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第40回兜太現代俳句新人賞

 作品群の感想は一句の感想より何倍も難しく、いまだにどういうふうに書けばいいのかわかりません。好きな句の引用と、全体から受けた印象をわたしなりに書いておきます。印象なのでかなり漠然とした表現をしています。頓珍漢なことを言っていたらすみません(先に謝るスタイル)
 句は『現代俳句』2023年5月号より引用しております。

こころの孤島  土井 探花

薄つぺらい虹だ子供をさらふには
滝であることを後悔しない水
階段のゆるさを跳ねてゆく秋日
冴返る塗りつぶさない性別欄
陽炎の終はりにちよつとした喜劇
愛しただらうか椿の怒りまで

 作品群を読みながら、すこしずつ鏡を見ている感覚を抱きました。わたしは鏡が苦手で、できれば見たくないのですが、そういう「見たくないけれど、必要に迫られて見る」という、心の奥を見つめるような句だと思いました。まったく同じではないけれど、共感や共鳴を起こすような魅力的な作品です。


長き弔い  楠本奇蹄

おしやべりな端切を重ね桜桃忌
犀の眼のまんなかに夜賢治の忌
冬の蝶眠れぬまたたきに生まれ

 以前、SNSで奇蹄さんの句(べつの作品)の感想を書いたことがあるので、引用しておきます。手抜きじゃないです。印象の話です。

 桜桃忌・賢治の忌の句はスッと心の中に落ち着きました。親しみやすい雰囲気というのも違うのですけれど。不思議。


たらの話  蔣草馬

花の名の薬局ばかり更衣
悲劇あるたびに散らされゆくダリア
たとへばいつか東京が白詰草で埋もれたらの話

 悲観しているわけでもなければ、攻撃しているわけでもない。だけど、どこか棘のようなものを感じるのは、それがわたしにとっての感傷なのかもしれません。いつか通った、あるいは通っていたかもしれない、はだしの季節。なにかが呼び起こされるような感覚になりました。


神無月  加藤絵里子

風花や崇拝さるる巨大石
散らかれる子供らの靴冬銀河
月蝕や水へとかへりゆく谺

 抒情の波は静かですが、ところどころに白波が立つような印象があります。句から音が聞こえてくるような、誰かの声が聞こえるような、息遣いのある作品郡。人間の営みのある世界という安心感が


息づかひ  内野義悠

ゆきやなぎ手紙しばらく眠らせて
チューリップ折られてゐる九番打者
アラームの主の不在小鳥来る

 一句一句、しっかりとした重みを感じます。それは重厚感でもあるし、リアリティでもあって、「重み」の中身はそれぞれにあるのですが。地に足の着いた印象があり、その硬さが作品群の魅力だと思いました。


 作品群がいくつもあると、いろんな句に触れることができておもしろいです。やはり賞ということもあって、軽妙で気軽な句は多くなく(ほぼないか)、きちんとした句が並んでいる印象でした。まあレッドカーペットをTシャツで歩く人がいないようなもの、と思えば……それもそうか、と思いますが。
 いつかわたしも「きちんとした」印象を持った句を作ることができるのだろうか、と思いつつ、背伸びせずがんばろう、と心に誓う今日この頃であります。

 いつも以上にふわふわした内容になってしまった気がしますが、備忘録がてら残します。最後までお付き合いくださりありがとうございました。
 改めまして、受賞者のみなさま、すてきな作品をありがとうございました。

 

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