【独自研究報告】食品衛生申請等システムによる令和5年度食料品リコール公開回収事案
厚生労働省は、令和3年(2021年)6月1日から「食品衛生申請等システム」の運用を開始しました。食品関連事業者は、これまで営業所を所管する保健所の窓口で手続きをする必要があった営業許可等の申請・届出を、インターネットを通じて申請・届出ができるようになり、また食品等の自主回収を行った場合の届出が義務化されています。いっぽう消費者は、自主回収情報をオンラインで確認できるようになりました。
■令和2年7月10日 食品衛生申請等システムの運用開始を踏まえた利用規約及び営業者等の個人情報の取扱いについて(薬生食監発0710第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000648204.pdf
■食品衛生申請等システムについて
https://www.mhlw.go.jp/content/000802119.pdf
■食品リコールについて(消費者)
https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000781933.pdf
■食品リコールについて(事業者)
https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000781959.pdf
今回、令和5年度に「食品衛生申請等システム」へ届出された回収事案についてまとめました。
■【厚生労働省】食品衛生申請等システム公開回収事案検索
https://ifas.mhlw.go.jp/faspub/IO_S020501.do?_Action_=_eventcursorfirst_g01
■システム利用マニュアル
https://ifas.mhlw.go.jp/manual/
なお、自主回収が終了した2週間後に届出事案の情報は削除されてしまうため、今回収集した回収事案を必ず再収集できるものではないことを予めお断り致します。
1. 回収事案情報のあらまし
収集日: 令和6年(2024年)5月1日
収集対象:令和5年度すなわち令和5年(2023年)4月1日~令和6年(2024年)3月31日に届出された回収事案
2. 集計結果
2-1 回収事案総数
751件
2-2 回収された商品等の一般名称およびその件数
令和5年度の回収事案は、日本標準商品分類によって9カテゴリの商品に分類されます。詳細は下表の通り。
表1: 商品分類
上位4カテゴリ、すなわち農産加工食品、その他の食料品、水産加工食品、および畜産加工食品で全体の約90%を占めています。
さらに全体の約40%を占める農産加工品(307件)の内訳は下表の通り。菓子類が農産加工食品の約半数、さらに麺・パン類まで含めると上位2商品で農産加工品全体の約3/4を占めています。
表2: 農産加工食品の詳細分類
*1: キャンデー類、スナック菓子、その他の菓子類、チョコレート類、ビスケット類、砂糖漬菓子、焼き菓子、半生菓子類、米菓、油菓子、洋生菓子、冷菓、和干菓子、和生菓子
*2: いり豆類(落花生を除く。)、その他の豆類の調製品、ピーナッツ製品(落花生油を除く。)、煮豆、豆腐・油揚げ類
*3: 分類されていない農産加工食品およびその他の農産加工食品
2-3 月別届出数
表3に、令和5年度の月別届出数を示します。令和5年度は6月と3月の届出数が前後の月から突出しています。6月の75件のうち、1社製造のパンにおいて商品ラベル不具合による回収が39件(06/07~08)含まれています。また3月の171件のうち「紅麹」関連による回収は28件(03/22以降)であり、突出する主要因であるとは評価できません。
なお、令和3年度ならびに4年度の月別届出数を収集すると、いずれの年度においても3月には届出が増加する傾向が見られました。要因の詳細な考察はしていませんが、年度末であることが影響している可能性があると推測しています。
表3: 月別届出数
2-4 都道府県別届出数
表4は令和5年度の都道府県別届出数と人口100万人あたりの数を示しています。届出数の平均は約16件で、上位は大消費地であり製造事業者も多い東京都(1位)、大阪府(2位)、兵庫県(4位)、愛知県(5位)などが入りますが、青森県(3位)や沖縄県(6位)も上位に入っています。なお最も少ないのは宮崎県と石川県でそれぞれ1件ずつでした。
届出数を人口100万人あたりに換算すると約7件となり、都道府県別に見ると青森県が最も多く33.5件、次いで沖縄県、岩手県、高知県、滋賀県の順になります。人口あたりの青森県の届出数は他の都道府県と比べて突出して多く、特殊な要因がある可能性があります。
表4: 都道府県別および人口100万人あたりの届出数
2-5 抵触する法規
令和5年度において、各回収事案の理由となった法規とその数は表の通り。食品表示法と食品衛生法の両方が回収理由となった事案も8件ありました。
表5: 回収理由となった法規
*4: 名称、原材料名、原料原産地、賞味期限、保存方法、製造者、製造所、などラベル表示の不備など
*5: 大腸菌やカビ等による微生物汚染、製品規格からの逸脱、異物混入、保存温度の逸脱、残留農薬基準の逸脱、など
2-6 健康被害の発生状況
表6の通り、751件の届出のうち、約2.5%の18件において健康被害が発生しています。割合としては決して多くないですが看過できない事故であることに注意が必要です。報告されている健康被害は口内裂傷、アレルギー症状、下痢、腹痛、咳、全身のかゆみ、呼吸困難、腎機能異常、などになります。
表6: 健康被害の発生状況
2-7 健康への危険性の程度
食料品回収の届出については健康への危険性としてクラス分けがなされます。危険性クラスはCLASSⅠ、CLASSⅡ、およびCLASSⅢの3段階であり、CLASSⅠが最も危険性が高いとされます。
なお、届出時に直ちにCLASS分類を判断できない場合はひとまずCLASSⅡに分類し、その後の情報を踏まえ適切な分類に変更します。令和5年度はCLASSⅠとCLASSⅡで全体の90%以上を占めており、回収情報について日頃から十分な注意が必要です。
表7: 健康への危険性
*6 喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が高い食品(主に食品衛生法第6条に違反する食品等)
(例)・腸管出血性大腸菌に汚染された生食用野菜、ナチュラルチーズなど加熱 せずに喫食する食品
*7 喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い食品等(食品衛生法第10、11、16、18条に違反する食品(他のCLASSに分類されたものを除く))
(例)・一般細菌数や大腸菌群などの成分規格不適合の食品
*8 喫食により健康被害の可能性が無い食品等(食品衛生法第10、11、16、18条に違反する食品(他のCLASSに分類されたものを除く))
(例)・添加物の使用基準違反食品
3. まとめ
以上かなり簡単ではありますが、厚生労働省による食品衛生申請等システム公開回収事案検索から収集したデータをもとに情報整備してみました。
上述の通り、自主回収が終了した2週間後には届出事案の情報が削除されるため、回収事例の全体をトレースすることは難しいですが、食品産業のステークホルダーや消費者に有用な情報となれば幸いです。
この食品衛生申請等システム公開回収事案検索のように行政発信のデータは数多くあるので、有用性の高いと思われるものを集計して自主研究報告のかたちで発信していきたいと考えています。
また、ご要望ありましたらリアクションにてリクエストください。
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