テクニックとスキルの違い/スキルが高い選手を育てるための指導方法


1.テクニックとスキルの違い


テクニック(基礎技術)とスキル(実用的技術)は別物である。

日本には練習やそこまでプレッシャーのかからない場面では、ボールフィーリングやパス、コントロール等、ボールの扱いが上手い選手はたくさんいる。

しかし、相手からのプレッシャーがかかると途端に慌てて思い通りのプレーが出来ない。
それはテクニック(基礎技術)のみある選手だ。

では、スキルとは何か。
スキル=認知・分析・判断+基礎技術・身体操作(実行)の総合力
だと考える。

トッププレイヤーはそれぞれの質が高く、スピードが速い。

ただ、特に能力や体格差の大きい4種年代では基礎技術だけでどうにかなってしまう部分もあるのが現実である。
それゆえ、上手くプレー出来ていると勘違いしてしまう選手や指導者が非常に多い。

基礎技術だけが優れている選手がカテゴリーが上がった途端、複雑化したピッチの中で、思い通りのプレーが出来ず伸び悩む姿を何度も目にしてきた。

また、指導者も例え良くない判断であれ実行した結果、成功すれば褒める、失敗すれば怒る、という現象(結果)にしか目を向けていない。


2.認知・分析・判断・実行とは


認知=状況把握(視覚・聴覚・触覚)
分析=収集した情報から予測する
判断=選択肢の中から最適解のものを選ぶ
実行=基礎技術を含めた身体動作

フットボールは常にこのサイクルで回っているが、サッカーに限らず普段の生活でも無意識にこのサイクルを行っているだろう。

例えば車の運転中に交差点を右折する場面。

認知=横断歩道を渡る歩行者がいないか目視(視覚)で確認する

分析=車と歩行者の距離的にこのまま進むとぶつかりそう

判断=歩行者が渡りきってから右折しよう

実行=ブレーキを掛けて横断歩道前で一旦停止する

運転者は画像右下の歩行者に気づいていない。
認知が不十分であればその後の分析・判断・実行に大きく影響する。

画像では運転者は右下の歩行者に気づいていない。
所謂、見落としである。
交差点内で車と歩行者の接触事故が起こる際、経験や知識不足による分析(予測)ミス、焦りによる判断ミスもあるだろうが、恐らく殆どが認知(情報収集)不足だろう。

実は、フットボールでもこの現象はよく起きている。

ポジショニングの悪さや首を振って周囲を確認できていない事による情報収集不足から誤った分析・判断・実行をしてしまう。

試合会場でも、ウォーミングアップの単純な対面パスなどで「首を振ろう」とだけ伝えている指導者が非常に多く、明らかに首を振ることが目的になっている。
【何を観るのか】を伝え、【本当に観れているのか】を追求する事が重要だ。

久保建英選手は
「人は見えないものが怖い。情報収集しておくことで技術を安全に発揮でき、自分の力を100%出せることにつながる。情報収集能力が一流と超一流を分ける」
と語っている。

久保選手は「観る」に関しての質も高く、サイドからのドリブル中は自分と対峙しているSBだけでなく、SB後方のCBの位置まで観ている。
CBのカバー位置が近ければSBを突破しても防がれる可能性が高いため、無理な突破は試みない。
逆に、CBのカバー位置が遠ければ積極的に仕掛けるという。

テクニックだけにフォーカスされがちな日本サッカー界だが、いかに脳の部分が重要となるかがおわかりいただけただろうか。


3.認知・分析・判断力を強化する指導方法

【トレーニング】


気づき・考え・発言(言語化)することを癖付けさせる

また、エコロジカルアプローチを用いることや、より実践に近い形(グローバルトレーニング・インテグラルトレーニング)を用いることも重要である。
こちらについては、別の記事で紹介する予定。

各メニューの導入の際には以下を伝えてからトレーニングに入る。
※細かい動作等は伝えず選手に探究させる。
・メニューの狙い、目的
(この練習を行うことでどうなるのか・どのシチュエーションを想定したものか)

2回目以降は、メニューに入る前に選手に質問をしてからスタートする。
一貫して答えは渡さずヒントだけを渡す。

メニューが上手くいかない場合は、トレーニング中に選手主導で集合して問題点の確認や改善方法の提案を行うよう促すことで(*)の意識付けに繋がる。

選手が慣れていないうちは、指導者主導で集合させ、こちらから質問をするなど手助けしてあげることも必要だ。

トレーニング中はできるだけプレーを止めないよう、シンクロコーチングサイドコーチングを行う必要があるが、特に選手自身に知識や経験が少ない初期の段階では現象に気づく事が難しい為、フリーズを用いて状況を理解させてあげることも大事なポイントとなる。

【プレー中】

①状況把握・分析・判断に必要なヒントを与える
②起きた現象(結果)にだけフォーカスして指導しない

例1)サイドでボールを受けてドリブル突破した際、ペナ内の確認が出来ておらず無理にシュートを打って外してしまったシーン。

誤)「中見ろよ!」
  「シュートじゃないだろ!中にパスだろ!」

正)「中にフリーの選手いたの見えた?」

※見えていた場合
⇨「なんでシュートを選択したの?」
 「シュートはどこを狙ったの?」
※見えていなかった場合
⇨「どうして中を見られなかった?」
 「どうしたら中を見られるかな?」

