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ilLegal・Vegetarian(イリーガル・ベジタリアン)

2022年5月29日 日曜日
ピピピピ。
スマートフォンのアラームがなる。私は飛び起きて、アラームを消す。
「んうぅーん?」
夫は、間抜けなうめき声を上げる。間抜けな人間は、うめき声まで間抜けだ。
スウェットのまま、キッチンに向かう。
ゴォーーー。
換気扇を回す。
カチっ。
ライターに火をつけて一服する。"これ"をしないと一日が、始まらない。
この音から日付が変わる。
それはさておき、今日は忙しい。
娘の誕生パーティーがある。パーティーの買い出しに行かなきゃいけない。
その前に、義母をデイサービスに送らなければいけない。誕生パーティーの合間で介護なんて無理。私の気が狂う。稼ぎのない間抜けの母なんぞの介護をなぜ私が?
頭の中の愚痴はさておき、間抜けな夫を起こす前に、エサを作らなければ、夫が起きてから、キッチン周りにうろつかれるのは、ド頭に来る。何もできないだろ?と毎度思う。料理中に邪魔を入れたくない。静かにそして早くやる。間抜けな夫と可愛い娘が起きる前に。
朝ごはんを作る前に、この目の前の洗い物を片付けなければ。
ROLEXを外して、袖をまくる。型番は、オイスター/パーペチュアル 文字盤はピンク。ROLEXで時間なんて確認したことはない。ピンクの文字盤を見て自分の機嫌を確認している。今日もこれで大丈夫。ダメだったら、新しいのを買わなくては。
ピコン。
スマートフォンの通知音がなる。
結菜ママからLINEが来る。
結菜ママ:今日、料理何持ってけばいい?とりあえずお寿司にしようかと思うだけど、大丈夫?
メッセージを返す。
私:大丈夫👌でも、芽依、サーモンとマグロしか食べれないから。それは絶対入れて。
ピコン。
結菜ママ:オッケー。買っておく!
再び、洗い物に手をつけようとする。
ピコン。しかし、連続でメッセージの通知がくる。
結菜ママ:ところで、今日"野菜"はある。ちょっと欲しいんだけど。
私:あるよ。
結菜ママ:わかった!!ありがとう。お金持ってくね!
私のような田舎者が、Rolexなんてモノを、ただではめられるわけがない。
副業で稼いでいるのだ。"野菜"を栽培して売っている。私の"野菜"の評判よく、ママ友や遠方から買って下さっている方、有名人も買って下さっている。今、流行りのベジタリアンってやつだ。
卵を4つ、ボールの中に割り、めんつゆと砂糖を入れて、かき混ぜる。
フライパンに火をつけて、バターを落とす。
バターが溶けた分、匂いに変わり、部屋がその匂いで満たす。
ガチャ。
「んはよー。」
エサを作る前に起きてきやがった。スマートフォンのアラームでは起きないくせに、バターの匂いでは起きる。人間というより犬とか動物に近い。
夫は予想通りキッチンに向かい、冷蔵庫に立つ。私は挨拶を無視して料理をする。
「おっ、名古屋コーチン卵のプリンあるじゃん。」
「ダメでしょ!それは、芽衣の誕生日会の時に出すやつだから。今日誕生日会って忘れたの?」
「あっ、そうかー」
何にも考えてなくて腹たつ。頭の中割って見てみたい。納得できる脳みその量に違いない。
「今日、お義母さん、デイサービスだから、ちゃんと送り向かいしてね。」
「えっ!?」
プシュ。この馬鹿は、ビールを飲みやがった。頭、わいてんのか?
「何やっての!?」
私は夫から、ビールを取り上げる。
「あぁーごめんごめん。」
頭に血が昇ってしまった。
「もーーーぉ!私が、運転するから、お義母さんの準備全部やってね!あと、誕生会の買い出しあるから、荷物全部持ってね!」
「はいはい。」
夫は座ろうとする。
「座らないで!お義母さんのオムツとデイサービスの準備して!」
夫は座ろうとするも、ビビって、すぐに立ち、お義母さんの部屋に向かう
「アンタの母親だろ!」
私は、捨て台詞を吐く。
オムレツと、こんがり皮が破けたソーセージ、トーストを皿に載せる。
お義母さんには、トーストの代わりに昨日残った米と味噌汁を出す。
「ママー、髪ー。」
娘も起きてきた。
「お父さんにやってもらいなさい!」
「パパ、嫌だー。下手だもん!」
母親と出てきた夫を睨み、目で合図する。
「パパがやってあげるねー。」
「パパ、いやー。」
娘と義母、夫に朝ごはんを食べさせている間に私は、"野菜"の準備をする。
別室に向かい、扉を閉める。
再び、白い紙袋に"野菜"を詰めて、テーブルに置く。

玄関の扉を開ける。
マンションの下を、黒塗りのクラウンがマンションの前に止まっている。
クラウンを遠目で見て、エレベータに乗る。マンションの下のフロアには、主婦たちが話をしている。暇人が他にやることないのか?それとも何かあった?
私は、夫を使って、義母を車に乗せる。
運転席に私が乗り、助手席に夫が乗る。
「お前、そういえば、今日、ヤってる?」
「何が?」
「いや、アレだよ。」
「あなたに言われたくない。朝からビール飲んでるくせに!」
「いや、まぁ、そうだけど。」
「とりあえず、車出すよ!"それ"用の検問があるわけじゃないし!」
「まぁ、ああーと。」
私は乱暴にハンドルを切る。

