「しあわせについての話」(授業での課題)

前書き

授業の最終レポートで小説を書けと言われ書いたもの。声でかいあの先生まじで許さないと思いながら書いたにしてはよくできたと一人で思っている。文才はないが読んでくれるとうれしい。

本編

昔話をしてあげましょう、と彼は言った。私がどんな話、と問うと、彼は寂しそうに笑ったように思う。彼は、幸せについての話だ、と言った。それは、こんな話だった。
昔々、一人寂しく、しかし優雅に辺境に暮らしていたおばあさんがいました。おばあさんは家事ができないひとだったので、お給料の掛からない、ロボットを一台購入しました。そのロボットは気立ても優しく、そしてなんでもできる優秀な子だったので、おばあさんは次第に親しみを込めて「ロボットちゃん」と呼ぶようになりました。ロボットちゃんは、それはそれは真摯に仕事に取り組み、またおばあさんの話し相手としても活躍しました。
しかし、ある時おばあさんが危篤状態になってしまいます。ロボットちゃんはとても慌てて、医者を呼んでこようとしたところ、何故かおばあさんから止められました。
「ロボットちゃん、もういいんだ。私はこの年までよく生きたよ。もうすぐ私は死ぬだろう。そのことが、もう私には分かってるんだよ。お医者様を呼んだって無駄さ。それよりも、私はロボットちゃんとお話しがしたい。このおばあちゃんの最期の願いだよ。」
ロボットちゃんはそれを受け入れました。おばあさんとロボットちゃんは、日が落ちて、日が昇って、また落ちて、上がって、その太陽が落ちるまで、ずっとお話していました。他愛も無い話をたくさんたくさんしました。
でも、おばあさんの最期のときは来てしまいました。「ありがとう。」そう言って微かに笑うと、おばあさんは呼吸も、心臓も、止めました。ロボットちゃんは考えました。おばあさんは、どうして最期に「ありがとう。」と言って微かに笑ったのか。ロボットちゃんには不思議で不思議で仕方ありませんでした。
ロボットちゃんは、おばあさんがかつて語っていた旅に出ることにしました。度に出たら、おばあさんが最後に言った「ありがとう。」の意味が分かるのではないかと考えたからです。おばあさんはもともと旅人で、旅の途中にあった話を面白おかしく話してくれたものでした。おばあさんは、自分が死んでしまった後ロボットちゃんの居場所がなくなってしまうことを心配していました。おばあさんは、ロボットちゃんが旅に興味を持ったようだったので、たくさん旅の話をしました。飲み水がないと死んでしまうので川の近くを歩いたり、川がない時は水をたくさん汲んでおくことが大事なこと、荷物は極力少なくすること、旅人同士での助け合いが重要なこと、時には悪い人かもしれないので注意が必要なこと。食べ物は缶詰や川で魚を取ったりすること。おばあさんの旅の注意点を思い出しながら、ロボットちゃんは旅の支度をします。ロボットちゃんは太陽光で動けるので、メンテナンス用の油しか要りません。でも、ロボットちゃんはおばあさんのお話通り、缶詰も、釣りの用具も、飲み水も連れて行くことにしました。ロボットちゃんは、おばあさんと暮らした家を出て、旅に出ました。
ロボットちゃんが旅をしている最中、考えることは、おばあさんが最後に言った「ありがとう。」の意味です。ロボットちゃんは製造されてから二年しか経っていないので、死の概念はよく分かっていませんが、同じ世界でもう二度と会えないということだけは理解しています。おばあさんは、最期の時に、ロボットちゃんを見て笑ったように思えました。そして、吐く息と共におばあさんは、「ありがとう。」と言ったのです。どうして、おばあさんはありがとうと言ったのだろうとロボットちゃんが歩きながら考えていると、前から走ってきた男の子とぶつかってしまいました。ロボットちゃんはとても驚きました。しかし、後ろから男の子のお父さんらしき人が後ろから来て、謝ってくれました。ロボットちゃんは彼ら二人に、おばあさんの最期について話しました。ロボットではなく、人間だったらこの意味が分かるのではないかと思ったからです。
おとうさんは、ロボットちゃんの話を聞いて、「幸せだったからだよ。」と言いました。
「幸せだったから、最期ロボットちゃんに『ありがとう。』と言ったんだ。」
窓際のベッドに横たわったおばあさんと、最期の話をたくさんしたこと。窓の近くだから、窓を開けて風が吹き込んできた最期の会話。夜が明けて、朝が来て、また夜が来て。そのあとにおばあさんがロボットちゃんの方を向いて、深く息を吐くのと同時に、「ありがとう。」とにっこり笑ったおばあさんの顔を、ロボットちゃんははっきりと思い出しました。
「それから⁉それから、どうしたんですか⁉」
子どもの頃の私は、そう彼に問うたように思う。彼は、自分が知っていることはここまでだ、と語った。しかし、そのロボットちゃんは、旅を続ける決心をしたようなので、今でもまだ、旅をしているかもしれない、という話だった。
子ども心にも、どうして彼はその話を知っているのだろう、と思っていたが、大人になった今その疑問が解決した。彼、私の祖父の遺品を整理している最中に出てきた、ある一枚の写真。そこには、小さなころの祖父と共に、ロボットちゃんが写っていた。


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