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「人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか」

2023年5月上旬に川上川上未映子著書「黄色い家」を読みました。
その感想や自分なりに解釈した部分を共有できればと思います。

○少し長い概要
貧しい暮らしを送る主人公の少女「花」。
片親である母は男に振り回され経済面での余裕もなく大人としては自立のできていない状況。
貧しい状況を打破するかの如く、花はファミレスでのアルバイトに打ち込んで約70万円(記憶が正しければ確かこのくらい)を貯めた。しかし、当時母親が交際していた変なあだ名の男が家中に保管していた貯めたお金を全額盗み、そのまま逃走するなど二重も三重も不幸なことが重なる。
その最中、母親の知人である黄美子と花が出会い物語が進みます。

花はネグレクトの中で出会った年上の黄美子に対して少し崇高した扱いをしていたように感じる。
黄美子が花に対して「私と一緒にいく?」と言い、家出少女となった当時16,17歳の花からすれば当然と言えば当然だったかもしれない。

黄美子は今までスナックや水商売などで生活費を稼いでいなかったので、花という未成年者と共同生活するにしても職に関しては疎く、やはり水商売でしか働けなかった。
花も当然「自分の身分を証明できない」立場であったので、未成年ではあるが年齢詐称し同じくスナックで働く。
その後集めた資金を基に「れもん」という名のスナックを立ち上げた。

後日、それから看板を持ち客足を集める同じく水商売で働く20歳そこらの女の子二人と花は仲良くなり一緒に「れもん」のアルバイトスタッフとして働くことになった。
「れもん」での商売も繫盛して、花は一人の常連でもある不動産関係の高齢者から思いもよらない話を聞く。
それは、ボロくはあるが一軒家を格安で貸せるという話だ。
前々から花と女の子二人は「一緒に住みたい」とまで話が出るほど、仕事も仲も順調だったからだ。
黄美子は少し知的障害的な部分があった。名義などは建前上、黄美子であるが店の管理などは全て花がしていた。「れもん」の金銭管理はすべて花が一任していた(黄美子には生活が送れる分の金額を給与)。
その収入であれば余裕を持って支払える金額であったため即決であった。何より「四人で暮らす」ことが現実になり、高揚感も相まって四人の絆は固くなった。

しかしその後、同ビルの他店舗からの出火により「れもん」はなくなり、収入のない「自分の身分を証明できない」花は知人を通して花は徐々に犯罪に手を染めていく。。。


上記が物語の流れになっていきます。
「自分の身分を証明できない」花は至って生真面目に働いている印象でした。一生懸命に生きようとした花を大人たちは利用して、クレジット犯罪の出し子の役割を担わせもう戻れない状況にまで陥る。

実際、花が望んでいたのは「周りの友人に囲まれて、普通以上の経済的な余裕」を望んでいたように感じる。
一度犯罪に関わって大金を得てしまうと、「今まで働き稼いできた時間は何だったんだ」と泡になって消えてしまう感じも少なからず共感できてしまった。(もちろん犯罪はしたことないですが)
未成年であれば尚更歯止めは聞かなくなり、裏社会が描いたシナリオにズンドコズンドコ進んでしまうんだろうな、と感じました。

ここ数年で本当によく聞く「サイバー犯罪」や「闇バイト」。
裏社会もしくは類似したコニュニティーの人達が花のような「判断力もない未成年者」を利用して金銭を稼ぐ。
身の回りにそのような人はいないし体験談として聞いたこともないので、詳細に物語として破滅に向かっていく少女をみるといたたまれなくなってしまう。

今回いう破滅は、花を筆頭に犯罪に手を染めていく女性達の本来望んだ理想との乖離です。
一度は燃えてしまった店も今の時代で言えば、募金、クラウドファンディング、YouTube、InstagramなどのSNSで情報公開し融資してくれる人が現れたかもしれない。
その手段も選べず、切迫した花は狂気的な精神状態になってしまった。

狂気的な精神状態になった花の行動は、元々仲の良い二人からしても理解できず、段々とその仲に亀裂が入ってしまう。
「れもん」時代の社員とアルバイト、犯罪の仕事を請負う花と更にその下請け仕事を請負う二人。
上下の関係が多少なりともあったとしても、ある程度の線引きができていないと小さな亀裂も完全に分断される。

生真面目な主人公は家を出て、身の回りには崇拝していた黄美子や仲の良い二人を自らの意思で選んだ。

にもかかわらず、読者(第三者)の目線からすると、登場人物全員が大事にしていた金が原因で仲が裂かれていく。
金に一切関係なく構成される人間関係に尊さを再認識でき、さらにその関係は思いも寄らず金によって簡単に壊される可能性を含んでいること学んだ。


印象に残ったセリフ
「お金は権力で貧乏は暴力にまわる。」
「知恵絞って体使って自分でつかんだ金を持つと、最初からなんの苦労もなしに金を持ってるやつの醜さがよくわかる 。」
「孤独で誰にも相手にされないじじいはすぐに人を信用するし、他人に自分の金回りの世話をさせるのに快感をおぼえる。」

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