見出し画像

目黒寄生虫館

目黒寄生虫館とは、名前の通り東京都目黒区にある寄生虫を専門に取扱う博物館です。寄生虫に関する研究展示標本や資料の収集・鑑定啓蒙活動等を行っており、世界でも珍しい寄生虫専門博物館です。“寄生虫専門”という珍しさから、多くのメディアで取り上げられています。ここでは、私が専門家(一応)として目黒寄生虫館を訪れた時の話をします。(写真などは、少々古いです。)

博物館の役割

普段私たちが博物館を訪れる理由は、展示物を見て、多様な分野への理解を深めるためではないかと思います。その一方、博物館には学術資料や美術品などの保存という役割があります。これは、後世の人々の研究や教育のために行っています。しかし、この保存してある資料を見るのは専門家だけになります。いわば、博物館の裏側というべきでしょうか?

2階にあるパネル展示と液浸標本

常設展示

1階と2階が常設展示室として開放されています。1階は「寄生虫の多様性」がテーマになっています。寄生虫が動物群ごとに分けられて、エタノールで固定された標本が並んでいます。詳しいことは割愛しますが、寄生虫という動物のグループはいません。甲殻類のようなエビやカニの仲間の寄生虫もいれば、アニサキスのような線形動物や私が専門としている扁形動物など多様な分類群の動物が寄生虫と呼ばれています。
2階は「人体に関わる寄生虫」がテーマです。現在の日本ではほとんど見られることのなくなった寄生虫病の説明がパネルでなされています。8mのサナダムシが有名ですが、日本住血吸虫マラリアなどアジアやアフリカでは現在も問題になっている寄生虫の説明は是非読んでおくべきだと思います。私の個人的なおすすめは、「寄生虫研究の歴史」です。山口左仲博士の論文の原本を見た時は興奮しました。
入館料は無料になっています。しかし、私立の博物館ということもあり、運営はなかなか厳しいようで。コロナ禍においてクラウドファウンディングを行ったことは話題になりました。私は利用するたびに、入館料として3〜5千円分のグッズを購入しています。

木箱の中に寄生虫の永久標本が入っています。

ひみつの地下室

3階以上は、事務室や研究員の部屋となっており一般公開はなされていません。私が訪れる理由としては、「自分の観察している寄生虫が新種かもしれない」ということが多いです(といっても、2回ほどしか訪問していませんが)。なぜ、新種を見つけたかもしれない時に寄生虫館に行くかというと、自分の新たに見つけた寄生虫の特徴が、これまでに見つかった寄生虫のどの特徴とも一致しないことを確かめるためです。そのため、これまでに日本で発見された寄生虫の標本が保管されている寄生虫館に行きます。寄生虫館の標本の大半は地下室に保管されており、展示されているのはそのごく一部です。


研究室の顕微鏡を使用している様子
研究員の方に研究の相談をしている様子

博物館は研究施設

寄生虫館にある標本は借りることは可能です。しかし、正基準標本(生物に新たに学名を付ける時に証拠として博物館に残す標本)は、世界に1つしかないので貸出不可となっています。加えて、私の場合は所属が研究機関ではなく、学位もないため貸してもらえないことはよくあります。そこで、寄生虫館の5階にある研究員の部屋の顕微鏡をお借りして標本を観察します。博物館は研究施設でもあり、館長の倉持先生はじめ3名の研究員の方は毎年論文を出版されております。
最初は、私が訪問するのはご迷惑かと思っていました(高校生を連れ行っていたので)が、こころよく受け入れてくださいました。印象的なできごととしては、小さな博物館で職員の方も少ないこともあり、お昼ご飯を一緒に食べたことと、差し入れでおやつをもらったことです。研究の相談にものっていただき、いつも助かっています。
その反面、滞在中はとても忙しかったです。寄生虫の写真を撮って、体や内臓の長さを測り、スケッチをするなど、いつもは1週間くらいかけてすることを2日間(10時〜16時)で終わらせなければなりません。昨年(2021年)12月にも、標本検査のために訪問したのですが、神戸に帰ってからは疲れで仕事に実が入りませんでした。

山口博士の標本。正直に言うと、ラベルの字が読めませんでした。

最後に

私がこれまで寄生虫館で観察した標本は、1950年代と1960年代に山口博士が収蔵した標本です。70年前の標本を私が観察して、研究ができるのは、全て寄生虫館のおかげです。まだ僅かですが、私が論文を書いた時に使用した標本も寄生虫館に保管されています。自分の研究した成果がここに半永久的に保管され、私が山口博士の標本を観察したように、未来の研究者が私の標本を観察するのかと思うと少し興奮します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?