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なんのために働くのか

なんのために働くのか、という問い

「なんのために働くのか」という問いに対して、あなたはどのように答えますか?
「食べていくため」「家族を養っていくため」「お金のため」と答える人も多いでしょう。
決して間違えているわけではありませんが、更に「なぜその仕事を選んだのですか?」と問うとどうでしょうか。
あるいは「どのようにお金を得たいですか?お金が得られればどのような仕事でも構いませんか?」と問いを重ねていくとどうでしょう。

多様な職業を選べるからこその悩み

このような問いは現代の先進国に生きる我々だからこそ強く悩んでしまうのではないかと思います。
少し時代を遡れば、生まれた家や身分によって選択できる職業はかなり限られていました。「長男が家を継ぐ」みたいな表現は私たちにもまだ耳馴染みがありますが、この「家」はもともと物理的な土地建物だけを指しているわけではなく、家業を始めとしてその「家」が地域で築いた有形無形の地盤を引き継ぐという意味だったろうと思います。現在はそのニュアンスは随分弱まってきたというのは皆さんが体感されているとおりです。
資本主義の発展は、個人の職業選択の自由を基盤にしています。これだけ多様な産業・職業が生まれ、それらを自由に選択できるという状況はとても最近の話なのです。

生きることが相対的に簡単な時代

また、賛否両論は承知の上で申し上げると、資本主義によって私たちは随分と豊かになりました。
毎日開いているスーパーには常に多様な食材が並び、調理が面倒であれば手ごろな値段で外食することができ、家電は家事労働を大幅に楽にしてくれました。交通は発展し、地方であれば1人1台自動車を持っていて当たり前、遠出がしたければお金と時間さえあれば世界中に旅行に行くことができます。インターネットは世界中の情報を即座に提供してくれ、分からないことは人に聞くまでもなくネットで検索すれば解決できるようになりました。
加えて、国家による福祉政策も充実しています。国民皆保険の下で誰でも少ない自己負担で医療が受けられ、年を取って自分で生活するのが難しくなれば老人ホームに入れば生きていけます。失業すれば失業保険がもらえ、自力で生活できるだけの収入がなければ生活保護により最低限の生活は保障されます。
「そんなにいいことばかりではない。問題は数多くある。」という声が聞こえてきそうです。私もそう思いますが、ひとまず、大筋として現代の先進国では「生きること」の難易度がぐっと下がってきているということが言いたかったわけです。

このように、多様な職業が選択可能で、生きることの難易度がぐっと下がった時代に生きる我々は、「何のために働くのか」という問いに対して「食べていくため」「家族を養っていくため」「お金のため」という答えでは自分自身が納得しきれない、という状況になっているのです。

ウェルビーイングの考え方

ここで、「何のために働くのか」という問いに対する最大公約数的な回答として、「幸せになるため」とするとどうでしょう。
確かにそのとおりではあるのですが、どうにも抽象的すぎてしっくりこないでしょうか。それを言っちゃあおしまいよ、なんて気もしてくるかもしれません。
「幸せ」なんて人それぞれだし、なんなら1人の人間の中でも変わり得る。

しかし一方で、「幸せ」とはどういう状態のことかを考える学問もさまざまな分野で行われており、その知見も高まってきました。このような知見を集約し、人間が幸せを感じる状態についての指針がウェルビーイング(Well-being)です。

つまり、心理学的な基礎研究から、脳科学や工学、教育学や地域活性化、創造性といったあらゆる分野で人々のよりよい生き方や働き方に関する研究まで、すべてを含めて「幸福学」ないしはウェルビーイングの学術研究と定義しているわけです。

前野隆司 前野マドカ 『ウェルビーイング』より

イノベーション/生産性向上

また、近年声高に叫ばれるイノベーションや生産性向上ともかかわりが深いと言われます。
幸せな人は創造性が3倍高いこと、生産性が1.3倍高いこと、寿命が7年から10年長くしかも健康であることなど、多くのことがわかってきました。
つまり、働く人が幸せであることは、企業がイノベーションを目指し、生産性を向上させようとする営みと親和的であると言えます。

ウェルビーイングの要素とは

ウェルビーイングにはどのような要素が関係してくるでしょうか。
百聞は一見に如かず。
幸福度診断 Well-being Circle

とうサイトがありますので、よければ自己診断してみてください。
個人的に注目している指標をいくつかご紹介させていただくと、
「没入力」
何かに没頭できる状態って、幸福度が高いと思いませんか?そして毎日忙しくしていると我を忘れて何かに打ち込むことができなくなりがちです。
「信頼関係のある」+「家庭」「地域」「職場」
生活のあらゆる場面での信頼関係は確かに幸福度と関係しそうです。逆に、どこかで信頼が損なわれている状態を想像するとそれだけでつらい気持ちになります…
「楽観力」
なんとかなるさ、というマインドです。仕事の上でピリッとした緊張感や責任感は大事ですが、最終的にはなんとかなるさ、というマインドがないとどこかでぽきっと折れてしまいそうです。

ウェルビーイングを満たすために働くのか

改めて最初の問いに戻りましょう。「なんのために働くのか」。
「ウェルビーイングを満たすため」という回答ではどうでしょうか。
天啓を得たように感じた方もいれば、むむっと顔をしかめた方もいるでしょう。私は後者です。
国家や経営者の視点で、国民や従業員がウェルビーイングを満たせるように政策決定や経営を行うのは大賛成です。

ですが、いち個人として「ウェルビーイングを満たすために働く」というのは、しっくりこない。
例えば没入力を発揮して働くのであれば、何に没入するのかが何よりも大事です。そこをとばして没入も幸せもないだろうと思うのです。やはり自分の言葉で導き出した答えが必要なように思います。

一方、「なぜだかわからないけど、いまいち幸せでない」と感じている方は、自分のウェルビーイングを見直すことで状況が改善するかもしれません。

最後になりましたが、「なんのために働くのか」に対する私の答えは「右も左も大爆笑」な人生を送るためです。しょっちゅう変わるんですが。

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