モンク

1 風邪を引いている間くらいは「良い子」にして過ごそうと、夜9時には床に就いていたのだが、就寝前にブラウザを開くと、次の動画がオススメで表示されたので、思わず見入ってしまった。

 35でおっさんなら40代の私は立つ瀬がない。それ以上に、「革命前夜」さんの動きはおよそ素人とは思えなかったので、少し調べてみたが、やはりプロのブレイクダンサーの方だそうである。

 私は普段TVもYOUTUBEも(記事の執筆に必要な範囲でしか)見ないので、「ブレイクダンス」については全くの門外漢である。
 「ブレイクダンス」に関する知識と言えば、10th Planetのマルチネス兄弟が「ブレイクダンス」をやっていると聞いたことがあるくらいだ。

 私の大学時代には、BJJの道場は都内でも数えるほどしかなかった。通学に利用していた私鉄の沿線のとある駅に「ブラジリアン柔術教えます」という看板が出ていたので、興味を持ったが月謝が3万円近くしたので、とてもではないが当時の私に通うのは無理だった。
 その一方で、同時期にあちこちのスポーツジムで「ストリートダンス」が教えられるようになり、多くの子供達が通っていたそうである。

 10年程昔中学生に「ダンス」が必修化されると聞いて、「なぜ、ダンス?」と思ったのは確かだが、20年前の「ストリートダンス」ブームを経て、これを義務教育課程で必修化しても子供達が違和感を感じないような土壌が育っていったという事だろう。

2 同じく必修化された「武道」の方は旗色が悪い。少子化が最大の原因ではあろうが、柔道人口は激減している。「ストリートダンス」教室の隆盛に比べると、昨今の柔道キッズの減少は寂しい限りである。
 
 2021年に開催された「東京オリンピック」を私は柔道以外まともに見なかった。稽古から帰って食事を取りながら、なんとはなしに「Xスポーツ」を見ていると、観客として見て楽しいかどうか以前に、参加する選手が純粋に競技を楽しんでいる事に気が付いた。

 今回「革命前夜」さんの動画を見た際も全く同じことを思ったのだが、私は「ブレイクダンス」も「Xスポーツ」もルールすら知らない。だから、そうした競技に参加する選手たちの技量がどれほど凄いのかは全く「分からない」。だが、ただひとつハッキリと分かったのは、「ブレイクダンス」や「Xスポーツ」をやっている人々が実に生き生きと楽しそうに競技をしているという事である。

 日本でBJJを練習している人々を見ていると、彼らの大半は楽しそうに見えない。黙々とスパーリングをこなし、まるで修行僧のようである。BJJの稽古には、各人なりに楽しめるいくつものプロセスがあるは確かなのだが、(BJJに興味のない)部外者から見て、「何が楽しいのか分からない」というのは「ブレイクダンス」と比べた場合、(「競技のルールが分からない」という点で両者は同じであるにも関わらず)武術ないしスポーツの普及浸透という点から見ると大きなハンデを追っているのは間違いないと思う。

3 競技の世界で頂点を目指すためには、(BJJに限らず、他の格闘スポーツでもそうだと思うが)苦行の連続に耐えなくてはならないだろう。目標を設定し、それを達成するための合理的なトレーニングプランを考え、わき目も振らずそれを実践する。
 頂点を取れればいいが、それが出来なかった場合、そうしたストイックな日々に耐えきれず燃え尽きてしまう人々が少なくないのも首肯できる。

 BJJとサーフィンとの親和性を唱える人々がいるが、ひとつにはグレイシー一族が、過酷な日々のトレーニングの合間にリオのビーチでサーフィンをやって、息を抜く必要があったからだろう。
 トレーニングで息の詰まるような日々が続けば誰だって窒息してしまう。ただ、息抜きがサーフィンである必然性は全くない。

 息抜きは上の記事にあるように「スケートボード」でも、ジオ・マルチネスのように「ブレイクダンス」であってもいい。

 BJJが本質的に格闘技であり、お洒落ではないという事実を知っている人間からすれば、これをアメリカ西海岸のカルチャーに寄せて「サーフィン」や「スケートボード」と一体化させ、なんとなくカッコいい「お洒落横乗りスポーツ」として普及させようとするのは、戦略として誤っているし、イメージに乗せられた挙句怪我する人を増やす(その結果として、柔術嫌いの人を生み出す)だけなので止めた方がいいと思う。

 BJJの本質を「セルフディフェンス」と捉えるか、「競技で勝つ事」に置くかは人それぞれだと思うが、BJJを世の中に広めたいのであれば、曖昧なイメージや雰囲気ではなく、その練習に取り組む価値ないし意味付けをもっと明確にして発信する努力をすべきだろう。

 「ブレイクダンス」に対抗して、見学者に「ベリンボロ」を見せても、残念ながらそれで彼らを魅せる事は出来ない。そう言う私は「べリンボロ」が出来ないのだが、辛うじて出来る「トラック」を彼らに見せる気にはとてもなれない。・・・と、ここまで書いて思い出したのだが、そう言えばウチの先生もだいぶ前に柔道の強い中学生の女の子が見学に来た時に、華麗な「ベリンボロ」を披露していた。ウチの道場はお世辞にもカッコいいとは言い難いと嘆息した。


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藤田 正和
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