいので、自分なりに要約してみた(要約は表現を気をつければ、著作権的にOKらしい)。これをきっかけに、この本がまた注目をあび、「欲望のオブジェ」が再販されてくれないかなぁと思う。
<追記>
twitterで教えてもらったのだけど、2010年に新しい版が出たらしく。Amazonで数冊売っている模様。
第1章の要約
近代社会や産業の進歩は、恩恵と同時に、望ましくない変化や抵抗も生み出す。たとえば生産性の向上は、労働者の失業をもたらした。
資本主義は、新しさを産み販売することが本質だが、同時に新しさへの抵抗もあった。成功した商品は、この「新しさへの抵抗感」を克服している。
モノの見え方を変えることで、「新しさへの抵抗感」を受容に変えられる。この観点から、デザインは資本主義において重要な役目を果たした。
19世紀の初期、この「新しさへの抵抗感」を薄める手法として、3つのデザインの基本形が生まれた。
1. アンティーク風のキャビネットに擬態する
2. 椅子のような、用途の違う家具の内側に隠蔽する
3. よりよい世界の新しいモノとして偶像化する
本書では、当時のラジオを例に、最新プロダクトがどのようにデザインで偽装され、世間に受け入れられていったかを語っている。
プロダクトは、黎明期においては、旧来家具のメタファーを借りたり、隠蔽され、普及に差し掛かると、「未来」のシンボルとして逆にモダン化した姿があたえられた。
この時代、産業としてのデザインは、本質の偽装や改変、時代感の錯乱の手段として利用された。(「形態は機能に従う」というモットーとは逆の用途だった)。
18世紀は進歩の中和材として、新古典主義的な表現が多様された。ダーウィンのような科学者ですら、詩的な比喩を多様し、蒸気機関を説明するために(ギリシャ英雄の)ヘラクレスなどを用いた。
この章の後半では、実例としてウェッジウッドの工場と製品が論じられる。
ウェッジウッドの工場は大量生産の場所だった。だが広告上のイメージとしては、ローマ時代風の女性装飾家が集まるアトリエとして描かれた。ウェッジウッドの商品も、大量生産品でありながら、装飾陶器のような外観、手書きのような転写模様を採用した(そして転写手法のことは隠された)。
最新技術の大量生産品は、アンティークを擬態するほど支持され、売れた。
進歩のイメージは、「隠す」というデザインにより抵抗感を中和をされ、市場に受け入れられていった。
個人的メモ
この章で言及された、普及プロセスでおきるデザインの擬態は、現代でもiPhoneの進化に見ることができる。
初期のiPhoneは立体的なUIデザインを採用し、電子書籍はページめくりエフェクトなどがつくなど、「昔ながらのモノ」をメタファーとしていた。数年後、iPhoneが普及するにつれ、そのようなエフェクトは姿を隠し、より平面的かつ抽象的なフラットデザインへと変遷していったのは、記憶に新しい。
ギターアプリは、物理的なギターをもし、カメラプリは物理的なカメラを模したものが人気だった。
この本は、イギリスのプロダクトデザイン学科で、課題図書などになっていたのだが、偶然なのかAppleのデザインヘッドであるジョナサン・アイヴはイギリス出身である。
テクノロジーの黎明期から普及期かけて、新しいプロダクトが古いオブジェクトを擬態するデザイン様式は、歴史的に繰り返されているように思える。このような現象は、ブロックチェーンやVRの導入などに、大きなヒントとなるかもしれない。
すごく良い本なので、再翻訳や再販を激しく希望する。
<追記>
twitterで教えてもらったのだけど、2010年に新しい版が出たらしく。Amazonで数冊売っている模様。
2010年度版
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