見出し画像

食品安全委員会の20年を振り返る#4 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ 概要

食品安全委員会の20年を振り返る#4 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ 概要(本文2,694文字)
 
 
1. はじめに
食品安全委員会設立20周年記念企画の一環として、食品安全委員会委員の松永和紀氏は2023年(令和5年)8月17日付けにて、「健康食品」の安全性について解説しています。奇しくもこの解説が公表されたおよそ半年後に紅麹を含む機能性食品等による健康被害事件が発生しました。本資料は、この松永氏の解説をもとに筆者が作成したものです。松永氏の原著解説は一次情報からご確認ください。
 
2. 松永氏による主張(原文のまま)
<国民の皆様へ 「健康食品」について気をつけてほしいこと>
■「食品」であっても安全とは限りません。
■大量に摂ると健康を害するリスクが高まります。
■ビタミン・ミネラルをサプリメントで摂ると過剰摂取のリスクがあります。
■「健康食品」は医薬品ではありません。品質の管理は製造者任せです。
■誰かにとって良い「健康食品」があなたにとっても良いとは限りません。
 
3. 「自ら評価」を要請され、ワーキンググループ設置
食品安全委員会は、医薬品や農薬などのリスク評価を専門に行っていますが、2013年度と14年度に「健康食品」のリスク評価に関する要請を受けました。
「健康食品」は、医薬品と異なり、明確な定義や規制がなく、安全性に関する情報も十分ではありませんでした。そのため、食品安全委員会はワーキンググループを設置し、「健康食品」全般について幅広い検討を行いました。
 
4. 摂取した後に体の不調を訴える人が数%いる
ワーキンググループでは、「健康食品」を「医薬品以外で口から摂取され『健康の維持・増進に特別に役立つ』とうたって販売されたり、そのような効果を期待して摂られたりする食品」と定義しました。検討の結果、以下の問題点が指摘されました。
■摂取した後に体の不調を訴える人が数%いる
■過剰摂取のリスクがある
■品質管理が十分ではない可能性がある
 
食品安全委員会は、2015年に「健康食品」に関する報告書をまとめ、下表のとおり「いわゆる『健康食品』に関する 19 のメッセージ」を発信しています。

表1 いわゆる「健康食品」に関する 19 のメッセージ(注:食品安全委員会作成の表を筆者が再編)

4. 「天然・自然・ナチュラルだから安全」ではない
「健康食品」の中には、「天然・自然・ナチュラル」だから安全という誤解があります。しかし、天然の物質であっても、過剰摂取すれば健康被害を引き起こす可能性があります。「健康食品」は、医薬品とは異なり、長期に大量摂取した場合の安全性について十分な検証が行われていません。「天然・自然・ナチュラル」などの言葉と、品質や安全とはまったく因果関係がないことをあらためて充分に理解しておく必要があります。
 
5. 「健康食品」は医薬品とは別もの
「健康食品」は医薬品ではありません。そのため、医薬品のような「効き目」があるとは限りません。また、「健康食品」の中には、医薬品成分やそれに似た成分を違法に添加した「無承認無許可医薬品」も存在します。
 
6. リスク情報を知らず、期待を膨らませる消費者へ
食品安全委員会は、消費者に対して以下のことを呼びかけています。
■「健康食品」は医薬品ではないことを理解する
■過剰摂取のリスクに注意する
■品質管理が十分ではない可能性があることを認識する
■体調に異変を感じたら、すぐに使用を中止し、医療機関を受診する
また厚生労働省は、「指定成分等含有食品」について新制度を開始しています(食品衛生法2020年改正による)。この新制度のもと、健康効果を期待させる成分・食品について広く情報を収集・調査を実施し、審議会などが特に健康被害に関して「特別の注意が必要」と判断したものが「指定成分」と呼ばれるものです。「指定成分」は下表の4物質が指定されています。

表2 厚生労働省が定めた指定成分等(出典:厚生労働省資料、注同上)

7. 「健康食品を買って害を買う」を避けてほしい
食品安全委員会が「健康食品」についてのメッセージを発信してからすでに10年近くになります。しかし、残念ながら近年も「健康食品」による健康被害は発生し、多くの商品が回収されています(※1, 2)。
※1 【逐次更新】紅麹関連製品の回収問題について: https://note.com/fir_institute/n/n2485137e6109
※2 【独自研究報告】食品衛生申請等システムによる令和5年度食料品リコール公開回収事案: https://note.com/fir_institute/n/n6ad59d79c7d9
 
食品安全委員会は、消費者一人一人が、冷静に判断し、適切な情報に基づいて「健康食品」を選択することが重要だと呼びかけています。
 
 
 
<一次情報>
「食品安全委員会の20年を振り返る」
第4回 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/04_kenkosyokuhin.html
 
 
<関連情報>
「食品安全委員会の20年を振り返る」
第1回 トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/01_toransushibosan.html
第2回 薬剤耐性(AMR)のリスク評価に挑む
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/02_amr.html
第3回 カンピロバクターとの長い闘い
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/03_campylobacter.html
第5回 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.html
第6回 BSE問題前編〜20年前、食品安全委員会設立のきっかけに
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/06_prion_vol1.html
第7回 BSE問題後編〜プリオン病情報を収集し、リスクに備える
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/07_prion_vol2.html
第8回 無機ヒ素の健康影響は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/08_mukihiso.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?