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友人の結婚式

その日私は、いつもよりめかし込んで家を出た。友人の結婚式に出席するためだ。

誰かの結婚式に招待されるのは今回が生まれて初めてだった。パーティー用のドレスを持っていなかったので、今回にあたって新しく購入した。右半身がレース、左半身がサテン生地になっていて、バックリボンのついたピンク色のドレス。ヘアセットとネイルはそういったことが得意な妹にお願いした。ピンクとゴールドをベースにしたガーリーなネイルに、髪はくるくるにまいて三つ編みのハーフアップ、仕上げに金魚の尾びれみたいにひらひらしたリボンを結び、パールのついたピンをところどころに散りばめるように挿してもらった。私なりの「いちばん可愛い」格好で、友人夫婦が待つ式場へ足を運んだ。

式の準備の真っ最中に共通の友人みんなで食事に行ったときに、友人は「みんなのおめかしした姿が見られるのが楽しみ」と嬉しそうに言っていた。彼女の言葉に応えるために、精一杯のおめかしをしてみた。

友人は、私が大学生だったころ所属していたサークルの同期だ。この日は、私を含め当時サークルで仲が良かった女友達数人で式に招待されていた。

今回は、新婦である友人の話をしたいと思う。彼女は吉瀬美智子に雰囲気が似ているので、美智子、もとい「みっちゃん」とここでは呼ぶこととしよう。

みっちゃんは、大学時代のサークルで私が一番仲が良かった女友達だった。私は人付き合いが極度に下手なので、小学校、中学校、高校、大学とどの段階に進んでも友達が少なかった。友達がいないから性格が暗くなるのか、元から性格が暗いから友達がいないのか、それはよくわからないが、とにかく私は暗かった。周りから見た私は多分、話しかけづらい子、絡みづらいやつ、そんな感じ。

とはいえ私も社会で生きていくうえで最低限のコミュニケーション能力は身につけているつもりなので、部活やサークルなどのコミュニティで一緒になった人とは、周りの人が皆優しい人ばかりだったのもあって良好な関係を作ることができた。ただそうは言ってもどう頑張っても根っこの人見知りは完全に消えることはなく、どのコミュニティにもいる「大人しい子」のポジションからは抜け出せないのだった。

そんな「大人しい子」ととても仲良くしてくれたのがみっちゃんだった。みっちゃんは、サークル内でもみんなの憧れだった。美人でスタイルが良くて、謙虚で優しくて、社交的で話が面白い、彼女はそんな完璧な女の子だった。後輩も同期も先輩もOBも、みんなみっちゃんのことが好きだった。

みんなの人気者は他の全員に対するのと同じように、人見知りの少女ともとても仲良くしてくれた。私たちが仲良くなったことに関して、きっかけは些細なことだったと思う。サークルの練習場所への行き帰りの道で話す機会が多かったこととか、長期休暇中の合宿で係の仕事のため皆より食事の食べ始めの時間が遅くなってしまうみっちゃんを待って毎食2人で食堂に残っていたこととか、そんなありふれた友情の始まり方だったんだろう。でもその中でも特に、私と彼女を強く結び付けてくれたのが、美容やコスメに関することだった。

私とみっちゃんは趣味が合った。二人とも美容に対する興味が強くて、化粧品が好きだった。練習の休憩中に、いま欲しい化粧品について話したり、ネイルにはまってそれぞれ好きな色のマニキュアを買い漁ったことを覚えている。いつも綺麗でキラキラ輝いている彼女を見ていると、私の方まで綺麗になれる気がした。実際、彼女と美容やコスメについて話したり恋バナをしたりすることで、自分の中の女の子の部分がどんどん磨かれていって、綺麗になることへのモチベーションが上がっていた部分はあったと思う。もし彼女も同じように思ってくれていたとしたら、すごく嬉しい。

私は、みっちゃんのことが好きだった。それは友達同士としての好意だと今になっては言えるが、実は当時はそれが恋愛感情に近いものなのではないかと考えたことがあった。それほどまでに、私にとって彼女の存在というものは大きかった。彼女と二人で過ごす時間は、穏やかで、それでいて刺激的で、でもやっぱり彼女の笑顔みたいにふわりと優しい時間だった。

みっちゃんとは、2回ほど2人で飲みに行ったことがある。大学時代からの付き合いの中で2回と言うとずいぶん少ないように聞こえるが、極度の話下手の私が誰かと1対1で食事や飲みに行くというのはとてつもなく稀有なことなのである。話すのが得意でない私は、ある程度仲がいい相手でもしばらくすると会話が止まってしまう。その場に3人以上いれば私以外の人で盛り上がってくれればいいので気が楽だが、1対1となるとそうはいかず、気まずい時間を過ごした回数は数えきれない。そんなわけで、私がこれまでに1対1で食事や飲みに行ったことがあるのは、家族と恋人を除けばみっちゃんと職場の同期の友人の2人のみ。その時点でどれほどみっちゃんが私にとって大事な友人かが分かってもらえると思う。

話は結婚式のことに戻るが、披露宴の進行の中で、夫婦のなれそめ、交際の経緯、プロポーズの場面について紹介される場面があった。二人の交際は大学時代に始まっていたので、私もみっちゃんから当時は恋人であった新郎さんについての話を聞くことがよくあった。彼と行った場所、彼と食べたもの、彼の好きなもの、色々な話を聞いてはいたが、今回改めて結婚式という場で恋愛関係/現在は夫婦という関係にある二人の話を聞くと、なんだか熱いものが胸の奥からこみ上げてくるような感じがした。大好きな友人が、心から愛し合える人と出会えて、楽しい思い出をたくさん作って、これから待ち受けている幸せな未来に向かって歩んでいくことができて、嬉しかった。好きな人が好きな人と幸せに暮らしていることが、本当に幸せだと思った。新郎の方に対する嫉妬みたいな変な感情がちょっと混ざっているのを感じた時は、我ながらちょっと笑ってしまった。でもそれほどまでに、彼女の存在は大きいのだ。

昔、みっちゃんが私にくれた言葉で、いまだに強く覚えているものがある。彼女は、「雪ちゃんの、人の悪口を絶対に言わないところをとても尊敬している」と私に言った。正直言って、私は人の悪口を全く言わないわけではない、と思う。精神的に余裕がないときなど、家族や恋人には、仕事に関する愚痴などを言うこともある。でも、そうでなければできるだけ多くの人の気持ちを想像し、広い心をもって人と接するよう心掛けてはいる、つもりである。多分そういうところを、彼女は感じ取ってくれていたのだろう。彼女が尊敬していると言ってくれた私の長所を、ずっと大事にしていきたいと思う。

みっちゃんのことについて考えを巡らせていたら、美容やコスメへの興味がまた沸いてきた気がする。最近は社会人としての生活に追われて、自分の外見に対して時間とお金と手間をかけることを少し忘れていた気がする。でも今回目一杯のおめかしをしたら、「可愛くなるのってやっぱり楽しい」とあらためて思えた。今よりもっと可愛くて綺麗な自分になったら、きっと自分のことももっと好きになれる。好きな人にももっと好きになってもらえるかもしれない。そうだったら嬉しい。

そういえば、以前みっちゃんと「一緒に百貨店に化粧品を買いに行きたいね」と話したことがあったが、いまだ実現しないままだ。きっといつか、実現できたらいいなと思う。

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