【関西人がゆく】 #3 鳥取・境港 「水産物直売センターほか」
日本海有数の漁港、境港に隣接する鮮魚の直売センター。
海鮮丼が名物とのことで三回ほど立ち寄ったことがある。
いえ、海鮮丼は美味かったですよ。
当時、直属の上司が釣り好きで、誘われるままに磯釣りに挑戦した。
面白い。
釣り、面白い。
私は、次第に道具を揃えはじめ、週末には友人と遠征をするようになった。
そのお気に入りスポットの一つが、島根県松江にあった。
島根半島の加賀の潜戸鼻(くけどばな)。
島根県公認のジオ・スポットらしい。
確かに、剥き出しの岩壁が、荒々しく日本海になだれ落ち、ジオ・スポットらしい景観である。
その日は入れ食いであった。
綺麗に手入れしたルアーを海に放り投げる。
コツ、コツ……。
すぐに当たりが来るのだ。
オリャッ!
と釣り上げたのは、イカ、そしてイカ。
そんなこんなでクーラーボックスに一杯のイカを詰め込んで帰途についた。
その途中、立ち寄ったのが、境港である。
いえ、海鮮丼は美味かったですよ。
その直売所は駐車場が広く、車を降りるとまず目に飛び込んでくるのが、有名な「ベタ踏み坂」である。
なかなかの壮観である。見る角度によれば、確かに車が、垂直の道路にへばりついているように見える。
そして、道路を渡ると、ゲゲゲの鬼太郎でお馴染みの水木しげるロードが続いている。
観光資源は豊富なのだ。
いえ、海鮮丼は美味かったですよ。
私は、どうせなら、と思う。
「本日、朝獲れの鮮魚を境港の漁師たちが見境なくぶち込みました!
どうぞ、ご賞味あれ「ベタ踏み丼」です!」
ほら、「海鮮丼」って、季節を問わず全国どこにいてもいただけるから……。
「本日、朝獲れの鮮魚、その目玉でとった出汁が五臓六腑に染み渡ります!
どうぞ、ご賞味あれ「目玉おやじの行水汁」です!」
ほら、旅って、思い出だから。
旅先で出会った人や食べた物を、大切な人と分かち合う営みに、強烈なトリガーが欲しい。
「境港で海鮮丼食って来た」
「美味しかったの?」
「うん」
「よかったね」
待て! 待て! 待て!
思い出を砂丘に埋めるような真似スナ。
「境港で「ベタ踏み丼」食って来た」
「え、マジ? あのベタ踏み丼! ねえねえどうだった」
「凄かった。なんせ……、あと、目玉おやじの……」
「うそ! 親父汁じゃん。味は?」
「つらい男の味がしたなぁ。それから……」
「うんうん……」
更ける、イカで腹一杯の夜……。
いえ、海鮮丼は美味かったですよ。
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