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感性インテリジェンス(KANSEI Intelligence)の可能性  -修士論文を書き終えて-

2022年12月に修士論文を書き終えました!
卒業して、ベルリンに拠点を移してから1年はバタバタしており、今更の報告になってしまいました。
Bachelor of Economic(経済学士)から、晴れてMaster of Art(芸術修士)に✨
私はフィンランドのAalto UniversityのNordic Visual Studies and Art Education (NoVA)という修士コースを修了しています。このコースでは北欧の視点からアート教育について理論的かつ実践的に学ぶことができました。

大学生までは自分が教育に携わるとは思ってもみませんでした。ただ、英語教師の母、中国哲学の大学教授だった祖父を思うと、アートとはいえ教育を選んだのも必然だったのかもしれません。
あまり家で研究のことを語ることはなかったですが、古びた本に囲まれながらいつも机に向かう亡くなった祖父を修士論文を書きながら思い出していました。

そんな教育の中でも私は感性を使った教育について研究をしていました。感性工学の職場環境に関する検証に携わっていた経験もあり、感性という日本発祥の概念が、もっとより働きやすく、人々がコミュニケーションを取りやすい環境に寄与すると直感的に信じていました。そういった感性教育をフィンランドで探求し、日本の外から見ることで、新しい角度から感性教育を考えることができました。今回はそんな私の論文を簡単にご紹介したいと思います。

論文の要約


VICA時代、また生成AI(Artificial Intelligence)が発展していく世の中で人間が生き残るためには、AIにできず人間だからこそできることを考えることが重要です。
そんな中で人間の本来の力、感性がとても重要になってくると思い、「感性インテリジェンス」という言葉を作りました。自分や相手の感性を感じ取る力が高まることで、相手との違いを受け入れる幅を持てるようになる。そんな感性インテリジェンスが広まることでより世の中が生きやすく、働きやすい世界になることを願い研究テーマを選びました。AI含め、一つの"正しい"回答を提示する傾向がある世の中へのアンチテーゼでもあります。論文ではその感性インテリジェンスがどのようにオンライン職場環境の心理的安心感に寄与しているかを検証しています。これまで数値的に測られていたIntelligence(知能)(感情的知性 Emotional Intelligence, 社会的知性Social Intelligence, 多重知能理論Multiple Intelligence)の研究を参考に、「感性インテリジェンス」という指標を作り、それの有効性をワークショップを行い検証しました。結果として、感性インテリジェンスがオンライン職場における心理的安全性に寄与し、感情内省の機会を通じて対人関係を醸成できることを示すことができました。また、感性インテリジェンスは、オンライン環境における参加者間の通常のコミュニケーションだけでは生まれない一体感や非言語コミュニケーションを生み出すことができることを示唆しました。

感性インテリジェンスの定義


私は感性という言葉の定義を哲学、芸術、デザイン、科学の視点から調べ、感情的知性, 社会的知性, 多重知能理論の定義をベースに感性インテリジェンスの定義を作り出しました。
感性という言葉は日本では広く広まっていますが、意外にはっきりとした定義がなされていない言葉で、分野ごとにそれぞれの意味で使われています。

それぞれの分野での感性の定義
・感性工学:感性は人間の感覚やイメージをより人間の感覚に合う物理的なデザインに落とし込む技術である。
・国土交通省が国民に行った調査:感性を代表する言葉として「伝統と文化」、「調和」、「自然」が挙げられている。
・感性デザイン:感性とは人間、時間、空間の間に存在するもの。全て「間」が共通している。
・哲学:感性→悟性→理性の順で人は認識をしている。

感性インテリジェンスの定義
・感性は時間、空間、人間により変化する
・感性インテリジェンスは自然環境に属しているという環境理解を含む
・感性インテリジェンスは自身また相手の感性の状態を察知する能力

分析方法


フィンランドまたは日本の様々な環境における6回のインタビューと4回のワークショップからデータを収集しました。感性インテリジェンスを応用し、4つのワークショップを協力者とともにデザインしました。

ワークショップ詳細


・CO-FOUNDERS(FI):VUCA におけるマインドフルネス
・東芝(JP):オンラインにおけるチームコミュニケーション
・Laere (JP): 感性・感情を通じた創造性の開き方
・フィンランドセンター・Didrichsen Art Museum (FI×JP):文化交流

結論


感性インテリジェンスを使うことで、オンラインの職場環境においてより個人的なコニュニケーションを生むのを助けている。ワークショップを通じて特に普段の会話では知り得なかった相手のことを引き出すことに成功している。

教授からの評価


少しビジネスよりなところがあるが、感性のワークショップについての説明、分析は特に論文の重要な部分で興味深い分析と評価方法をアート教育の分野で示唆している。またワークショップではアート教育の知識と実践的能力を発揮している。ビジネスとアート教育という経験を生かして、とても挑戦的に分野横断しているこの研究はどちらの分野においても価値のあるものになる。

論文に込めた思い


感性工学に携わる人を覗き、感性という言葉はまだまだ世界に広まっていません。クラスメイト、教授、企業に文化的背景から感性を理解してもらうのにはとても苦労しました。感性とはそれこそ自分の感性で解釈してしまっているもので、それをわかりやすく言葉にすること、文化の異なる人にもわかりやすく体系化することは大変な工程でした。ただ、感性の概念をフィンランド人は言葉で説明しなくとも感覚で理解してくれることが多かったです。感性カンファレンスを開いた時は、感性は横断分野的に共感を生むことができるんだねと意見をもらいました。そんな優しい感性という素敵な日本の概念を世界に広めるために、この論文は必要な一歩だと信じています。将来感性インテリジェンスだけではなく、感性そのものが世界で「IKIGAI」のような一般名詞となり、感性を大切にして行きやすい世の中になってくれることを願っています。

こういった思いに共感してご協力いただいた皆様に感謝を申し上げます。これからもアート、教育の分野でそういった和を広げていければと思います。

こちらではだいぶ内容を端折っているので、こちらから英語の論文原文を読むことができるので、ぜひご一読いただければ幸いです。
ご意見ご質問などいただければとても嬉しいです。

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