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#adtechtokyo 富永氏による「明日からマーケティングに生かせる行動経済学」。参照点の大切さ

どうも、フクパンマンです。

アドテックレポート第七弾は、富永氏による「行動経済学とマーケティング」という学術的なセッションを、明日からマーケティング生かせるようにまとめ直してみました。

マーケティングを「人間に認知・態度・行動変容を起こすこと」と捉えたときに、行動経済学・心理学などがどのように戦略立案・試作設計に援用可能かを考察するセッション

とあるとおり、学術的なにおいがプンプンでちょっと敬遠してしまいがちなセッションですが、非常に本質的で絶対知っておいた方がいいのでまとめてみました。

概論中の概論を、非常にわかりやすく噛み砕いてお話いただいている印象ですが、それをさらに素人が見てもわかるように書き下しています。そのためちょっと違うよ、という点もあるかもしれませんがご了承ください。

行動経済学×マーケティング、正直言ってかなり参考になります。ぜひ皆様の明日からのマーケティングにお役立てください。どうぞ。

※2020/11/4 11:00、富永さんからご指摘いただき文章を一部変更しております。失礼いたしました。

まずは、行動経済学は何か

「人は合理的ではない意思決定をするときがある。人間の非合理性、決定する時のバイアスを理解し、ユーザーの意思決定を促していこうというのが行動経済学。

と、まず行動経済学を一言で言い表していただきました、わかりやすいですよね。一見、人を操るかのように聞こえますが、消費者にストレスがかからないようにし、心地よい選択をしていただくということです。富永氏は、こう続けます。

「行動経済学は『人間理解』できるツールである。人間に何かを働きかけ感じてもらい態度を変えてもらうのがマーケティングだとすれば、つまり人間が刺激に対しどう反応するのかを理解したほうがよい。

行動経済学ではなく心理学(社会心理学)の話だが、例えば返報性。デパ地下で試食したら買わなきゃいけなくなるような心理。もしくはマズローの欲求5段階説も有名。心理学は行動経済学と分野は異なるものの、包括的に人間理解に役立てるという観点で重要。」

人の嫌なところをつくわけではないですが、どういう刺激に反応するのかを全く理解しないでマーケティングするのはただの無駄です。そういう意味でも行動経済学は重要ですね。

もっとも重要な概念は「参照点」

続いて、行動経済学でもっとも重要な概念の「参照点(リファレンスポイント)」について話されました。ここ、一番大事です。

「たとえば30歳で年収1,000万円は一般的にはすごいと感じるが、隣に28歳で1,100万円の友人がいたらどうだろうか。「判断の基準」、これが参照点。人は何かと比べて判断する。

例えばあなたが新聞をとるときに、以下の選択肢があるとしよう。
  ①Webだけ…500円
  ②Web+紙…5,000円
だけだとほぼ全員がwebだけにするが、
  ①Webだけ…500円
  ②Web+紙…5,000円
  ③紙だけ…4,850円
と、3つ目の選択肢が入ると、急に「Webが150円で読める」という感覚になり、②を選ぶ人が増える。③はだれも選ばないが、あることで②の選択を生む。前者の参照点は①だが、後者の時は参照点が③になるということ。何と比べられるかを考える。」

この参照点のコントロールがとにかく大事で、おそらくほとんどのマーケターにおいてそこまできちんと理解されてないのでは無いかと思います。参照点、明日からさっそく考え始めましょう。

認知コストと処理流暢性

次に、脳の情報処理に関する二つの基本が述べられました。

「人の脳の性能(CPU)には限界がある。ふたつの代表的な性質がゆえん。

認知コスト…意思決定に伴って情報処理しないといけない、脳の負荷。数が多すぎたり難しいとめんどくさいと感じて脳が考えるのをやめてしまう。
処理流暢性…人は流れるように入ってくるものを好む。既視感、既読感があるものを好み新しいものは受け入れにくい。

ジャムの展示個数の話がある。ジャム売り場に200種類あるとしても、全てを並べては売り上げが上がらず、実験すると
・お客さんが一番立ち止まってくれる商品数…18~20個
・買ってくれる商品数…よく見かけるジャム6~7個
という結果に。認知コストを減らし、処理流暢性を優先したほうが売れるということが立証された。」

