糸賀寛

安部公房研究。映画・アニメの感想や自分の研究について書きます。よかったフォローお願いし…

糸賀寛

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最近の記事

文学研究 「安部公房「少女と魚」の素材と主題」

 投稿論文「安部公房「少女と魚」の素材と主題」が学術誌『國語國文』93巻2号(二〇二四年二月)に掲載されたので、要旨を記す。 論文要旨  本論は、安部公房(以下、公房と略)の戯曲「少女と魚」の材源と主題を考察するものである。本作の知名度は高くないが、現在劇作家としても著名な公房の処女戯曲であり、彼の作風を理解する上で、分析する意義はある。  まず、公房のエッセイや対談などを参照に彼の読書歴を調査し、読了した作品と本作の本文を比較検討した。その結果、「少女と魚」は、『竹取物語

    • 2023年アニメ映画・3月

      ドラえもん のび太と空の理想郷 6点。あまり印象に残らなかった作品。オーウェル「1984年」の変わり種といった感じだが、子供向けらしく単純一途なので、へえ、という感じ。空を飛ぶ島に理想郷があって、そこでは競争や迫害はなく、全ての人間が幸福に暮らしている。ただし、それは科学技術によって利他性を強められた結果であり、本来の人格は抑えつけられていたのであった。のび太の演説によって仲間たちの洗脳は解け、未来の警察も踏み込んで島は崩壊する。最後に自爆装置が発動した島をソーニャ(猫型ロボ

      • 2023年アニメ映画感想・11月

        映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ 6点。すみっコぐらしの映画も、もう三本目で随分と売れているんだろう。正直、一本目と二本目はあまり話を覚えていないのだが、本作はちゃんとした筋があったので楽しめた。ちなみに、ファンムービーとしてなら8点だが、そうでない身からすると、そんなに面白くはない。  すみっコ達のイラストがそのまま動いているような絵は、非常によく、普通に可愛い。アニメ化の際に原作とキャラデザがズレることはよくあり、そこは割り切るポイントなのだが、すみっコぐら

        • 2023年アニメ映画感想・2月

          はじめに  劇場公開された新作アニメ映画のレビュー。ちなみに1月は一本も観ていないので感想文はない。  スコアは10点満点。9点は歴代アニメ映画の中でもかなり面白い。8点はとりあえず観るべき秀作で、7点は通常料金でも元が取れる佳作。6点は割引価格なら満足できる。5点は暇潰しにはよいが、人を誘うべきでない。4点は駄作。サブスクなら我慢できる。3点は無料なら観てもよく、2点は仕事なら観るというレベル。1点は最悪で、もう言葉にならない。だが、あまりにダメ過ぎて逆にいいこともあり、そ

        文学研究 「安部公房「少女と魚」の素材と主題」

          実写版「リトル・マーメイド」批評――溶け合う世界の物語――

          拾うこと 「リトル・マーメイド」では、拾うことに意味が与えられている。アリエルの趣味は人間の落とし物を拾い集めることで、拾う行為は彼女の性格を端的に示す。彼女とエリックの邂逅も広く見れば拾う行為で、彼女が海に落ちたエリックを助ける=拾い上げることで二人は運命の出会いを果たす。トリトンが復活する契機は、アリエルがトライデントを拾い上げることだし、アリエルはマックスに代わって、エリックの投げた棒を拾う行為はアリエルとエリックが結ばれる前振りとして機能する。再会の時に彼女が着るのは

          実写版「リトル・マーメイド」批評――溶け合う世界の物語――

          雑記19 最近観たホラー映画16ーー「ゾンビ」「ドーン・オブ・ザ・デッド」「ショーン・オブ・ザ・デッド」ーー

           ロメロの「ゾンビ」は非常におもしろい。8点はある。まあ、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の方がいいとは思うが。ストーリーの大筋は、ゾンビから逃げでショッピングモールにたどり着いた主人公グループが、孤立したそこで生活し続けるというもの。欲望が充足するにつれ満足感が減衰、段々と鬱屈していきつつも、消費をやめられない主人公達や、死して尚モールを目指し続けるゾンビに資本主義経済へのアイロニーが見て取れ、物に価値を見出し、商品に囲まれることを幸福とするアメリカ型資本主義のコア部分

