道路交通法第77条と政治活動の自由

『道路使用許可』の法的根拠である『道路交通法』の第77条について、思い出した事がある。

それは2020年10月の「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」(大阪都構想)にまで遡る。

何を今更3年前の事を蒸し返すんだ???と思われるかもしれませんが、道路交通法と政治活動について語るには"良い教材"であるとも思っているので、あえてこの件を採用しました。


■メロリンQさんの主張

大阪都構想の住民投票の告示日となった2020年10月12日の10時半頃。
れいわ新選組の山本太郎代表ことメロリンQさんが、戎橋(グリコ看板前の橋)の上で、街頭演説で政治活動(大阪都構想反対運動)を行ったところ、大阪府警の警察官に中止を要請される一幕があった。


上記動画の17:00~あたりで、メロリンQさんは「法的根拠を示してください」と説明を求めたが、警察官はそれに応じず、中止を要請し続けた。近くにいた支持者と思われる人が警察官に詰め寄る一幕もあった。

メロリンQさんは、
「政治活動というのは基本的に自由なんです。憲法の表現の自由と、それに合わせて、道路交通法第77条に基づいております。」
…と、あくまでも通行の妨げにならないように演説を行っていると反論。

警察の「(道路使用の)許可を得てますか?」の問いにも、メロリンQさんは「(街頭演説は、道路交通法第77条第1項4号には該当しないから)許可は必要ない!」と主張して譲らなかった。
その後、中止はしたが、「独り言」と称して、その声をたまたまマイクが拾っていたという設定で話し続けた。


さて、メロリンQさんから発せられた「道路交通法第77条」とは何なのか?
また、「政治活動」とは何なのか?


■【道路】とは?

【道路】とは何なのか。
それは、『道路交通法』第二条一と、「道路法」第二条及び・第三条各号で定義されている。



■『道路交通法』と「道路交通規則」

道路交通法第77条第1項に、『道路の使用の許可』について書かれてある。

文字通り【道路】の使用を許可するものであり、誰かの「私有地」の使用を許可するものではないところがポイントであり、
『道路使用許可』そのものが演説する自由や結社の自由を担保しているわけではないところに注意が必要だ。

なお、「道路法」第32条にある「道路占用許可」は、『道路使用許可』とは異なるものである事に注意されたし。
(読みの響きは非常に似ていてややこしいが)


街頭演説による政治活動の場合、第4号に該当するかどうかであろう。
(第1~3号には該当しない・関係ないのは明らか)


道路交通法第77条第1項第4号の詳細については、各都道府県の「道路交通規則」などに記されている。
大阪府では「大阪府道路交通規則」の第15条で定めている。
街頭演説による政治活動の場合、これに該当するかどうかであろう。


なお、「大阪府道路占用規則」もある。コチラは『道路法』とリンクしている。



「道路交通規則」などの但し書きや括弧書きには、
「公職選挙法の規定に基づきすることができる選挙運動のためにするもの及び選挙運動期間中における政治活動として行うものを除く。」
と記されている。

つまり、「選挙運動期間中」においては、『道路使用許可』は"不要"である。

では、「政治活動」においてはどうなのか?


■「選挙運動」と「政治活動」

そもそも、「選挙運動」と「政治活動」の違いは何なのか?
それは「公職選挙法」によって定められている。


(1)選挙運動

根拠条文は、
「公職選挙法」第13章(第129条~第178条の3)
「公職選挙法」第14章(第179条~第201条)

・特定の『選挙』に向けた運動。
・特定の候補者の当選を目的とした運動。
・直接または間接に必要かつ有利に働き掛ける運動。
 →特定の候補者へ投票するように働き掛ける。
 →他の候補者へ投票しないように働き掛ける。

「選挙運動の期間」でのみ認められており、公職の候補者の届出のあった日から選挙期日(投票日)の前日までの8~20時に限り可能である。

また、満18歳未満の者は、一切の選挙運動ができない。

なお、「住民投票」は選挙ではないため、「選挙運動」には当たらず、「選挙運動の期間」も存在しない。


(2)政治活動

上記「選挙運動」を除いた全ての政治的活動を指す。
日本国憲法によって、思想・信条・表現の自由として保障されている。

・特定の選挙に向けた活動ではない。
・特定の候補者の当選を目的とした活動ではない。
・政治上の目的をもって行われる一切の活動から、「選挙運動」に渡る行為を除いた活動。
・政党や政治団体が、自党の政策や主義を宣伝する活動。

但し、選挙運動の期間中は、以下の条文によって規制されている。
「公職選挙法」第14章の3(第201条の5~15)



■政治活動にあたっては道路使用許可が必要

結論としては、「政治活動」においては、『道路使用許可』が"必要"である。

政府見解として、参議院の質問主意書で以下のように答弁しており、道路交通法第77条第1項第4号に該当する可能性があると考えている。


演説や路上ライブ等をした結果、多くの人でごった返すのか閑古鳥が鳴くのかはわからないし、一般交通に著しい影響を及ぼすかどうかなどについて、主催者側が主観的に判断できる性質のものでもないだろう。

ましてや、戎橋は、普段からとても人通りが多く、その場所で演説や路上ライブ等をやれば、一般交通の著しい妨げになる事は容易に想像がつく。

だから、所轄警察側によって総合的に判断される。


なお、2013年7月9日にアントニオ猪木さんが戎橋で街頭演説した時は、参議院議員通常選挙の期間中であり、猪木さん自身も候補者だったので、道路使用許可は不要である。
しかし、これがキッカケなのかどうかは不明だが、道路管理者や地元の人たちから「人通りが多くて危ないため戎橋の道路使用許可を出さないでほしい」と要望があったようで、以降は空気を読んで街頭演説は行われていないようだ。



■道路使用許可にも条件がある

『道路使用許可』は、道路交通法第77条で定められている。

第2項にある第1~3号のいずれかに該当する時は、所轄警察署長は許可をしなければならない事になっている。

しかし、第3項及び第4項により、
『道路使用許可』に、一定の条件を付する事ができる。
よって、許可さえ出ていれば何をしてもよいという事にはならない。

そして、第5項により、
『道路使用許可』は、取り消し又は効力を停止する事もできる。


警察庁のサイトにも詳細が書かれてある。



先日の某保守党の件について、
警察が演説中止を要請したのは、現地の状態を見極めた結果、道路交通法第77条第5項に当たると判断したからではないだろうか……と推測する。
「コイツらのせいで危ねぇから、道路使用許可は取り消さなければ!」と。


街頭演説で思想・信条を主張する自由は保障されるべきであるが、
それと同時に、危険防止の観点から、周辺の交通の安全を確保する事も忘れてはならない。

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