利益剰余金(Ⅱ) ~内部留保~

巷でよく聞く"内部留保"について、こんな指摘を聞いた事はありませんか?

「企業が貯め込んでいる"内部留保"に課税して、国民に還元しろ!」
「企業は、貯め込んでいる"内部留保"を吐き出して、従業員の給料に還元しろ!」

この"内部留保"とは一体何なのか?

実は、純資産の一部である『利益剰余金』の事である。


■内部留保はマスコミ用語?

財務省の法人企業統計調査では『利益剰余金』とあるのに、マスコミはこぞって「内部留保」と強調して報道する。


内部留保
 ↓
企業の内部に留保する
 ↓
企業が貯め込んでいる

と脳内変換されているのか。

『政府の負債』を「国の借金」と言い換えたり、
『特例国債』を「赤字国債」と言い換えているのと同様、
『利益剰余金』も「内部留保」と言い換えて、印象操作をしているという事。

これは、もはやマスコミ用語なのだろうか。
少なくとも会計用語に「内部留保」は存在しない。

もっとも、今では政府一次資料の一部でもたまに使われる事のある用語ではあるようだが。


■「大企業の内部留保に課税しろ!」という誤解

特に、日本共産党はその筆頭とも言える存在である。大企業が"内部留保"を大幅に膨らませて貯め込んでいる事を「独り占め」と表現。だから、大企業の"内部留保"に課税して国民に還元しろ!という事のようで、いかにも共産党らしい主張である。他の野党やその支持者たちも、それに釣られて騒いでいる。


だが、"内部留保"とやらは、法人税等の税金を引いた後の当期純利益を原資として運用しているわけで、これは「二重課税」と考えられる。

身近で例えれば、給与を稼いで所得税を引かれた手取りのお金の一部を、将来のために預貯金して積み立てていたら、それはイクナイという事で、預貯金に課税されるようなものである。

そもそも、"内部留保課税"をしようと思うと、様々な問題点が浮かび上がってくる。

・「純資産の部」に対する課税となる。
・業績赤字の企業も課税の対象になる。
・税引前当期純利益から課税される法人税との整合性の問題。

ほんのちょっと考えただけでもコレだけある。探せばまだまだ出てくるであろう問題点をどうやって解決するんだ?という話である。

利益剰余金は、現金預金だけではなく、様々な資産に姿を変えたり、何らかの投資に使われたりする。

「内部留保に課税しろ!」という主張は、「会社の設備や固定資産を売り払ってでも納税して国民に還元しろ!」と言っているようなものである。

利益剰余金という純資産に課税されれば、企業はたちまち立ち行かなくなってしまう。


■「内部留保を吐き出して人件費に回せ!」という誤解

これも以前から言われてきている事だ。最近だと、2018年秋頃の外国人労働者の受け入れ(入管法)の議論になった時によく言われていたのが「人手不足なら、内部留保を吐き出して人件費に回せばいい!」というものであった。

また、「内部留保の3%を人件費に回せば、最低時給1500円も可能だ(キリッ!)」などと試算して、最低賃金の大幅な引き上げを主張する人までいた。共産党がまさにそういう考え方である。


一見、ごもっともな意見のようにも思えるが、やはり的外れと言わざるを得ない。

利益剰余金は、現金預金だけではなく、様々な資産に姿を変えたり、何らかの投資に使われたりする。

「内部留保を吐き出せ!」という主張は、「会社の設備や固定資産を売り払ってでも従業員の給料に還元しろ!」と言っているようなものである。


いずれにしても、「内部留保ガー」などと騒ぐ人たちは、利益剰余金がどういった性質のものなのかを理解していないのは明らかであろう。
それか、理解していてあえてウソやデマを撒き散らして煽っているか。ウソやデマには要注意である。



利益剰余金(内部留保)について、世耕弘成 経済産業大臣(当時)のわかりやすい解説。

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