見出し画像

酵素反応論とか


★酵素反応論

酵素が触媒する化学反応を酵素反応と呼ぶ。

生命活動は化学の視点からみると代謝であり、これを制御しているのは酵素である。したがって酵素反応は極めて重要である。

●酵素反応とその調節

 化学反応としての酵素反応…

化学反応式のように酵素反応を表すことができる。

       ①        ②
 [E]+[S] ⇆ [ES] ⇒ [E]+[P]

各記号は次のモノを意味する。
 [E] は enzyme ( 酵素 )
 [S] は substrate ( 基質 )
 [ES] は enzyme - substrate complex ( 酵素 ‐ 基質複合体 )
 [P] は product ( 生成物 )
そして、① は可逆反応で ② は一方向の反応を表す。

・ 酵素反応の速度

 一定時間あたり(単位時間当たり)にどれぐらい生成物ができるか。
これは上式より ② の反応の進み具合と考えてよい。
よって、[ES] の量(濃度)に比例する

・ [ES] の濃度…

 [ES] の量とは [E] と [S] が出会って結合した数である。
つまり、[E] と [S] の出会い(衝突)の頻度が [ ES ] の量を決めている。

これはランダムな反応であり、ビリヤード台で二個の玉を適当な方向に打ちそれらが衝突する頻度のようなイメージである。

これに、[E] と [S] がどのように関わるかを考える。

⑴ 酵素の影響… 
 基質が酵素量に比べて十分に多いとき [ES] の量は [E] の量に比例する。

基質が過剰な場合、つまり酵素が相対的に少ない場合には酵素が基質に出会う確率が [ES] の量に直接影響する。したがって、酵素の量が増えれば、酵素が増えた分だけ基質と結合する頻度も増加する。

⑵ 基質の影響… 
まず前提として、普通は基質の方が酵素よりも多い条件で測定がなされる。
これは大量の酵素を与えると瞬間的に [S] が[ P] になり測定が難しいためである。あっという間に反応が進んでしまうと測定誤差が増える。ただし、ゆっくり進むような酵素反応の場合や実験を工夫することで、相対的に酵素が多くても測定できる。

うまく測定してやると、基質の濃度が高ければ高いほど一つ一つの酵素が酵素-基質複合体となる確率が高くなり、 [ES] の量は [S] の量に比例することがわかる。

だが、[S] が相対的に酵素より多くなり、それが一定濃度以上になると、全ての [E]  が絶えず [S] と結合した状態となる。すると [ES] の濃度は [S] の濃度に関わらず頭打ちとなる。つまり、[ES] の濃度は見かけ上変化しなくなる。

これは満席状態の飲食店と似たイメージである。座席数が酵素数、お客さんが基質とすれば、どんどんお客さんが来ても帰る人とバランスが取れていれば満席にはならず、来客に応じて対応できる。つまり、比例する。

しかし、お客さんが多すぎると満席になってそれ以上はお店に入れない。そして、食べ終えたお客さんが帰った途端に新しいお客さんが来ると、それ以上の数のお客さんに対応することはできない。つまり、頭打ちになる。

・ 単位時間ごとの生成物の量の変化

酵素反応は [S] が全て [P] になると終了するため頭打ちになる。
ただし、そこに至るまでの時間は、酵素濃度基質濃度影響を受ける
たくさん生成物が得たい場合にどうするかという話である。

しかし、これがややこしい。
状況を整理して状況に応じて適切に考える必要がある。

⑴基質が過剰で酵素を飽和させている場合…
 これは
[ES] の量が最初から最大の場合ということである。

したがって、生成物の量が変化しなくなるまでにかかる時間は、酵素の使用量が倍になれば [ES] の量が倍になるので速度が倍になり、すなわち時間は半分になる。3倍なら当然1/3になる。

同じ条件で酵素量を変えずに基質を2倍にした場合は、 [ES] の量は変わらないので反応速度も変化しない。だが、処理しないといけない基質が倍になっているので2倍の時間がかかる。基質が3倍なら3倍である。もちろんこの時、生じる [P] の量は2倍、3倍になる。  

⑵基質が酵素を飽和させていない場合… 
 これは [ES] の量が、まだ最大ではない状況ということである。

生成物の量が変化しなくなるまでにかかる時間は、酵素の使用量が倍になれば [ES] の量が倍になるので速度が倍になり、要する時間は半分、3倍なら1/3になる。つまり、基質で飽和しているときと同じである。

しかし、基質の量については、この場合には酵素量を増やしたときと同様になる。すなわち、[ES] の量が倍になるので速度が倍になり、単位量あたりの反応に要する時間は半分になる。もし3倍なら1/3になる。

これはクドいようだが、未だ基質と結合していない酵素があるという状況だからである。だから、基質を増やせば[ES] の量が増えて速度が上がる。
(基質を増やしてる時に、酵素が飽和してしまったら速度はそこで頭打ち!)

また、基質を増やしているので十分時間がたてば [P] の量は2倍、3倍になる。

酵素活性… 
酵素のはたらく能力。酵素活性は様々な要因で変化する

競争的阻害… 
基質と構造がよく似た物質が存在すると酵素活性は阻害される。

これは阻害物が活性部位に結合し、基質と競合するためである。ただし、基質の量が阻害物よりも十分に過剰であると効果はなくなる。要するに椅子取りゲーム(椅子が酵素の活性部位、ヒトが基質、阻害物がチンパンジーみたいなイメージ。ヒトが多すぎてチンパンジーがいても別に食料の奪い合いとか起きないのでほぼ人間生活に影響はない)。
 
非競争的阻害… 
アロステリック酵素などではアロステリック部位に物質が結合することでタンパク質の立体構造が変化し、酵素活性が低下する。
 
最適pH、最適温度… 
pHや温度は分子間力に影響を与えるのでタンパク質の立体構造が変化する(変性)。ゆえに酵素活性が最大となる時の条件をそれぞれ最適~と言う。また、条件の変化で酵素活性を失うことを失活と言う。
 
補酵素
特定の酵素が酵素活性に必要とする低分子化合物。

酵素タンパク質と結合・解離可能である。補酵素と酵素が結合した状態をホロ酵素、酵素だけの場合をアポ酵素と呼ぶ。補酵素は電子の享受など酵素(タンパク質)の苦手な反応を助ける。また、酵素と異なり熱に強く(補酵素自体の立体構造は分子間力だけでは決定されない)、低分子の為、透析でアポ酵素と分離できる。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?