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北の鯛!クロソイ

先日の調査でクロソイが売られているのを発見し、衝動買いしてしましました。衝動買いをしてしまった理由は、北海道に住んでいた時に食べて美味しかったこと、そして寄生虫的にも有名なためです。兵庫県にいる時にはあまり聞かなかったので、地域によって知名度が大きく異なる魚なのではないかと思います。

和名:クロソイ
学名:Sebastes schlegelii
分類:カサゴ目メバル科メバル属
生息:日本、朝鮮半島、中国の沿岸部

簡単に紹介

クロソイは、スズキ目クロソイ科に属する海水魚で、日本を含む東アジアの沿岸部に分布しています。体長は最大で40センチ程度で、黒っぽい体色が特徴的です。クロソイは、岩礁砂泥底汽水域などに生息し、主に小魚や甲殻類、貝類などを食べます。えさを探して食べるなどの活動は日没後にはじめます。縄張りを持つため、侵入してきた魚には体当たりをするなどの性質をもっています。
食用としては、白身でやわらかく、あっさりとした味わいが特徴で、刺身、煮付け、フライ、唐揚げ、鍋料理など、様々な調理法で楽しまれています。また、身にコラーゲンが多く含まれているため、美肌効果が期待できるとされています。

右上がクロソイの刺身です。北の鯛といわれるだけあってタイとよく似た食感でした。左上はイサキ、下はイシガキダイです。

知り合ったきっかけ

私が魚のことを知る一番のきっかけは、その魚が興味を持っている寄生虫の宿主であるということです。魚好きの人のように魚のここが好き!というのはあまりありません。強いて言えば、面白い寄生虫が寄生している魚は好きです。クロソイは私が専門としている単生類の中でも、一番気に入っているコガタツカミムシという単生類の1種が寄生しています。その名も“クロソイコガタツカミムシ”といい、日本寄生虫学会初代会長の五島凊太郎博士が1894年に函館のクロソイから発見したという記録が残っています。その後、北海道(日高)や青森での発見が報告されていますが、日本ではほとんど研究報告がありません。一方、韓国中国からはクロソイコガタツカミムシを取り扱った論文が定期的に出版されています。それらの論文が載っている雑誌名が、水産関係のような“気”がするので、養殖が盛んなのもしれません。カサゴに寄生するコガタツカミムシでは、養殖場で大発生し貧血症をもたらすなどの被害がでているので、クロソイの養殖が盛んであれば、魚病の予防のためにも注目はしているはずです。

おそらくですが、クロソイコガタツカミムシです。単生類は半透明なので、これだけでは区別できません。特殊な染色をして、体の細部を観察できるようにしたり、DNA解析を行なって種同定します。

クロソイコガタツカミムシですが、1894年に五島博士が発見した時に作られた当時の標本を発掘したことがあります。興味がありましたら、リンクの記事を読んでください。

日本ではマイナー?

日本では香川長崎三重福井県でクロソイの養殖がなされていますが、生産量は少ないようです。ある程度まで育てた稚魚を放流する栽培漁業も行われているようです。縄張りをもつので、ある程度まで大きくなれば同じ場所で定住することから、養殖よりも栽培漁業の方が手間がかからず良いのかもしれません。日本での養殖があまり盛んでないことや、クロソイの寄生虫研究が行われていないことを先述しましたが、Wikipedia(日本版)に“Lepeophtheirus elegans という寄生虫はクロソイから検出されている”という記述があったので、該当する文献を探して目を通してみました。

多分これがウオジラミですが、ここの記事にあるLepeophtheirus elegansかはわかりません。

ウオジラミ

Lepeophtheirus elegansは、ウオジラミと呼ばれる寄生性カイアシ類の1種です。カイアシ類とは甲殻類の1種で、知名度が一番高いカイアシ類はケンミジンコなのではないかと思います。プランクトンとして生活する種が有名ですが、底生性や寄生性のものなど多岐にわたります。
Wikipediaには“Lepeophtheirus elegans という寄生虫はクロソイから検出されている”という記述だけで、この寄生虫がクロソイにとってどのように重要かが説明されていません。この寄生虫の重要さを説明するには、簡単に甲殻類の一生を理解してもらう必要があります。みなさんの食卓に並ぶエビやカニは、子供の頃は大人の頃とは似てもにつかないノープリウスやゾエアと呼ばれるプランクトンです。それが脱皮を繰り返して成長し、私たちの知るエビやカニの姿になっていきます。寄生性のウオジラミの場合は、どのように姿を変えていくかだけでなく、どの時期に宿主に寄生するかが重要になってきます。
ウオジラミは、ヒトに寄生するシラミと同様に、魚が密集して生息する養殖場で大発生します。ウオジラミは魚の体表の粘膜を食べるため、粘膜の薄くなったところから細菌が侵入して、宿主魚類が皮膚病を引き起こすことがあります。このクロソイに寄生するLepeophtheirus elegansに関しては、韓国を中心に日本やヨーロッパの研究者によって、ウオジラミがどの時期(水温が何度の時)にどれくらい成長し、宿主のクロソイに寄生するのかが明らかにされています。これによって、養殖場の水温が特定の温度に近づいた時に脱皮阻害剤などの薬を投与することで、ウオジラミの感染や大発生を抑えられることができます。また、Lepeophtheirusに属する他のウオジラミも同様のことが考えられるため、養殖場では温度管理を徹底することで、ウオジラミによる魚病の発生を抑えられたりできます
Wikipediaを編集した人も、せっかく良い論文を知っているんだったら、もう一息書いてほしかったです。

クロソイの腸管を解剖した時に発見した線虫。

参考文献

福田 穣 (1999). 1980年から1997年に大分県で発生した養殖海産魚介類の疾病. 大分県海洋水産研究センター調査研究報告 2: 41–73. (Fukuda, Y. (1999).
Venmathi Maran, Balu Alagar; Moon, Seong Yong; Ohtsuka, Susumu; Oh, Sung-Yong; Soh, Ho Young; Myoung, Jung-Goo; Iglikowska, Anna; Boxshall, Geoffrey Allan (2013). The caligid life cycle: new evidence from Lepeophtheirus elegans reconciles the cycles of Caligus and Lepeophtheirus (Copepoda: Caligidae). Parasite, 20.

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