【通学カバンを科学する】#5 本質を探りながら開発を続けていく。新代表・橋本昌樹が描く未来
ランドセル国内製造販売本数No.1※ブランド『フィットちゃん』の魅力を伝えるnote。#5では、2021年から新たに代表に就任した橋本昌樹が、就任前後の思いや今後の展望を語ります。
【通学カバンを科学する】#1〜4はこちら▼
#1 私たちがつくっているのは、道具としてのランドセルではない。
#2 100メートル先まで存在を知らせる!『安ピカッ』誕生秘話。
#3 軽く感じる!『楽ッション』誕生秘話。
#4 軽いのに、高機能。『ゼロランド』開発への挑戦
1.現場目線を学んだ『GU』時代
−前職では『GU』にいらっしゃったそうですね。
そうですね。東京の大学を卒業して、2014年に新卒で入社しました。半年後に山形に異動になり、次に栃木の新店の立ち上げに関わって、その後店長として長野の店舗に配属されました。在籍期間はトータルで2年になります。
−そもそもなぜ『GU』に入ろうと思ったのでしょうか?
それが、当時あんまり真面目な学生じゃなくてですね。やりたいことも特になかったので、就活したくないな〜とか思いながら、父に「ハシモトグループに就職させて」と言ってみたら、普通に「だめだ」と。
−後継者になることは前もって決められていたわけではなかったんですね。
子どもの頃は「ゆくゆくはお前が継げ」と言われていたんですけど、途中から自然と言われなくなりましたね。私には姉が二人いまして、彼女たちと違ってそんなに優秀ではなかったので。それでも「3年後、うちに入れてもいい能力がお前に身についていたら考える」と言われたので、早いうちから自分の能力が伸ばせて、かつ、ハシモトグループのように自社のブランドを持っている企業がいいなと思って、『GU』の新卒採用に応募しました。
−『GU』をはじめとするファーストリテイリングのグループ企業は、一人ひとりの能力を細かく数値化して、多角的に評価する制度が整っていると聞きます。
前職ですごく勉強になったなと思うのは、どれだけ本部からいいアイデアが出ようが、やっぱり現場の意見には勝てないということです。お客さまと直接関わる人たちの声をしっかり取り入れないと、どれだけ大きな会社でもうまく回っていかないんですよね。なので、みんなが意見を出しやすいように風通しをよくするっていうのは、今でもずっと大事にしていることです。
2.どうすれば会社に貢献できるか
−そこからハシモトグループに入社した経緯は?
『GU』で少しずつやりがいを感じ始めた頃、入社して1年半くらいで大きなステップアップの話をいただいたんです。そしたら父が「もう帰ってこいよ」と。自分としては新しいチャレンジにワクワクしていましたし、もっと学びたいこともたくさんあったんですけど、「俺の横にいる以上に面白い場所はないぞ」と言われて、期限の3年を縮める形でハシモトグループに入りました。でもそこから半年間、これといった仕事は与えられませんでした。「何をやればいいですか?」と父に聞いても、「そんなの自分で見つけろ」としか言われず、ずっと机の前に座っているような状態。そこでまずは、ものづくりの基本を学ぶために工場に入りました。
−前職で学んだ“現場目線”ですね。
現場を知っていないと何も言えないなと思ったので、生産を一通り見せてほしいとお願いして、しばらくの期間、工場の全業務に携わり、流れを把握した後に営業として本部に戻りました。でも実際、私には担当の営業先がないんですよ。営業の場所にはいるけど、やることは荷物の出荷くらいしかないっていう。このままじゃ自分がいることのメリットを発揮できないし、会社に貢献できていないという焦りがあったので、まずは現場の声を積極的に聞いて、社内体制の改善に取り組みました。
−具体的にはどんなことですか?
『ハシモト商店プロジェクト』っていうのを自分で勝手に立ち上げまして、生産本数の伸びが悪い点や、社内ルールが曖昧なところなど、自分が思う問題点を全部書き出しました。A4用紙2枚分くらいになりましたかね。そこから、「これってどう思います?」「あれってよくないですよね」と社内の色んな人に声をかけて、少しずつ意見を集めながら改善策を実行していった感じです。
−バイタリティにあふれていますね。もともとそういう性格ですか?
