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恵みの島、奄美 8

マテリアの滝をあとにしてからも、あっさりとはいかなかった。ホテルは島の対岸にあるので、山越えをしなくてはならなかったのだ。しかもナビは、滝からホテルまで、さらに2時間近くかかると示している。そんなのは聞いてないよ、という気分だ。

常々思うのだが、地図には普通、道のアップダウンが示されない。これはカーナビの地図においても同様だ。走っていると突然、山登りになったりして、これがどこまで続くんだろう、さっきみたいな細くて鬱蒼としたところをまた通らなくてはならないのか、と不安になる。そしてしばしば、天然記念物のアマミノクロウサギとの、事故多発地点が登場する。アマミノクロウサギならむしろ遭遇したいが、轢くのはごめんだ。
しかし、さすがにマテリアの滝に向かった時みたいなひどい道はなく、なんとか山越えに成功する。後で調べたら、山は湯湾岳といって、わずか694メートルの標高しかない(と言っても、海抜ゼロメートル近くから上がっているので、それなりの高低差はあるが)。700メートル弱の山を越えるのにそんなにビビっていたのかと思うと、拍子抜けする。

しかし山越えが終わったら課題は終わり、とはいかなかった。カーナビの示す道とiPhone地図アプリの示す道が異なり、到着時刻も30分以上違うのである。
目的地近くのホノホシ海岸の標識が、道路上に提示された時、それがナビの案内する方向ではなく、iPhoneの示すそれだったので、私はiPhoneに従うことにする(当然iPhoneのほうが到着時刻が30分早い)。
ところがその道が、またしてもあまりよい道ではなかった。海沿いなのだが細い道で、対抗車とすれ違うのが困難だ。なおかつ山道と同様にカーブが多く、対抗車がいるのかどうかわからない箇所が大半だった。ここでも幸いにして、ほとんど対抗車は来なかったのだけが幸いだった。知らない道を走るのは、しかもそれが悪路なら、非常に困難だ(ちなみに帰りはナビが案内する道を通ったのだが、そちらは遠回りではあるものの、広くてちゃんとした道だった)。
そんな思いをしてようやく、この日のお宿、THE SCENEに到着した。ショートカットしたのと、飛ばしたのが功を奏して、到着予定時刻を前倒しすることに成功し、チェックイン時刻の3時ちょうどくらいに着いた。

フロントでウェルカムドリンクを飲みながら、チェックインの手続きをする。荷物はスタッフが部屋に運んでおいてくれると言う。
フロントで、サービスなどについての簡単な説明を受けたあと、部屋までスタッフが同行し、部屋の中の説明もしてくれる。部屋にはスタイリッシュなカバーのかかった大きなベッドがあり、足元までガラス張りの大きな窓がある。窓の外は全面海が見えて、対岸の加計呂麻島もすぐそこだ。ベッドに横になると、窓いっぱいに海が見えて、まるで海の上に浮かんでいるように思える。

足元までガラス張り
色使いがスタイリッシュ
洗面台
浴室から海が見える


そしてこの時期は運がよければ、大島海峡を縦断するクジラが見えるのだそうだ。そんなことを言われると、つい窓の外を真剣に見てしまう。大島海峡は、向かいの加計呂麻島まで泳げるのではないかと思うくらい、幅こそ狭いが、深いのだそうだ。だからクジラが通ることがあるのだという。クジラは見られなくとも、ウミガメが息継ぎをしている様子は頻繁に見られるということだった。
温泉の利用は午後4時から、自由参加のヨガクラスは午後4時半から、そして食事は6時スタートの回を申し込んでいる。あまりのんびりしている暇はないが、いつまでものんびりしていたいと思うほど、部屋はとても居心地のよい空間だった。〈9に続く〉

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