          雑記19 最近観たホラー映画16ーー「ゾンビ」「ドーン・オブ・ザ・デッド」「ショーン・オブ・ザ・デッド」ーー

          文学研究 「安部公房とエドガー・アラン・ポー(二) ――「手段」「誘惑者」「こじきの歌」「愛の眼鏡は色ガラス」をめぐって――」の要旨

           昨年くらいに書いた論文、「安部公房とエドガー・アラン・ポー(二) ――「手段」「誘惑者」「こじきの歌」「愛の眼鏡は色ガラス」をめぐって――」が雑誌に載ったので要旨を掲載する。  本文は下記リンクから読めるので、興味があれば読んでいただきたい。 https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/281706  これは以前に発表した「安部公房とエドガー・アラン・ポー(一)ー――「異端者の告発」「どれい狩り」「

          文学研究 「安部公房とエドガー・アラン・ポー(二) ――「手段」「誘惑者」「こじきの歌」「愛の眼鏡は色ガラス」をめぐって――」の要旨

          雑記18 最近観たホラー映画15ーー「ヘレディタリー/継承」ーー

           「ヘレディタリー/継承」は非常に良くできた作品で、まあ結構怖い。正直、また悪魔かよって感じだが、Jホラーも幽霊ばかりだからあまり変わらない。「ローズマリーの赤ちゃん」を洗練させた作品で映像もいい。9点の価値はある。本作は様々なオカルト知識で溢れているが、主たる解説は他サイトにあるので、ここではより細かいネタを考証する。  作品末尾に登場する男性像は明らかにイエス・キリストで、そこから荊の王冠を取る行為は王位の簒奪と読め、パイモンを永遠の王としての顕現を暗示する。また三位一体

          雑記18 最近観たホラー映画15ーー「ヘレディタリー/継承」ーー

          雑記17 最近観たホラー映画14――「ローズマリーの赤ちゃん」「サスペリア」「サスペリアPART2」――

           マタニティー・ブルーとホラーを組み合わせた「ローズマリーの赤ちゃん」はオチが拍子抜けなことを除けばよくできている。8点。作品の肝は最後の最後まで狂気と怪異の区別がつかない曖昧さにあり、恐怖現象を押し並べてスーパーナチュラルのせいにしていた怪談作品とは一線を画す、近代性を持っている。モダンホラーの根幹の一つにこの不明瞭さがあり、合理・非合理双方の解釈を並列させることで後味の悪さと読みの多様さを与えている。本作は妊娠期の精神不安定を利用した、神経症と怪奇現象のどちらともとれる展

          雑記17 最近観たホラー映画14――「ローズマリーの赤ちゃん」「サスペリア」「サスペリアPART2」――

          雑記16 細田守小考(中)

           原作ファンからは評判のよくない「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」だが、大人への不信や小社会の瓦解といった細田守の特質が詰め込まれている点で、重要な作品と言えよう。麦わら海賊団が敵の策略で少しずつ仲違いし、最終的に海賊団が崩壊するプロットは原作のテーマから逸れており、ファンが気に入らないのはもっともである。ただ、どれだけ仲が良かろうと、小さなきっかけで絶縁するのが人間なのであり、人間関係の流動さや脆弱さを描いている点には文学的趣がある。普段は仲

          雑記16 細田守小考(中)

          雑記15 最近観たホラー映画13——「イット・フォローズ」「ホステル」——

           セックスが恐怖の扉になる「イット・フォローズ」は奇怪な怪物に追い回される作品で、じんわり恐ろしさが迫ってくる。画面構成はいいが、ネタはありふれたもので、ストーリーにも特段ひねりはない。7点か。性行為と死の結びつきはアメリカン・ホラーの定石であり、スラッシャーものではセックスが死亡フラグになっていて「スクリーム」でもそのことがネタにされている。題名に入っているITからは、スティーブン・キング原作の映画「IT」が想起される。ヴィランが正体不明な点、様々な姿に変化する点が両作に共

