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雑記10 最近観たホラー映画9ーー「八仙飯店之人肉饅頭」「ザ・フライ」ーー

 実際に起きた失踪事件をモチーフにした「八仙飯店之人肉饅頭」は中身に何かしら問題があったため日本では上映されなかったようである。理由はよくわからないが、子供を拷問にかけ、斬首するシーンがあったからだろうか。話は中々面白いし、結構グロい。7点。この作品は全編を通じて暴力に満ちており、その種類は殺人鬼ウォンによる殺人ならびに人体解体シーンと警察その他によるウォンの集団リンチのシーンに二分される。作品の構成上、視聴者はウォンの犯行を見ることになるため、警察によるウォンの拷問に胸がすくだろうが、現実には間違いなく問題行動である。警察は殺人の物証を何一つ挙げられておらず、自白をとろうと拷問を行う。彼らは、ウォンが犯人だと決めつけて殴る蹴るなど肉体的に痛めつけるだけでなく、ウォンを寝させないようにして精神的にも追い詰める。ウォンには不審な点が多々あり、更には別件で香港警察に指名手配されているのだが、それでも推定無罪が原則である以上、警察のやり方は野蛮と言わざるを得ない。本作はそうした彼らの暴行と普段の不真面目な素行を同時に描くことで、警察権力の腐敗や危険性を表現した作品とも言えるだろう。ところでウォンの死体を処理するシーンはかなりよくできており、一見すると本物にしか見えない。腹を切り開き、内臓を抉り出す箇所や肉を削ぎ落す箇所もカットしておらず、かなりグロテスクだ。死体のリアリティーは顔色一つ変えずに解体するウォンの残虐性と異常性を際立たせている。
 「ザ・フライ」は面白い作品だった。人間から怪物に変わっていく人間の悲哀、最後の最後で見られる人間としての善性、秀逸なクリーチャー・デザインなどよくできていたと思う。ただ、寄り道なく話が進むため複雑さや多義性にやや欠ける。8点あるいは9点。この作品の設定なり、登場する機器なりは「おそ松さん」2期8話でパロディされているが、本作に「おそ松さん」のようなギャグ要素は殆どない。原作はジョルジュ・ジュランの小説「蝿」で、1950年代に一度映画化されている。「ザ・フライ」はこの映画のリメイクである。主人公のセスは自身を物質転送装置の実験体にするが、手違いで転送の最中に蝿と遺伝子レベルで融合してしまい、心身ともに怪物へ変貌する。蝿は悪魔ベルゼブブを象徴する動物で、不吉の象徴と捉えられる。本作でも主人公に厄災を齎す存在であり、蝿と融合したセスがひどく凶暴になるのは悪魔憑きにインスパイアされたか。融合後のセスが驚異的な身体能力を発揮した上、壁や天井を自在に歩けるようになる点は「スパイダーマン」に引き継がれているのだろう。壁を四つん這いで歩く箇所などはかなり似ている。虫と人間が合成した存在といえば、「仮面ライダー」も有名で、本郷猛はショッカーによってバッタの遺伝子を組み込まれた改造人間である。「ザ・フライ」のヴェロニカは恋人・セスの子供を身籠るが、彼が蝿人間であると知って蝿の幼虫に似た赤子を産む悪夢を見る。妊娠した子供が得体のしれない怪物という設定は淫魔を思い起こさせる。淫魔は寝ている女性を孕ませるのだが、その子供は悪魔と人間のハーフであり、マーリンのように超常的な力を持つこともある。白い牡牛とまぐわったパシパエも類話として挙げられる。彼女は牛頭の怪人ミノタウロス(真名はアステリオス)を産んでおり、動物の形状をした人間という点では「ザ・フライ」に近い。また、本作の出産シーンは『蟲師』の「籠のなか」で、ある女性が筍を出産する個所に影響を与えているように思われる。産んだ子供が異形の生物であるというネタは日本の民間説話にも幾種か見られ、それらはオケツや血塊という名の妖怪とされる。前者は生まれた瞬間に縁の下に入り込もうとし、取り逃がすと産婦が死んでしまうので、すぐに殺さなければならない。後者も囲炉裏の自在鉤から逃げようとするが、同様の理由で殺す必要があると伝わる。人が虫に変身する作品として最も有名なのはカフカ「変身」だろう。この作品の主人公グレゴールは多数の足を持つ甲虫のような存在として描かれる。グレゴールは虫に変貌したために家族を養えなくなり、気味悪い存在として邪険に扱われるようになる。作品末尾で彼が死んだ際、家族は解放されたような面持ちで元いた家から越していく。「ザ・フライ」はこれと対照的で、ヴェロニカは怪物になったセスのことを、多少嫌悪することはあっても、基本的には愛しており、最後まで彼に寄り添おうとしている。このように「ザ・フライ」では姿形が変わっても変わらない、精神的な愛のあり方が描かれていると言えよう。

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