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「かもめ食堂」が自分の原点の一つだった “端正な一皿の料理”は世界に通じるのかもしれない と【KOZUKA 513 shop paper vol15 2020/08】

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「かもめ食堂」という映画があった
2006年公開 荻上直子監督 群ようこ原作
ヘルシンキで日本食の食堂を営む日本人女性(小林聡美)のお話
北欧らしい街並みの風景や かもめ食堂の清楚な佇まいがいい
地元の人にはなかなか受け入れられなかった日本食の食堂
地元食材のザリガニやトナカイの肉でおにぎりを試作するくだりや
シナモンロールの匂いに誘われて店に入ったご婦人たちが
常連になるエピソード
どことなく滑稽で
それでいて「食堂」というもののありようを妙に考えさせられる
 
フードコーディネーター飯島奈美による 料理の姿かたちが素晴らしい
結局のところ鮭や梅干しやおかかに落ち着いたおにぎりの
それはそれは端正な姿
真っ白なプレートにさりげなく乗せられた
例えば焼き網で丁寧に焼かれた鮭だったり
揚げたてをさくっと切り分けられたトンカツだったり
おいしそうな料理の姿かたちは国や文化を超えて
人の心に響いてくる
そんな力があるんだなぁと思う
 
どこか心の隅に「カモメ食堂」が原点としてある
高級食材や高価な調味料 高度な技法を使った料理ではないけれど
美味しいと思う材料を美味しいと思う味付けで調理しさりげなく
でもできる限り彩や盛り付け方を考えて そんな食事に魅せられて
自分たちも作りたかったのだ

生きることは食べることだ
贅を尽くした一品でも 塩鮭の切り身を丁寧に焼いただけのものでも
日々の一食一食が その一皿が
心までも豊かにするものであったらいいなと思う
 
長かった梅雨もようやく明けて
アブラゼミ ミンミンゼミ ヒグラシの鳴く夏本番
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「食」にまつわる映画は楽しいし、映画の中の「食」にまつわるシーンは美しい。
「かもめ食堂」はフィンランドの首都ヘルシンキを舞台にしているけれど、おにぎりをはじめとする日本のソウルフードが、それはおいしそうに登場する。飯島奈美の作り出す料理の世界が、主演・小林聡美のもつ不思議な清楚さにぴたりと合っている気がする。

「ホノカアボーイ」(2009年公開 真田敦監督 吉田玲雄原作)では、倍賞千恵子演じる料理上手なビーの料理が、印象的に登場する。こちらは料理研究家・高山なおみ。

「タンポポ」(1985年公開 伊丹十三監督)は、ラーメンが主役だけれども、映画の中にちりばめられる食に関するエピソードは、食べるということの執念深さや滑稽さ、豊かさ、官能などさまざまな様相を見せてくれる。

映画ではなく小説だけれど、小川 糸の作品の中の料理も心の隅に残る。





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