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応病与薬としての仏教

1.仏教とは

前回の内容から大きく外れてしまうが、少し仏教について考えてみたい。

なぜかというとあまり表立った理由はないが、巷であふれている仏教関連書籍の「心が落ち着く」「ストレスが無くなる」「生きやすくなる」などの触れれ込みに疑問を常々抱いていたから、少し言及したいと思ったからである。


ではそもそも仏教とは何か。


様々に定義でき、学者の数ほど定義があると言えるかもしれないが、ここでは仏教を「仏の説いた教えであるとともに、仏になるための教えである」*1と考えておきたい。

この定義の、仏とは、教えとは、仏になるとは、説くとはどのようなことか、説く相手とは、・・・などの疑問が生じるが、このような疑問に答えを与えようとすることが仏教の歴史であるとも考えることもできる。


定義については一応述べたが、実は「仏教」という用語が広く使われ始めたのはごく最近、といっても明治以降であることが分かっている。

まず、「宗教」という用語であるが、これは「religion」の訳語として作られたものであり、1858年の日米修好通商条約にはじまる通商条約のなかで「religion」を如何に訳すかという中で、採用されたのである。

そして「仏教」も明治以前は仏教を表す語として主として「仏法」や「仏道」などが使われていたが、「宗教」の下位概念として「仏教」とい語が徐々に使用され定着していったという。

このように「仏教」という語が使われたのは明治以降であり、普段「仏教」といってなにか古くからあり威厳のある感じがするが、語としてはここ200年ぐらいで使われ始めたのである。

普段使用している言葉は、「私」が習得し「私」という一点が使用するため、言葉そのものの歴史性は感じることはあまり、言葉にも当然歴史があり、その歴史を意識しないと正確に思考できないこともある。

「仏教」という語はよい例であるので、少し触れた次第である。



2.応病与薬

仏教、特に釈尊の説法の特徴の一つとして「応病与薬」というものがある。

釈尊が成道後入滅に至る四十五年の間は説法の生涯であっ
た。その説教はいわゆる「応病与薬」「対機説法」であった
と伝えられている。*2

「応病与薬」つまり「病に応じて薬を与ふ」であり、「対機説法」は「機に対して法を説く」である。

機とは素質という意味があり、仏道を受け入れ実践する能力・素質を「機根」というがここでは広く能力と考えてよいであり、「対機説法」とは相手の能力に応じて法つまり教えを説くということである。


「応病与薬」としての仏教を考えるといくつかの見方が得らる。

・説法=仏教が薬ならば、病になっていない人には無用であり、もしかすると有害になるかもしれない

・病には原因があり、その病に対して薬を出すという方法では対処療法にしかならず根本的は病の解決にはいたらないのではないか

つまりは仏教になんらかの興味を持った時点でその人は病に罹っており、考えなくてはいけないのは、なぜ仏教に興味を持ってしまったのかという、仏教に至る前段階の状態についてではないかと思われる。

本当に病んでる人が、仏教という薬を摂取したとしても対処療法的にしかならず、再び病むかもしれない。

重要なのは、症状の原因を探り改善することであるので、仏教ははたしてそこにコミットすることができるのかと感じる。


「心が落ち着く」「ストレスが無くなる」「生きやすくなる」との触れ込みで薬としての仏教を摂取しても、再び病むかもしれない。

やはり考えなくてはいけないのは仏教に関心を持つ以前の状態であり、より根本的な思考の癖や生活の状況などを改善する必要があると思われる。


ちなみに仏教の基本的は要素として「出家」というものがある。これは「出世間」つまり世俗的なもの、ルールから脱することを意味しており、仏教というなのもとに、社会生活で生きやすいような処世術を吹聴しているような文言には違和感を感じるのである。

仏教は社会においてうまく立ち回ろうというものではないが、日常生活で活用できる考えもあるといえばあるし、出世間的な事柄について考える際に示唆に富む宗教であることは付記しておく。


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註釈

*1 松本史朗,『仏教への道』,東京書籍,2012,p10

*2 葛野洋明,「釈尊の説教「応病与薬」と浄土真宗の伝道」,『印度學佛教學研究』,第五十巻,第一号,日本印度学仏教学会,2001,p.182


参考文献

クラウタウ、オリオン、「第八章宗教概念と日本ーReligionとの出会いと土着患想の再編成」,『シリーズ日本人と宗教 ー近世から近代へ 第二巻 神・儒・仏の時代』,春秋社,2014,pp.241-267

長沼美香子,「文部省『百科全書』における「宗教」」,『言語情報科学』,13巻,東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻,2015,pp.121-128






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