OCELOT

ただひたすらに文体練習!!

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死の前に

「……希死念慮が強いと?」 「どうですかね。自分でも判りませんが、死を望んでいるというより、死ななければならない、そんな考えがあります」  僕は自分の頭が通り抜けるほどの輪を作った縄をクローゼットのパイプに掛け、白い壁紙の継ぎ目を凝視する。頭の中の聖職者と会話を始めていた。 「それは、あなたの罪の意識のために?」 「多分そうでしょう。勿論罪のあるものは僕だけじゃない」 「私もそう思います。なにも悪いのはあなただけではないでしょう。そのことはだいぶ以前にもお伝えしましたが」 「

    • あと四か月だけ生きて 年末には行く末を決めよう

      • 澁澤龍彦の文章

         澁澤龍彦で最初に読んだものはサドの抄訳で河出文庫の『ソドム百二十日』である。その卓越した翻訳に心を動かされたかといえば、そういうわけではなく、巻末のあとがき(解説?)の饒舌さと文章の流麗さにまず驚いた。この訳者は何やら蠱惑的な文章力だと感心したことを覚えている。  読書自体、ひどく主観的なものであるから、文士の文章について門外漢がくだくだと述べることは当を得ない。しかし、それでもやはり澁澤の筆致は優れていると言っておきたい。  では何が優れているのか、あるいは優れている

        • 【創作】ユディトの物語──クリムトの絵画

           誘惑、ただそれだけの為に仕立てられたような絢爛な服を侍女は神経質そうに袋から取り出した。指先には震えがある。この極端に布地の少ない服は切れ味の悪い小剣を隠していた。ゆっくりと包みが解かれ、松明の火を受けて紅い光を放った。剣先はユディトを向いている。 「この剣はわたしたちを傷付けるためのものではないわ。わたしたちを守ってくれるものよ」  侍女に語りかけ、ユディトは剣で自らの服を切り裂いた。火照った身体からは獣の唸り声すら聞こえて来そうなほど、野性味に溢れて、──侍女は直ぐ

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        死の前に

          魔女の檻に

          「私は望んでこうなったわけではないから」  エリヤは黄昏に佇み、呟いた。逆光のせいで黒衣の聖母像に見えた。目を瞑り、瞼に残光を感じているらしい。夕陽が名残惜しいのかも知れない。  そのうちに、屋根が作る小さな陰の中に戻ってきた。いつもの位置、メイリアルの右隣に。 「わたしもだよ、エリヤ」  膝を崩し、もたれ掛かってきたエリヤの首筋は白い。むしろ吸血鬼である自分よりも血が通っていないのではないかと思える程、艶かしさに溢れていた。 「わたしも好きでこんな存在になったので

          魔女の檻に

          永訣

           エリヤ・カタルジュは部屋の鍵を閉めて、手に持った蝋燭に火をつけた。  城の薄暗い廊下を歩きながら、この場所での記憶に整理をつけていた。胸に沈み込んでいたそれは必ずしも楽しいものばかりではなかったが、立去る時になってみると、どうしても感傷が湧いてくるのを抑えることができなかった。  朝の陽射しが窓枠の隅を通り抜けた。この光を見るのは久しぶりのことだ。エリヤは落ちていた厚い布を窓の上に被せ、再び廊下を暗闇に戻した。日中に眠って過ごす友人のためには欠かせない仕事だった。  

          ポスト・クラシカル。音楽のジャンルレスをしみじみ思う。オーラヴル・アルナルズのDoriaやNyepiがとにかく素晴らしい。聴いていると色々と浮かぶ。心象や、或いは追憶の最も深いところにある、忘れていた黄昏が。……

          ポスト・クラシカル。音楽のジャンルレスをしみじみ思う。オーラヴル・アルナルズのDoriaやNyepiがとにかく素晴らしい。聴いていると色々と浮かぶ。心象や、或いは追憶の最も深いところにある、忘れていた黄昏が。……

          蝋燭の灯りのもとで

          「こわがらないで…」  眠りに誘うような声が首筋をなぞった。  肌の上を見定めている。鎖骨を指で触れ、肌の特に柔らかい箇所には唇をつける。温かみの無い身体の感触が、かえって気分を落ち着かせていた。やがて首のすぐ下から肩へ歯を立て、唐突に、やはりというべきか頸動脈の辺りを噛んだ。 「痛い? 」  問いかけに小さく首を横に振った。  伸びた犬歯が皮膚に食い込み、穴を開け、肉の下に埋もれた血管に齧りついた。傷口からは鮮血が滴っている感覚がある。水よりも粘度のある錆びた匂い

