見出し画像

食品安全委員会の20年を振り返る#1 「トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜」 概要

食品安全委員会の20年を振り返る#1 「トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜」 概要(本文1,593文字)
 
1. はじめに
食品安全委員会設立20周年記念企画の一環として、食品安全委員会委員の松永和紀氏は2023年(令和5年)6月2日付けにて、トランス脂肪酸をテーマにリスク評価の意味を解説しています。本資料は、この松永氏の解説をもとに筆者が作成したものです。松永氏の原著解説は一次情報からご確認ください。
 
2. 松永氏による主張(原文のまま)
■トランス脂肪酸を多く食べると、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)の発症が増加する。
■日本人の推定平均摂取量は、総摂取エネルギー量の0.31%。WHOの勧告(目標)基準であるエネルギー比1%未満を下回り、通常の食生活では健康への影響は小さい。
■マーガリンなどの含有量は、近年大きく下がっている。
■製品のトランス脂肪酸含有量を下げると、飽和脂肪酸が増える傾向がある。飽和脂肪酸も冠動脈疾患リスクを上げる。
■栄養バランスのよい食事が、トランス脂肪酸対策となる。
 
3. トランス脂肪酸と飽和脂肪酸:科学的リスク評価に基づく情報発信の重要性
近年、トランス脂肪酸の健康リスクが注目されていますが、日本におけるトランス脂肪酸摂取量はWHOの目標値を大きく下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられています。一方、飽和脂肪酸の摂取量はWHOの目標値を超えている人が多く、健康リスクが懸念されています。しかし、トランス脂肪酸の低減に注力するあまり、飽和脂肪酸の摂取量が増加してしまうというトレードオフの問題もあります。
 
4. トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の科学的リスク評価
食品安全委員会は、2012年にトランス脂肪酸のリスク評価を行い、以下の結論を導き出しました。
■日本人の大多数がWHOの目標値であるエネルギー比1%未満であり、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さい。
■脂質に偏った食事をしている個人においては、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比が1%を超えることがある。
■日本での喫煙、糖尿病、高血圧などの主要な危険因子と比較すると、トランス脂肪酸による冠動脈疾患リスクはかなり小さい。
また、飽和脂肪酸についても、2018年にリスク評価を行い、以下の結論を導き出しました。
■日本人の飽和脂肪酸摂取量はWHOの目標値であるエネルギー比10%未満を満たしていない。
■飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、冠動脈疾患リスクが高くなる。
 
5. トレードオフの問題と「栄養バランスのよい食事」の重要性
トランス脂肪酸の低減に注力するあまり、飽和脂肪酸の摂取量が増加してしまうというトレードオフの問題があります。食品安全委員会は、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の両方のリスクを指摘し、「栄養バランスのよい食事」を提唱しています。これは、脂質全体の摂取バランスに配慮し、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことも重要であることを意味します。
 
6. 情報発信の重要性
科学的リスク評価に基づいた情報発信は、消費者が適切な食生活を選択するために重要です。食品安全委員会は、中立公正な立場で科学的なリスク評価を行い、わかりやすい情報発信に努めています。また、事業者に対しては、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の両方の低減に努めることを求めています。
 
7. まとめ・結論
■トランス脂肪酸は健康リスクが懸念されていますが、日本における摂取量はWHOの目標値を大きく下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられています。
■一方、飽和脂肪酸の摂取量はWHOの目標値を超えている人が多く、健康リスクが懸念されています。
■重要なのは、トランス脂肪酸だけに偏らず、飽和脂肪酸の摂取量にも注意しながら、「栄養バランスのよい食事」を心がけることです。

食品安全委員会は、科学的リスク評価に基づいた情報発信を行い、消費者が適切な食生活を選択できるように支援しています。
 
 
 
<一次情報>
「食品安全委員会の20年を振り返る」
第1回 トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/01_toransushibosan.html
 
 
<関連情報>
第2回 薬剤耐性(AMR)のリスク評価に挑む
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/02_amr.html
第3回 カンピロバクターとの長い闘い
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/03_campylobacter.html
第4回 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/04_kenkosyokuhin.html
第5回 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.html
第6回 BSE問題前編〜20年前、食品安全委員会設立のきっかけに
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/06_prion_vol1.html
第7回 BSE問題後編〜プリオン病情報を収集し、リスクに備える
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/07_prion_vol2.html
第8回 無機ヒ素の健康影響は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/08_mukihiso.html
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?