いや、そんなことないです。期待されるような回答ができなくてすみません(笑)。会社に何も貢献できていないという焦りの方が強かったですね。
−その他、新たに取り入れたことなどはありますか?
これは今でも続けていることですが、メンバー全員との面談です。パートさん含め、工場だけでも150名ほどの社員がいるんですけど、もちろん私一人では手が足りないので、各ラインの部門長とも密に連携しながら、毎月最低でも一人につき15分、今の業務の状況だったり、困っていることや要望はないかを聞くようにしています。あと、個々のスキルを会社として把握しきれていない部分があったので、先程のお話にも出た前職の評価制度を参考にして、一人ひとりの成長を見える化する「スキルマップ」を導入しました。
−どういった内容ですか?
生産の各部署に所属しているメンバー全員に対して、“何月までにこのスキルをここまで上げる”といった細かい年間計画を立ててもらい、毎月どこまで達成できたかを評価していく方法です。「スキルマップ」があることによって個人の目標が明確になるし、全体のスキル向上にもつながります。
−モチベーションも上がりますね。
そうなんです。“ライスワーク”と“ライフワーク”のバランスって大事だと思っていて、どこまでいってもやっぱり仕事をしないとご飯は食べられないので、1日の3分の1ほどの時間を費やす職場が、社員にとって有意義な場所であってほしいんですよね。そのためには、成長を実感できたり、みんながコミュニケーションを取りやすい環境を整えることが重要だと思います。
−ハシモトグループの社員はどんな人が多いですか?
みんなすごく真面目です。入社してまず一番驚いたのはそこかもしれません。どうやったらもっとよくできるかを、しつこく、しつこく考えるんですよね。打ち合わせも中途半場に終わるようなことは絶対にないし、普段お客さまと接する機会の少ない工場でも“お客さま”というワードが頻繁に出てくるんですよ。一般的な製造業だったら、そんなことってあんまりないんじゃないかなと思います。『ハシモト商店プロジェクト』にもみんな協力的でありがたかったですね。根底にある子どもたちへの思いと、目的意識がしっかりしているからこそ、同じ価値観で進んでいけるのかなと思います。
3.渋柿か甘い柿かは、食べてみないとわからない
−代表就任までにはどんな経緯がありましたか?
いくつかフェーズがあって、最初の2年半くらいは“1を10にする”フェーズで、先程お話しした会社の中身の改善ですね。そこを一通り終えた後に、全く新しい機能の開発などを手がけて、就任の1〜2年前くらいから経営に関わる数字面を見つつ、マーケティングにも携わりました。それで2021年にハシモトグループが創業75周年を迎えまして、私も30歳になったので、いい節目だということで代表就任が決まりました。
−厳しい先代にも認められたということですね。
どうなんでしょう…。まだまだ指導を受けることも多いですが(笑)。
−何か助言的なことはありましたか?
就任する時というよりは、父には昔からよく「渋柿か甘い柿かは見てもわからないから、とりあえず食べてみろ」と言われていました。父も私の祖父から言われ続けていた言葉だそうで、「食べてみて渋かったら吐き出せばいいし、命までは取られないんだから、とりあえずやってみろ。それが商売だ」と。
−その言葉が今の仕事に活きていますか?
そうですね。ここは父と似ているところなのかもしれないですけど、とにかくずっとランドセルのことを考え続けているので、色々とやりたいことが浮かぶんです。なので新しいアイデアが生まれたら、その都度、まずはやってみます。社内のメンバーに対しても、現場で何か停滞しているようなことがあれば、とりあえず聞いてみようよ、やってみようよというスタンスで接するようにしていますね。たぶん、お客さまのニーズの本質を探りたい気持ちが強いんだと思います。
−本質とは?
