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田舎の集落をDXするのに大切なこと

2023年4月より魚沼市地域おこし協力隊に着任し、福山新田という山あいの小さな集落で暮らしています。過疎と高齢化が進む福山新田では現在、集落の人口100人のうち、6割ほどが高齢者です。
この集落を数十年後も持続させるために、今後の人口減少に対応できるよう、労働生産性を上げる&業務を省力化する必要があると考えています。まずは地域の主産業である稲作から、生産性を上げられるようなITサービスを制作中です。

SEの経験を持つ筆者が地域おこし協力隊の活動としてDXに取り組む中で、田舎ならではの難しさやその対応策など、今向き合っていることについて記事にしようと思います。


1.田舎でITサービスを提供するときの課題

福山新田のような集落でITサービスを提供する上で、クリアすべき課題が2点あります。

① 低コストで導入できるシステムでなければならない
② ITが苦手な人でも利用できるシステムでなければならない

①は、福山新田が中山間地域であるが故の課題です。
平野部のように圃場面積が大きい地域であれば数百万円程度の投資が可能かもしれませんが、山間部ではそうはいきません。
数万円~数十万円レベルの投資で成果を出せるようなシステムでないと、そもそも導入することすら難しいです。(例外的に、私の場合農業用ドローンは協力隊の活動経費で導入できます。また国や市の補助金が使える場合もあります。)
そのためコストを抑えようとすると、本当に必要な機能だけに絞ったり、できるところは自作したりする必要があります。

②は、高齢化が進む地域ならどこでも生じる課題です。
イメージとして、田舎にいる60代以下の方はWordやExcelが使えるかどうかくらい、70代以上はメール、LINEのやりとりができるかどうかくらいだと思います。特に稲作はITが比較的苦手な方が多い印象があります。
折角良いサービスを作っても、それを普及させようとする時に操作が難しくて使えなければ意味がありません。高齢な方が多い地域では新しいシステムを1から覚えようとするのはかなりハードルが高いので、面倒な操作や処理はバックエンドで極力引き取り、利用者向けのUIはものすごくシンプルにする必要があります。

2.現在テスト中のITサービスについて

①のコスト面を意識して、今年度は「IoT」の技術を使った農業用の情報提供サービスを自作でテストすることにしました。提供する情報は最初「圃場の気温」をもとにした「積算温度」にしました。
IoTサービスを自作する場合、大型の機械を導入することがないのでそれほどコストはかからず、通信費もデバイス数が多くならない限りは格安です。

②ITが苦手な人も気軽にサービスを使えるよう考えた結果、LINEの公式アカウントを作成し、下の画像のようにメッセージのやりとりをしながら情報を取得する形にしました。今後提供サービスが増えていっても、このアカウントのメニュー欄を増やすことで、同じLINEアカウントから複数のサービスにアクセスできるようになります。

このアカウントを友達登録してメッセージに従い積算開始日を入力すると、
昨日までの積算温度が即座に返ってくるサービスにしました。

3.なぜ積算温度なのか

少し補足です。
そもそも積算温度とは「1日の平均気温を特定の日数分合計したもの」で、主に収穫の目安として使われます。
稲であれば穂が出てから約1000℃の積算温度があれば刈り取り適期だと言われています。刈り取りが早すぎると未成熟米が増え、遅すぎると米が割れたりするので適期を知ることは大切です。
また、野菜や果物でも播種や定植からの積算温度が収穫の目安になります。

魚沼市の稲作では、刈り取り期近くになるとJAから積算温度表が提供され週に一度更新されるのですが、観測点が福山新田からやや離れており気象条件がズレるのと、自作のシステムなら毎日更新できる上に穂が出た日を入力すれば積算温度を即座に計算できるため、テストしてみる価値はあると判断しました。

4.システム設計について

システムについては以下の図のように設計しています。
順序としては左から、SORACOMさんのサービス使って温湿度計からの気温ログをクラウドに上げ、それをAWSのS3ストレージに保持しておいて、LINEからのメッセージがあったタイミングでAWS lambdaの関数を使ってS3のデータを引っ張ってくる構成です。
テスト段階では楽に実装するため一度EXCELに気温ログを落とし、マクロで積算温度の計算をしてからS3に手動でアップしていますが、最終的にはSORACOMクラウドからAWS側へ自動的にログを渡す予定です。

温度計→SORACOMクラウド→AWS→LINEの順で気温データを提供しています。

計測機器はリンクの記事を参考に自作しました。
https://fabcross.jp/category/make/20220630_solar_iot.html

ソーラーパネルから電気を取り、鉛バッテリーで蓄電しています。圃場近くにも設置可能です。

気温計測用の試作機。

5.テストの結果

テストは8月初旬~10月初旬まで、稲の出穂~収穫期に行いました。
2023年は8月に晴れで気温が高い日が続いたため、積算温度は9月のかなり早い段階で1000℃に到達しました。今年のように極端に暑い日には「刈り取りを早めてください」という警鐘の意味で役立ったのではないかと思います。
一方で正確な気温を取ることの難しさも感じました。ソーラーパネルの日陰とケースにファンを装着することで対策を取ったつもりでしたが、結果的には計測機器の温度がやや高く出すぎてしまいました。今後、計測機器をどう改善するか悩み中です。
ちなみに、このテストは集落の回覧板で周知したのですが、LINEの友達登録をしてくれた方は8名で、福山新田で米作りをしている方の半分弱くらいだと思いますので、そこそこの結果だと思います。

6.田舎の集落でDXするのに大切なこと

最後に。
今年の協力隊の業務を通して、田舎の集落でDXするのに大切だと思ったのは、DXを過信しないことです。「とにかくITを導入しよう、ITに任せておけば何とかなる」というのは幻想だと、常に意識しておくべきです。

近年のIT化の流れの例に漏れず、農林業分野でも「スマート化」が叫ばれて年々新しい製品やサービスが提供されています。
しかし現状、利益の追求のための付加価値付けとして現場の需要を理解せず大して意味のないサービスが提供され、農機の価格だけが上がっていくような流れがあるように思います。農家も国や自治体の補助金が下りるからと、安易に高額なスマート農機に手を出してしまうようです。
ITは便利な道具ですが、導入にも維持にもコストがかかります。まずは現場の数ある作業の中から、特になくしたい大変な作業やあってほしいサポートを調べ、その需要に応じた導入の判断をする、きっちりとした下調べが必須です。

集落にとって良い選択ができるように、今後も協力隊としてDX促進のための活動を続けたいと思います。
それでは!


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