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映画『PIG』、思わず誰かと食事をしたくなる意外な作品。


いやー
思わず唸りましたね。
ニコラス・ケイジが盗まれたブタを探す。ただそれだけ。ただそれだけの映画なんですけどね。

まぁ、もちろんそれだけではないですが。
ただ、多くの方々がレビューで指摘していたように「思っていたのと違う」映画でした。豚の仇とる、みたいなバイオレンスストーリーを勝手に想像していた者としては見事に裏切られましたね。イイ意味で。
とは言え、オバマ前大統領が2021年映画ベスト12に選出したと言われるこの作品。そこは「オバマさん、見かけによらずB級好きなのねぇ」とはならず、何かイイお話なんだろうとは予想はしていましたが。

決して多くは語ってくれないこの映画。あえて説明されない物語の核心を受け手が想像していくことで、鑑賞後も物語が続いていく。そんな余韻を噛みしめ思うのは、これって結局、愛の物語だったのかなぁと。

ニコラス・ケイジが演じるのは突如引退し、森の中に隠遁してしまった伝説のシェフであるロブ、盗まれたブタを一緒に探すトリュフバイヤーのアミール、ポートランドの実業家であるアミールの父親。彼らの過去を結んでいるは愛。ロブの料理がアミール一家の大切な愛の記憶として今も生き続けているのです。


愛の物語でありながら、最終的にはロブとアミールの父親のプライドをかけた決闘みたいになっていく予想外の展開にはさすがにシビレました。

もちろんアミール親子にとってロブの料理は特別な思い出であり、きっとこの親子を全力でもてなそうとロブは思ったでしょう。
しかし何より自分に嘘をついてまで生きることを否定するロブの哲学やプライド。ロブはそれを料理に託し、アミールの父親に「食え」と差し出す。彼の生き様すらも料理で示したかったのだと思います。きっとアミールの父親はロブが引退を選んだ元凶。
彼らにはきっと因縁があるんでしょうから。

もうこれ、美味しんぼですよ。

映画のラストでカセットテープから聴こえてくる、ブルース・スプリングスティーンの「I'm on fire」。胸が張り裂けさそうになるくらい誰かのことを想う歌。亡くなったロブの妻の歌声は優しく、そしてどこか前向きな気持ちにさせてくれる。

言葉にすると陳腐になってしまう、愛とか孤独とか。『PIG』はそうした感情を見事に映像で表現した文句のつけようのない作品でした。

どこで誰と何を食べるか。
食事は毎日のこと。自分の肉体、そして精神を作る大切な行為です。この作品を観たいま、再び家族で食卓を囲みたくなりました。

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