          蝋燭の灯りのもとで

          城への途上

           カルパチア通信の記者、エル・カタルジュが森の外れにある宿に辿り着いた時には既に太陽は沈んでいた。さほど珍しくもない石造りの古い建物は夜に溶け込み、暗い中に窓から見える暖炉の火だけが目印になっていた。  本心ではもっと明るい時間帯に来たかったところだが、これから会いに行く相手を考えればやはり夜の方が望ましかっただろう。  居城への道中は複雑な獣道を通る必要がある。この宿に迎えを送るから待っていてほしい。最後に受けた手紙にはそう記されていた。  宿の中は狭い。いまは改築中

          城への途上

          彼岸過ぎに

           九月も半ばを過ぎたが、大神村にはまだ夏の気配が漂っていた。秋神花楓は冷たく澄んだ川の水で足の痛みを和らげていた。川底の砂礫の感触はときに痛々しくも快くもある。腰を掛けている桟橋からは、古い木材の頼りない音が響いていた。  昼間、村の者から投げつけられた数個の石は、花楓の足と頭に強く当たった。右のこめかみ辺りがまだ腫れていた。  花楓は、ふいに桟橋に立ち上がり、勢いをつけて川の中に飛び込んだ。大きな水音は岸壁に跳ね返り、空の中へと吸い込まれていった。  浅い場所であった

          彼岸過ぎに

          河出文庫の澁澤龍彦絶版??? 実家に澁澤龍彦集成まだ残ってるかな…

          河出文庫の澁澤龍彦絶版??? 実家に澁澤龍彦集成まだ残ってるかな…

          本当に雑記帳のようになってしまった、Note。 でもTwitter(X)は嫌だしなぁ 記事の整理めんどう

          本当に雑記帳のようになってしまった、Note。 でもTwitter(X)は嫌だしなぁ 記事の整理めんどう

          夏に思ふこと

          グラスに入れた麦茶を暫く眺めてゐる。夏の畳の上に置かれたグラスは直ぐに汗を掻く。団扇で扇がれても、微風の中に置かれても、我慢は難しいやうだ。 麦茶の氷が窮屈さうに泳いでゐる。時折、からんころんと音を立てて。この音は今の時期にしか耳にしない。 七歳の頃、私は縁側に坐つて景色を見てゐた。大好きだつた祖父の家の縁側で、涼みながら、田圃の畦道を。そこを行き交ふ楽しさうな人々を見てゐた。あの時、母は何と言つたのだつけ? 家の中に居ないで。出て行け。 たしか、かういふ言葉だつた。

          夏に思ふこと

          無知無学こそ人生の幸福なり。若し碩学たらんとすれば短命を覚悟せよ。

          無知無学こそ人生の幸福なり。若し碩学たらんとすれば短命を覚悟せよ。

          娘を持つ父親は秋の空の如き複雑な感情に終始している。常に春のような娘の幸せを願いながらも、それが現実になると忽ち冬の如き冷淡になる。その又、冷淡な言動の中にも夏の嵐のように嫉妬に狂う矛盾が隠れていないことは無い。……

          娘を持つ父親は秋の空の如き複雑な感情に終始している。常に春のような娘の幸せを願いながらも、それが現実になると忽ち冬の如き冷淡になる。その又、冷淡な言動の中にも夏の嵐のように嫉妬に狂う矛盾が隠れていないことは無い。……

          僧伽多、羅刹国へ行くこと(宇治拾遺物語より)

          「なんでも、今度の目的地は金津とかいう、えらく縁起の良い名前のところだそうじゃないか」 「そのようだな。僧伽多様の話では未だ交易のない未開の地だそうで、だからこそ、選り抜きの我々をお呼び下さったのだ。富を増やす良い機会だろう。いや、増やすだけじゃ飽き足りぬ。手つかずの地ともなれば、新たな奴僕すらも手に入ろうというもの」 「よせよせ、新たな家来なんぞ。天竺にあってももう存分に富は蓄えたろうに。欲はたしかに我らにあっておかしくないものだが、お前のところは孫の代でもまだ使い果た

          僧伽多、羅刹国へ行くこと(宇治拾遺物語より)