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Bounty Dog【アグダード戦争】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2022年3月の記事一覧

Bounty Dog 【アグダード戦争】53-55

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 ヒュウラがコルドウの単独自己判断保護任務を行なっている最中の、一方その頃。
 アグダードの”民間お掃除部隊”と『世界生物保護連合』3班・亜人課の、ヒュウラを除いた保護部隊達は、アグダードの地図上で西側と東側の境界線の部分に来ていた。国境に設ける人為的な仕切りは無く、周囲は枯れた大地と岩で出来た丘、乾いた砂漠地帯の風、夕闇に染まり掛けている赤と青が混じる空という、星が作った自然ばかりに覆わ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】51-52

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 ヒュウラは、アジトを脱走する前にアグダードの地図を盗んでいた。盗んだのはシルフィが作った模写で、彼女が特訓中のミトの様子を見に行っている間に、何もする事がない夜は早々に寝てしまうリングが爆睡している間も合わせて、盗み取った。
 盗んだ地図には支配者達の名も暴言も書いていなかったが、髑髏マークと”コルドウ”の文字は記されていた。夕日で赤く染まるアグダードの枯れた大地を俊足で駆けながら、ヒュ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】49-50

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 軍曹と朱色目から情報を聞いて、シルフィは2人に礼を言ってから、部下と亜人達を連れて隊長室を出た。軍曹がヒュウラに遊ぶ約束を一方的に伝えてくる声が聞こえてきたが、ヒュウラは返事も反応もせずに、弱々しく歩くミトを観察しながら移動した。
 保護官達が普段過ごしている小さな部屋に移って直ぐに、シルフィは先ずミトを叱咤した。
「貴女、そのまま弱いと此処から直ぐに追い出されるわよ」
 ミトが小さな声

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Bounty Dog 【アグダード戦争】47-48

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 通信施設の“ゴミ掃除”が終わってから、また”民間お掃除部隊”は極々小さな掃除以外はアジトに引き篭もる日々を送っていた。『世界生物保護連合』の保護官達と亜人達がアグダードに来て、もう直ぐ1ヶ月が経とうとしていた。
 ミトは掃除任務の後で、また心労を起こして数日寝込んでしまった。が、見兼ねたシルフィに強引に起こされて、今後任務のお荷物にならないように、”お掃除部隊”から特訓を受けさせられてい

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Bounty Dog 【アグダード戦争】44-46

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 軍曹達”アグダード民間お掃除部隊”が、ゴミ人間掃除に出動した。シルフィ・コルクラートが率いる『世界生物保護連合』3班・亜人課の超少数保護部隊も、保護対象”ターゲット”の亜人の情報を報酬に、共に戦場に出陣する。ヒュウラについては、ミトと軍曹は抗議したがシルフィと朱色目に言い負かされて、結局戦力として連れて行く事になった。
 ヒュウラはアジトを出る前に、赤い腰布に覆われた服の腰ポケットに収め

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Bounty Dog 【アグダード戦争】41-43

自分が出来ない事は、出来る他に任せれば良い。

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 喪失”ロスト”していたヒュウラの心は、完全に元に戻った。まさかの紛争地帯でメンタルを大回復させた亜人の青年に、ミトは喜んだが、唯、ただ、未だ信じられなかった。
 『世界生物保護連合』3班・亜人課の超少数現場保護部隊が紛争地帯アグダードに潜入し、現地の”民間お掃除部隊”に出会ってから、あっという間に2週間が経っていた。
 絶滅危惧種の亜人であ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】40

40

 軍曹は、電源ボタンを連打する。ヒュウラに「足りない」と言われたので、押すスピードを加速させる。
 銃撃の音と爆音と人間が出す悲鳴が聞こえてきた。炎が熱気を含んで吹き荒れる。軍曹はボタンを連打する事だけに集中していた。ヒュウラに「足りない」と言われたので、指の動きが更に加速する。
 ゴムがプラスチックに当たるプッシュ音が聞こえなくなった。「当たってない」ヒュウラはボタンの上で空振りしている

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Bounty Dog 【アグダード戦争】39

39

 シルフィは、アンテナが付いていない通信機の画面を見て顔を顰めた。ミト・ラグナル保護官と音信不通になっている事は非常に喜ばしいが、銀縁の眼鏡のレンズに覆われた青い目は、限界まで釣り上がっていた。
 液晶画面には黒い背景の上に黄緑色の格子模様と太線が引かれており、その上に赤と黄色の点が表示されている。赤は特別保護官兼超希少種、黄色は”いつもは”特別保護官兼超過剰種だが、今は保護対象を示してい

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Bounty Dog 【アグダード戦争】36-38

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 朱色目の黒布は大股で歩き出した。布が動いて無線機を握った腕が出てきたが、浅黒い肌をした手は布の中に直ぐに引っ込んで、持つ物を連絡道具から手榴弾に変える。
 爆弾を握る手の力が強くなっている。布を頭から被っていて容姿は一切分からないが、全体的に震えていて憤っているのが周囲の誰にでも分かる状態になっていた。 
 ミトは事態が”思惑通り”になったと感じた。ミトも自分の被る黒布を動かして、アンテ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】34-35

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 シルフィ・コルクラートが言った通り、建物の裏側にある大きな岩の影に黒布被りの人間達が居た。黒布達はミト・ラグナルを無言で迎え入れると、何の声掛けもせずに行動を開始する。
 事情が全く飲み込めないミトは、困惑しながら布達の後を付いていく。移動途中で突然静止を促されると、群れの中で最も小柄な人間が脱いだ黒い布を頭から被せられた。
 新たな黒布被り武装兵になったミトに、浅黒肌に朱色の目をした軍

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Bounty Dog 【アグダード戦争】30-33

30

 軍曹と朱色目の黒布は、部屋の奥に行ったまま戻って来なかった。シルフィが壁から身を離して通信機をスーツスカートのポケットに入れると、ヒュウラとリングの近くに歩み寄り「此の場で待機するように」と指示をした。
 リングが大きく了解の一鳴きをする。ヒュウラは返事も反応もしなかった。シルフィがリングの右腕を掴んで持ち上げると、数秒間思考に耽てから、相手の手首に巻き付いているブレスレット型の発信機を

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Bounty Dog 【アグダード戦争】28-29

28

 昼食はフムスとライムと茹で野菜だけで質素だったが、リングとヒュウラは満足しているようだった。地中で過ごしているので時間の感覚が余り掴めなかったが、『世界生物保護連合』3班・亜人課の超少数保護部隊がアグダードに潜入してから3日目の午後は、”アグダード民間ゴミ人間掃除部隊”のアジトで保護任務の情報収集に費やされた。
 洞窟の壁に寄り掛かって立っているシルフィは、手に掴んだ通信機を操作しながら

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