例えば「軽いランドセルが欲しい」という声があった時に、じゃあ軽ければそれでいいよねっていう製品づくりは、全く消費者目線じゃないと思っていて。そもそも“消費者”という言葉自体も好きじゃないんですよね。一人ひとりの感覚は違うのに、そこを一括りにするのって、すごく違和感があるというか。ある意味、そうした違和感が『楽ッション※』や『ゼロランド※』のような新しい機能の誕生につながったのではないかと思います。誰に向けた製品なのか、何のためにやっているのかという軸は、常にぶれないようにしたいですね。
※「楽ッション」「ゼロランド」の開発秘話はこちら
4.自分の子どもに自慢できる仕事
−代表になって大きく変わったのはどんなところですか?
現場第一の姿勢はずっと変わりませんが、舵取りの責任は当然重くなりました。自分の上に承認者がいないっていう状況なので、迷う時間は増えましたね。今まで“決定”だったことが“決断”に変わってきたかなと思います。
−率直に、楽しいですか?
会社を引退する時に楽しかったと思えればそれでいいかなというのが、今の正直な気持ちですね。かつ、それは社員に対しても思っていることで、定年まで働いても、途中で転職することになっても、うちを離れる時にはみんな、ここにいてよかったと思ってもらえたら嬉しいです。
−そのために心がけていることはありますか?
先程の“消費者”と一緒で、働く人もそれぞれ感覚が違うし、会社に求めるものや、人生における仕事の優先順位も違います。ただ、その中でも大切にしてもらいたいことが一つだけあって、「自分の子どもに自慢できるような仕事をしましょう」っていうのはみんなによく言っていますね。会社を継続していくためには、健全に利益を出していくことが必要なので、時には一部のお客さまの要望に応えられなかったり、コストの観点から対応に悩むことも出てきます。判断に迷った時には、「これって子どもに言えることですかね?」とみんなに投げかけて、意見をもらうようにしています。その積み重ねが、みんなの人生にとって納得のいく仕事だったり、ここにいてよかったと思える会社づくりにもつながる気がするんですよね。
5.人生のスパイスのような存在になりたい
−新代表として、今後の展望を教えてください。
ランドセルはもちろんなんですけど、会社全体のスタンスとして、「スパイスのような存在になりたい」って私はよく言っています。
−どういうことでしょう?
スパイスカレーが好きでよく作るんですけど、カレーって一定のスパイスがあれば成立するんですよ。でもそこにクミンとかカルダモンとか、さらにスパイスを加えていくと、加えた分だけ奥深さが増すんです。物事を必要か不必要かだけで判断するのって、すごくつまらないと思っていて。だったらもう、それは人間じゃなくて動物と変わらないなって。別に荷物を運ぶだけだったらスーパーのレジ袋でいいし、車はシェアすればいいし、旅行だって行かなくていい。でも、そういうものをいかに楽しむかが、人生の豊かさだと思うんですよね。私たちが扱っているのはインフラではないですし、極論必要ないと言われてしまうのかもしれないけれど、人生に豊かさという深みを出す“スパイス”になれるように、時代の変化に合わせたランドセルの開発はもちろん、新たな事業にも挑戦し続けたいなと思っています。
−素敵ですね。ただ私のような天邪鬼な人間からすると、ちょっと眩しすぎる回答です。
正直、私もめちゃくちゃ天邪鬼ですよ。ただ、自分が生きている中で、人のためにならないよりはなった方がいいよねっていうシンプルな答えに行き着いたんですよね。だから、誰かの幸せをつくりたいとか、そんなかっこいいことではなくて、新しい靴を買ったからお出かけしたいとか、髪を切ったから友だちに会いたいとか、本当にそういう小さなきっかけになれればいいかなと。人生の主人公は、あくまでもその人本人なので。
−では最後に、今後採用面にも力を入れられると思いますが、どんな人と一緒に働きたいですか?
いくつかあるんですけど、一つは、前向きな人。新しいことをまずは一緒にやってみようと思ってくれる人だと嬉しいですね。二つ目は、自分の人生を大切にしている人。誰かの人生のきっかけづくりをするためには、自分の人生も豊かにしたいと思える人であってほしい。あと、主語が“自分”にならない人。お客さまにとってどうなのか、会社としてどうなのかという目的をぶらさずに、本質を見極められることが重要かなと思います。外側のキャラクターは、真面目でも破天荒でも、どんな人でも大歓迎です!
−これからのハシモトグループも楽しみですね。どうもありがとうございました!