例2)適当なプレーや意図の汲み取れないプレーをした場合。

誤)「なんだよそのプレー!」
  「適当にパスするな!」
  「〇〇にパスだろ!シュートだろ!」

正)「今のはシュート?パス?」
  「誰にパスしたの?」
  「なんでその選手にパスしたの?」
  「なんでシュートを打ったの?」

答えが出てこない選手に対しては
「周りの状況はどうかな?〇〇な状況だったからドリブルで中もアリじゃない?」
など、今後の選択肢・判断材料となる情報を伝えることも必要である。

以上のように、とにかく質問し、問題点に気づかせ・考えさせ・言語化させる事で、認知・分析・判断・実行のプロセスに徐々に慣れさせていく。

質問をして選手の思考や理解度を把握することで、今後のトレーニングメニュー構成や選手へのアプローチ方法の手助けともなる。

また、上記はあくまでも具体的な戦術やプレーモデル、意図がある場合でなければ意味がない。
曖昧な状態でプレーさせ「顔を出せ」「受けに来い」「感じて走り出せ」などと抽象的な事を言われても、トレーニングと同様に判断するベースが無ければ選手が戸惑うだけだ。
戦術は判断の手助けとなるため、戦術についても学び落とし込むスキルを身につける必要がある。

4.実行力の高め方(身体操作・感覚)


実行において、基礎技術は言わずもがな必要であるが、ポイントとなるのは「身体操作」「感覚」である。

主なトレーニングとしては
・後ろ向きでのリフティング、ドリブル
・空気の少ないボールやお手玉でのボールコントロール
・目を瞑った状態でのボールコントロールや動作トレーニング

などがある。

上記トレーニングの基礎でもある、コオーディネーショントレーニングライフキネティックなど、脳の活性化や脳・神経系・身体を繋ぐトレーニングが重要であり、指導全般そうだが特にこの分野においては、興国高校GMの内野智章さんを参考にさせていただいている。

内野さんは 、スペインサッカーの考えを基礎に古橋亨梧(セルティック)を始めとする27名のJリーガーを輩出している育成のスペシャリストである。
その内野さん自身は、脳科学を徳島大学名誉教授であり日本コオーディネーショントレーニング協会理事長の荒木秀夫さんから学んだそう。

内野さんいわく、「スポーツは反復させながら慣れを払拭するという矛盾した作業を行う必要がある」という。

・後ろ向きでのリフティング、ドリブル
フットボールでは後ろ向きでのボールコントロールも必要であり、前向きと後ろ向きでは使う筋肉やそれに伴い神経系が変わる為、様々なリフティングやドリブルを後ろ向きでも行っている。
リフティング練習では、普段使用している4号球や5号球は使わず、慣れを払拭し、新たな刺激を入れることで脳を活性化させる為に、3号球を使用している。

・空気の少ないボールやお手玉でのボールコントロール
リフティングや対面ボレーの際に空気があまり入っていないボールやお手玉を使用することで、ボールを蹴った際にへこむことで、足に対してボールの接地面積が通常より広くなり、足に入る刺激が変わる為、こちらも脳の活性化に繋がるという。

・目を瞑った(視覚を使わない)状態でのボールコントロールや動作トレーニング
こちらは、タレントで元十種競技日本チャンピオンの武井壮さんも現役時代、固有感覚(動筋肉や腱、関節など、身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚)を発達させ、イメージ通りに身体を操作できるようにするために、目を瞑ったまま様々な動作を行っていたという。

武井壮さんが言うように、目を瞑った状態で腕を肩と水平になる位置まで上げると、感覚的には水平だと思っていても実際には少し誤差があり、理想(感覚)と実際の誤差を無くす事が身体操作において重要だということがよく分かる。

また、荒木名誉教授も、視覚を切ることで余分な情報が遮断され、脳の意識を筋や関節に集中させる事ができる為、固有感覚の向上には非常に重要だと述べている。


5.身体操作と感覚の向上が「顔をあげる力」に繋がる


では、実際に身体操作と感覚が向上するとどのようなプレーが可能となるのか。

それは、「プレーキャンセル」である。

ここまで、
ボールを受ける前に情報収集

集めた情報を元に分析

選択肢から最適なもの選ぶ

実行(技術発揮)

という一連のプロセスについて解説してきたが、フットボールは1秒後には状況が変わるスポーツであり、当初選択した判断から変更する場面も多々ある。

瞬時に別の選択肢に変更する「プレーキャンセル」をする為には、ボールを持っている状態で「顔をあげる力」が非常に重要となる。

顔を上げるということは、ボール(足元)を見ずにプレーするということ。
所謂、ボールから目を切るということだ。
その為には、先程述べたように視覚を使わずにボールや足の位置を把握し、ボールを理想の位置に置き続ける必要がある。

そこで、身体操作や感覚のトレーニングが重要となってくる。

例えば、ポゼッショントレーニングを行う際、ボールを足で扱う場合と手で扱う(ポートボールのような状態)場合とでは、圧倒的に手で扱っている時の方が焦らずスムーズにプレーができるだろう。
それは、自分が保持しているボールの位置が分かる事で、認知・分析・判断に意識を集中させることができるからだ。

これと同じ状況を足で扱うときも作れるようにすることが、身体操作・感覚トレーニングの最大の目的である。

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まだまだ、日本はテクニックだけにフォーカスされがちだが、戦術も個人技術も全てひっくるめてフットボールであるということである。

足元のテクニックだけをフットボールだと捉え、今回紹介したような部分を疎かにすると、将来、修正が難しいほどの負債となる。

物事の本質に向き合うことで、より質の高い指導やトレーニングを行うことができ、効率的にチーム・選手の成長に繋げられるだろう。

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