車を走らせる。バックミラーには黒塗りのクラウンが。マンションからついてきてる?
「ねぇ?」
「何?どうかした?」
「あのクラウン、うちからつけてきてる気がする。」
私は夫に向かいいう。
「マジで?」
夫は、後ろを露骨に見る。
「そんな、ガッツリ見ないでよ!」
私は注意する。
「そんなわけないだろー。それに今止められても別に。何もないし。」

デイサービスに着き、義母を預ける。
道路見ると、さっきの黒塗りのクラウンの姿はなかった。
「お母さん、また向かいに行くから。」
夫は、自分の母に向かい言う。まるで今生の別れのように言う。
私への当てつけか?

バタン。
再び車に乗り、イオンに向かう。
オードブル買い、ケンタッキーを買うために列に並ぶ。
日曜日のイオンは激混みだ。他に行くところはないのか?みんなは?
他に行くところはないのか?
私は、列を夫に任せて、スタバに行く。
裏に周り、スタバ店員を探す。確か、ピンクのインナーカラーを入れてる店員だったはず。
いた!ピンクのインナーカラーの店員に目で合図をする。
店員が気付き、こっちに向かう。
"野菜"を店員に渡す。店員は、私にスタバのカップを手渡す。
「私の友達も"野菜"が欲しいって言ってて。」
スタバの店員が私に向かい話す。
「渡す回数は増やしたくない。」
私は言う。
「今度は多めに持ってくるから。」
続けて言うと、店員は嬉しそうに微笑んだ。
カップを開けると現金が入っている。
現金をポケットに入れて、カップを捨てる。
ケンタッキーまで慌てて歩く。

駐車場まで行き、車の扉を開ける。
斜め向かいに黒塗りのクラウンが止まっていた。
私はヤバいと思い、夫を急かして、車を走らせる。

家につき、誕生日会の準備を慌ててする。
「ママー!やっぱりこの髪やだー。」
もー、クッソ忙しいのに使えねー夫だな!
「髪は私がやるから、パパは誕生日会の準備して!」
「あぁ!わかった!」
慌てて主人は、準備をする。
「イオンにもいたよ。あのクラウン」
私は、娘の髪を結いながら夫に向かい話す。
「マジで?ヤバいかもしれない。」
夫は答える。
「なんか、同業のキムラさんいるじゃん?あの人もパクられったぽくて?」
「えっ?キムラさんが?」
私は答える。
「いや、TwitterのDMで同業の人とやり取りしてたじゃん?俺?それで色々わかって。」
「何?、同業の人とまだ、やり取りしてたの?」
私は語気を強めていった。
「あっ、いや、えーっと。」
「もう、やり取りしないでって、言ったでしょ?私?」
「うん、言ったけど、色々知らないとヤバいじゃん?俺ら?」
ここまで、馬鹿だったとは思わなかった。SNSでやり取りで警察は尻尾を掴む。
「どうするの?やり取りしてるのがバレたら。」
「いや、そうなんだけど…」
「だから、あのクラウンがつけてたんじゃないの?」
「だから、やべーって言ってるじゃん。」

ピンポーン。
夫と私は固まる。
「はーい。」
娘の芽依が、インターホンまで走る。
「あっ、待って、芽依!」
私は芽依を掴もうとするが、体が固まってうまく動かない。
夫は親指の爪を噛んでいる。

「はい。うんうん。」
芽依はインターホン越しで話している。
私は、両手を握り、祈ってしまっている。

「ママー。結菜ちゃんきたー。」
私は夫の顔を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

「ごめんねー。道が混んでて!」
結菜ママが話す。
「なんか、下の階で事件があったみたいね!殺人?なのかな?」
「そうなんだ。全然気がつかなかった。」
朝の主婦は、その事件について騒いでたのか。
私は、本当に胸を撫で下ろした。クラウンなんて至る所で走ってる。
無駄に悩んでしまった。
「これ!お寿司!」
結菜ママがお寿司を手渡す。
「あと、お"野菜"が欲しいな」
「あぁ。はい。」
私は手渡す。
「はい、お金。」
福沢諭吉がこちらを向いている。
私は、それをポケットにしまう。
「ママー。私のはー。」
何が私のは?じゃ。これは私のもんじゃ!

誕生日会の片付けをする。
「今日は焦ったー。」
私は夫に向かって言う。
「まじで俺は固まっちゃたよ。」
本当に固まってて、頼りにならなさすぎてビビるよ。本当に。
「あんた片付けしてて、私、お義母さん、向かいに行くから。」
「あっ、俺も行くよ。」
「いいよ。私、一人で行くから。」
玄関の扉を開ける。
目の前には令状があった。
「麻薬取締法違反の疑いがあるため、家宅捜索させていただきます。」
刑事が私に向かって言う。
<了>



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