人間の脳を理解し、脳にとって優しく伝える。これはホームページやバナーのクリエイティブにも言えそうです。

マーケティングにおける行動経済学の活用

具体的に、参照点、認知コスト、処理流暢性を意識した時に起きやすい反応について、何個か事例をまじえてご紹介いただきました。どれも非常に面白いです。

「顧客の脳の中で何と比べるか、どのように比べるか?人の参照点は揺らぎやすい。ドミノピザの競合はピザーラではない。ファミレスともコンビニとも競合する。コンテクストをどこにもっていくかという議論とは別に「参照点をどこにおき、どう伝えたら人は動きやすくなるか」という話。何個か代表的な行動経済学の技法を7つ紹介しよう。

(1)アンカリング(参照点のコントロール)
  ①30分遅れるといって40分後に来る
  ②1時間遅れるといって50分後に来る
経済的合理性からすると①だが、②のほうが印象がいい。お客さんの心にどこでアンカ(イカリ)をおろすか。今なら50,000円オフ!も、最終的な価格から50,000円高めに設定するというアンカリング。

(2)フレーミング(参照点のコントロール)
・100症例ある心臓手術、あなたはどちらの説明なら手術を受けるか?
  ①50人が成功し5年後も生存
  ②50人が失敗し1年以内に死亡
言っていることは同じだが、②では誰も受けない。トレードオファーをするときの工夫。

(3)損失回避(無意識の処理流暢性)
  ①50万円が確実にもらえる
  ②50%の確率で100万円がもらえる
この場合は①が多い。
  ①必ず50万円支払う
  ②50%の確率で100万支払う
この場合は②が多い。人は損することを嫌う度合いの方がはるかに多い。損失を回避するオプションを自然と取りたくなる。
「プロスペクト曲線」によると2倍くらい損失の方がインパクトが多い。

(4)初期値効果(処理流暢性の活用)
臓器提供への同意率がヨーロッパでA群とB群にわかれる。A群は4-28%、B群は86-99%。違いはA群は「基本的に同意しません、同意する場合はチェック」、B群は「基本的に同意します、同意しない場合はチェック」となっているだけ。価値観や宗教観でかなり影響するテーマに感じられるが初期値だけでこんなにかわる。

(5)人は反証したくない(処理流暢性の逆説的アプローチ)
「【母音の裏に偶数が書いてあるという仮説を検証するには、E K 4 7 のどれをめくって確認する必要があるか】というお題がある。」

※下で回答を見る前に、ぜひ皆さんも一度やってみてください

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「正解はEと7
Eからめくり、次は4をめくると答える人が多いと思う。
人は仮説を立証するとき、仮説が間違っていることを疑って検証する苦手なので、7をめくることがなかなかできないからだ。
この場合、「7をめくって母音が書いてあったら仮説が間違っていた」という考えに基づくため、心理的に抵抗が出てしまう。

人は間違っていることを証明することが嫌い、というのは非常に面白いですね。商品やサービスを訴求するときに、自身の否定をしないようにするということは非常に重要だとわかります。

(6)このチラシは効いたのか?反証の準備を怠らない

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新しいチラシを試さなかったパターンを無視してしまう。反証をしっかり受け入れる準備をしておく。

(7)人は現状維持をすることが好き(処理流暢性)
人は現状を変えるようなオファーを嫌う。8割は変えたがらない。
聞いたことがないことは処理流暢性が低いので、それだけで引っかかってしまう。
また、知っていることを参照点としてしまう。去年は?競合はどうなの?と自分が知っていることと比べたくなってしまう。しかし既に去年や競合のことを気にしている時点で処理流暢性の枠の中にいる。」

これらの理論と例を見ても、参照点と脳のCPUコントロールは重要だとおわかりいただけると思います。

行動経済学とモラル

最後に、行動経済学のマーケティング活用における注意がありました。

「行動経済学を知ったうえでマーケティング施策をすると、よりよいオファーができるようになる。一方、人間の性質をマーケティングに使うことは悪用になるのでは?という議論がある。

・知らないことが悪用につながる可能性もある
・透明性が重要。原価を知らせておきながらコミュニケーションするなど
・モラルをもって運用する。知識を正しく身に着ける

上記の三つをしっかり守れば、知っていた方がいいに決まっている。」

私も聞いていて行動経済学は本当に面白いと思う反面、使い方を間違えると怖いなと思ったので、このモラルは非常に大事だと感じます。

今回の話は序章です。様々な、奥深い理論と実践が行動経済学にはありますが、まずは「参照点」から始めることが大事ですね。

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それでは、んちゃ。

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