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愛とは

「愛って君にとってどういうもの?」
唯一の男友達と仕事終わり真夏の公園でプチビアガーデンを自主開催している時に突然聞かれた。

彼はしょっちゅう「成し遂げなければいけない道のために精進しなければいけない」と恥ずかしいことを惜しげもなく言うタイプのインテリで(私とは正反対)、政治や思想、文化に至るまで夜中まで討論しては意見が合わず終わると言う友人だった。
夏目漱石の「こころ」に出てくる友人Kのようなことを言うので、ここではKと呼びたい。(私はこの小説が大好き)

Kは「僕は多分、人を本当の意味で愛したことはないと思う」と続けた。
私は黙った。
いつものKの「今の政権に必要なものは?」とか「日本人の文化性ってなんだと思う?」とかくだらないあれこれには、スラスラ独自の意見を答えられていたのに。

陳腐な言葉ばかりが思い浮かんでくるのだ。お酒に酔っているわけではなく、かっこいい言葉が一つも思い浮かばない。

トンカツの1番美味しいところをあげること。
夜中に布団がしっかりかかっているか見て、直してあげること。
仕事に行く前に「あなたならできるよ」と声をかけてあげること。
帰宅時に顔を想像しながら、ドーナッツを買って帰ること。

ミスチルの桜井さんなら
愛はきっと奪うものでも与えるでもなくて気がつけばそこにあるもの
と言うだろうし

湘南乃風なら
目を閉じれば一番光るお前がいる
と歌ってくれるのだろう。

数分黙ってKに言った。

「愛とは、ドーナッツを3つ買って帰ること。1つは私の分で、2つはその愛の対象のために」

そして「ものすごく陳腐だけれど」と付け足した。

するとKも少し考えて
「それが君の愛なんだからいいんじゃない?そうやって愛してきたんでしょう?」
と言った。

そうなのだ。私は一生懸命愛してきた。

トンカツの一番美味しいところをあげて、喜ぶ顔を見てきたし
布団を剥ぐ音で起きて、寝ぼけながら掛け直してあげて
外出時はいってらっしゃい!頑張ってね!気をつけてね!
ミスドを買って帰って、ジャーン!嬉しいでしょ!遅くなってごめんね!と

彼らにとって、愛されていると実感ができていたかは分からない。
でも私はこうして愛してきたのだ。
そして今も、私は胸を張って言える。元彼を心底愛していたよ。と

そして私は愛されていた。
彼らは、私を特別な人にしてくれていた。
自信のない弱々しい1人の女の子だった私を、なんでもできるスーパーマンにしてくれた。
「お仕事真剣に取り組んでるところ知ってるよ」「君の顔、僕は大好きだよ。自信持てばいいのに」「君の発想って最高!」

自信と勇気をたくさんくれた。

これが私にとっての愛。
言葉にはまとまらないけれど、今の私の愛という概念なんだと思う。


そんな話をして数ヶ月後、もうプチビアガーデンもできなくなって来た頃
SNSに流れてきた画像に一気に涙が溢れていた。
この文を読んでから、私の宝物の言葉になったので紹介したい。



恋をする力って、相手を美化する力なんです。相手のことをとことん美しく、素敵で、神秘的な存在として思い込む力なんです。それを、たぶん、愛と呼ぶんです。
愛された人は、自分がそんな美しく神秘的な存在じゃないと知っています。
だけど、その思い込みは、愛された人にも愛した人にも勇気をくれるんです。だから、愛は人を変えるんです。それが、愛の力なんです。

 『恋愛戯曲』(2001年)鴻上尚史作



あぁ、なんて素敵な言葉たちなんだろう。
私の頭が整理された気分だ。この言葉たちは心に刻まれた。
そして、これから愛する人に私は伝えて生きたい。

「あなたはこの世界で一番素敵な人だよ」と
「ドーナッツ買ってきたよ」を


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