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ジビエ解体工房さんに訪問。

その工房は鳥取県の山の中にあると聞いていた。

クリスマス、おせち、正月営業と繁忙期が終わり、やっとジビエのコースに取り掛かれ、ご提供が始まった。

フィオッキには連日、雉や鹿、猪など野生肉が届く。その個体を見ていつも思う。

この肉たちはどういう環境で生きて来たのか。

家畜類なら想像は容易い(飼育方法は様々でそれも大変勉強になることだが、詳細はここでは割愛させて頂く)

野生肉となるとその環境でテイストも変わってくる。

特に鹿や猪は毛や皮が剥がされ正肉として届くことから、その生態の想像は難しい。

ここ数年、フィオッキでは同じ解体工房から鹿と猪を仕入れている。
それは明らかに肉質が良いからだ。以前からこの工房にお邪魔し、話だけでもお聞きしたいと思っていた。

ジビエコースが始まった。
そして今月で終わる……


そうだ、鳥取行こう!

アポを取ったのは3日前。新幹線の切符をとって次の日の始発列車に俺は乗っていた。

新神戸に着き、スタッドレスタイヤを履いたレンタカーに乗り込み、鳥取の山の中へアクセルを踏む。

目的地に近くなったその山道は本当に自然の中。ほとんど車とすれ違わない自然だけのところだ。

山を抜け盆地のような地に若桜という町があり、
目的地のいつも良質な鹿肉を送ってくださる「わかさ29工房」さんに到着した。

責任者の河戸さんとお父さんにご挨拶をし、見学もさせてもらえた。

扉を開けて中に入るとそこにはまだ毛皮に覆われたメスの鹿が吊り下がっていた。(この画像は控える)

職人さんが鮮やかな手捌きで毛皮を剥いでいく。
毛皮を剥がされたその肉の表面から湯気が立ち上がっている。

横で河戸さんが解説してくれる。
「これは鹿の体温です。ウチは猟師さんが仕留めてから2時間以内の物しかジビエ肉として出荷しないんです。生肉として出荷する場合、猟師さんは〆るところまでしか出来なく、そこからは我々がやるんですが、キチンと血を出されて、そこから短時間内に内臓を出さないと臭くなる。すぐに冷やす事も大事でね。」

俺は思った。
「やっぱり来て良かった。何故いつも良い肉質なのか。絶対に当たり前でない何か拘りがあるはずで、それが聞けた。嬉しい…」

俺は言った。
「だからいつも肉質が良いんですね!」

なんだこの当たり前のコメント…自分にツッコミ入れたくなる。

しかし気になった。
猟師さん達は山の中にいるはずだ。そしてそんなにすぐに此処に来られない時もあるはず。
そんな顔をしている俺に河戸さんは教えてくれた。

「時間が経った個体はわかるんですよ。内臓がパンパンに膨れ上がって肉も臭くなる。そういう肉や罠で暴れた肉。罠で怪我した肉。鉄砲玉が入って鬱血した肉。そうした肉は全て……」

ここが驚いた。

「ペットフードになるんですよ。ペットフード産業は年々成長しているんです。」

し、知らなかった。

世の中は知らない事だらけだ。

捌かれていく肉はすぐに冷やされる。

鹿。同じ個体のロースでも右と左で状態は違う。


肋骨もワンちゃん用になるらしい。
フィオッキでも仕入れてスープをとっている骨。


隣の部屋に案内していただくとミンチやスライスなどを行っていた。

スライスはワンチャン用のジャーキーになるという。

ミンチ肉は今後フィオッキでも使っていきたい。
鹿のパニーニやろうかなとか考えちゃう。

見学を終え、河戸さんの事務所でいろいろお話を聞く。
この辺りの環境のこと。豚熱などの猪にまつわること。
本当に勉強になった。

河戸さんと一緒に記念撮影。

ご挨拶をして工房を後にした。

本当に来て良かった。

仕事とはついつい作業に徹してしまう。しかし本来は表現者でいたい。表現するにあたって、納品される材料になんら気持ちも込めず疑問も抱かずに調理して、果たして何を表現しているのか…。「俺はこんなの作れたよ。凄いでしょう!」の繰り返しか?いや違う。
我々は生き物の命を使って表現している。そしてそれは循環である事が望ましい。
自然の恵みを頂く。食材の命がある。育てる人や仕留める人がいる。加工する人がいる。運ぶ人がいる。食べ手は喜び、自然を大切に考える。その工程の中に我々の仕事がある。そして何をどう伝えるかという重要な役割を担っている。
食材がどう育って来たのか。そしてそれはどういう状態なのか。把握してその背景も食べ手に伝えたい。
そしてそれはフィオッキで働く人達(これから未来がある人達)に分かってもらいたい。それが俺の仕事だと思っている。

お邪魔した工房での見学の後半には穴熊が届き、吊り下がっていた。

穴熊。個体は画像を加工してボカしている。


今回この穴熊を使わせてもらう。これもいろいろ調べると自然のことや農作物を荒らしてしまうことなど、都会にはない社会問題も見えて来る。


ジビエコースは料理人の心に火をつける。それがどうしてなのか、また少しだけだが分かった気がした。

あと数週間しかないが、向き合って料理をしていきたいと思う。

山を下る帰りの道中、そんなことを考えていた。

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