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日本酒、書、そして迷走

昔は字を書く仕事をしていて、日本酒を飲む一番の理由は勉強だったんです。酒蔵さんが造っているお酒の字を書くんだから、知らないと失礼だと思ったので。。

いろんなところで買ったり試飲したりで、今まで飲んだ酒蔵は700にもなった。飲みすぎ。

味を知るためと言いながら、酒が好きなだけじゃないの。。

いやいや、酒蔵の方々のお眼鏡にかなうためですよ!

酒蔵の方々は、蔵主をはじめ、いままで色んな字や美術を見ている人が多い。

「あのな、偉い書家の先生に書いてもらったからって、それが売れるわけでもないんや」

「やっぱ酒やからナ。色気がいるわな」

「だから、キミみたいな若い子でもなんか書いてみ」

私は、字が好きで書家になったので、
やっぱり天才的な美しい字が書ける歴代の能筆家に憧れはありました。

ただ、

「書家は八十歳すぎてから」

とか、

犬養木堂(毅)の「木堂書翰」の中での

「書は面(つら)の芸である」

という発言とか、

魯山人は「魯山人書論」で、

「いわゆる書家の書、には何の価値もない」

という話を聞いていると、要は、

技術を磨くだけではつまらなくて、
精神の解脱した字が良いんだろうな、
とは思っていました。

名手酒造店 黒牛

そして改めて、蔵主さんの言う、
「イロケ」のある字って何だろうかと考えましたが、
永く人を魅了する字、
見た人に寄り添ってくるような字?

隙はあるが、ダラしなくない。
一見素人っぽさもあるが、ド素人ではない。

ヘタウマ、でもない。ヘタなのはダメ。

面白い、だけでもダメ。
それはただふざけてるだけ。

若者にはむずかしい。

500回くらい書いて、
「意識」を飛ばすことにした。
これでも毎回は成功しない。

まだダメだ。。
なんか闇雲感がある。。

・・・人生経験はすぐに増やせないけど、
藝術とかを勉強することはできるぞ!

と、少しでも経験をカバーできないかと思って
ちょっと迷走、逃避する。


西出酒造 小松人


美術とか哲学とかの本に手を出すことになって、たくさん読んだのですが、

結局、

■「藝術とはなにか」
   福田恆存著
■「美と芸術の理論 カリアス書簡」
   F.フォン.シラー著

この2冊が短いわりには、
人が感動する美しいものとは何か、に対する答えのようなことが書かれていて、心に残りました。

他には、
三島由紀夫のインタビューを収録したテープ。

「美とは何ですか?」

「それは・・・力ですね。
 内にたわめられた力、です」

というのも1つのヒントになりました。

また個人的にも、なんか考えをまとめて、

「人間が、"なぜ美しいか" の理由を説明できるものは、ほんとうは美しくない」

「なぜ"散りゆく桜"は美しいか。
 あまりにその美の構造が複雑で、
 なんとも説明できないから。
 人智を超えたものだから」

というふうに、美とは何か、だけでなくて
上記の「美しいと感じる条件」も、
美術作品、自然現象、人間の行動に至るまで、
すべてに当てはまるなと納得しました。

いい字を書く、という当初の目的はどこかに行ってしまい、遠回りしましたが、
この迷走はのちに役に立ったなあと思います。

あれ以来、今もそんなに考えは変わっていません。

本業としての書家はやめてしまったし、
字は大して上手くなっていませんが、
ちょっとはツラの芸ができるようになったかな。。

とりあえずお酒飲んで書けばいいのかな。

進歩なし

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