          雑記15 最近観たホラー映画13——「イット・フォローズ」「ホステル」——

          雑記14 最近観たホラー映画12——「ウィッカーマン」——

           「ウィッカーマン」は怖いというより不気味な印象のミュージカル・ホラーで、随所に挿入される民謡風の歌が全体の雰囲気を不穏なものにしている。この作品の肝の一つは主人公・ニールが人柱だったというツイストだが、普通に見ていれば冒頭で勘付くので、あまり意外性はない。ストーリーの巧みさより儀式の描写を観るべきかもしれない。7点。フォーク・ホラーは先行作品にも多く見られ、泉鏡花やホフマン、ホーソーンなどはその代表だが、いずれも文芸分野であり、映画においてこのジャンルの地位を確立したのは恐

          雑記14 最近観たホラー映画12——「ウィッカーマン」——

          雑記13 細田守小考(上)

           細田守の長編アニメ映画をまとめて観る機会があったので、つらつらと考えたことなり、感想なりを綴ろうと思う。その内、作家論的なものを書こうと思っていて、本稿はそれの準備的考察である。筆者は細田守の熱狂的なファンというわけでもないが、「竜とそばかす姫」公開のタイミングで、あちこちのサブスク・サービスに作品が登場したので「そばかす姫」鑑賞前の予習として作品群を観たのである。細田守には短編作品もあるのだが、鬼太郎は配信サービスにないし、デジモンアドベンチャーはテレビシリーズを全部観る

          雑記13 細田守小考(上)

          雑記12 最近観たホラー映画11ーー「マウス・オブ・マッドネス」「ファイナル・デスティネーション」ーー

           「マウス・オブ・マッドネス」はラヴクラフトにインスパイアされた作品らしいが、寡聞にして未読なためどこがラヴクラフト的なのか、よくわからなかった。本作の特徴は虚構に現実が侵され、想像上の恐怖がリアルなものとなる点にある。このようにメタフィクションを作品の根本としたところは新しいが、ラストが何だか丸投げで呆気に取られてしまった。7点。主人公のジョンは、自身が作家サタ―・ケインの描いたキャラクターであったと中途で気づく。自分が作品の登場人物だったと自覚する設定はボルヘス「円環の廃

          雑記12 最近観たホラー映画11ーー「マウス・オブ・マッドネス」「ファイナル・デスティネーション」ーー

          雑記11 最近観たホラー映画10ーー「キャリー」「ジェーン・ドゥの解剖」ーー

           「キャリー」(1976年)は超能力を持った少女の悲劇を描いた作品で、学校の閉じた人間関係や親による虐待染みた教育といった先進国の子供が味わう不幸を詰め合わせた感じがある。衣食住がある程度充足される先進国においては、なにより人間関係こそが最大の苦悩であり、幸福の源であると言えるのかもしれない。作品のメインは、ヒロイン・キャリーの人間関係を巡る諸々であり、ラストの超能力暴走シーン以外は殆ど恐怖シーンがないためホラーとしては薄味である。むしろ超能力を盛り込んだ青春モノと言った方が

          雑記11 最近観たホラー映画10ーー「キャリー」「ジェーン・ドゥの解剖」ーー

          雑記10 最近観たホラー映画9ーー「八仙飯店之人肉饅頭」「ザ・フライ」ーー

           実際に起きた失踪事件をモチーフにした「八仙飯店之人肉饅頭」は中身に何かしら問題があったため日本では上映されなかったようである。理由はよくわからないが、子供を拷問にかけ、斬首するシーンがあったからだろうか。話は中々面白いし、結構グロい。7点。この作品は全編を通じて暴力に満ちており、その種類は殺人鬼ウォンによる殺人ならびに人体解体シーンと警察その他によるウォンの集団リンチのシーンに二分される。作品の構成上、視聴者はウォンの犯行を見ることになるため、警察によるウォンの拷問に胸がす

          雑記10 最近観たホラー映画9ーー「八仙飯店之人肉饅頭」「ザ・フライ」ーー