見出し画像

沈黙はやがて歌となる

ヘロデの名声

ルカによる福音書からイエスの誕生に関する知らせを読みます。
 「それは沈黙を強いられる時代だった」のです。
 
 「ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた」(1:5)。
 
 この一言から、イエスが生まれた時がどんな時だったのか、連想できます。ユダヤの王とは、今から2020年ほど前、ローマから任命された王です。任命されユダヤ人の王となったヘロデの功績は、ローマ皇帝への絶対的な服従によって成し遂げられました。ヘレニズム文化を導入して、質素な神殿をリフォームしました。ローマ皇帝の訪問に備え都市を開発、建築ラッシュでした。ヘロデは腕利きの政治家でした。彼の名声は民の苦しみと引きかえでした。
イエスが生まれた時、ユダヤの民の宗教活動は、この新しく拡張された神殿を中心に行われました。祭司制度は人間社会を反映し、より形式的なものを重んじました。何よりも、「内向き」になりました。ローマ的な当時でいる「モダン」化された器の中に入れられた、ユダヤ教指導者はユダヤ教的であることを強化しました。以前、カタールでサッカーワールドカップの競技場建築のために移民たちが過酷な労働を強いられ、何千人もの死者がでた話をしました。ヘロデ王の時代は、私たちの時代でもあると思います。

ザカリアの体験

ザカリアという祭司が選ばれ、神殿の一番奥まで入っていきます。その場所は外とは切り離され、選ばれた人だけがアクセスすることができる場でした。カーテンで間仕切りがなされています。物理的には布を捲れば誰でも入れるのに、入れない場所です。接触できない空間をカーテン一枚で作ることができるというのが、宗教の力だと改めて思います。定期的に選ばれた祭司がその場所の世話をするために入場します。
天使が現れ、妻が妊娠し、その子は預言者として働くことが告げられました。
 この後、ザカリアは自分も妻も老齢で妊娠出産を準備することはないと言っています。そして、彼は、「この子が生まれるまで口が利けなくなる」と言われました。
  ザカリアは信じなかったから、罰を被ったと考える人が多くいます。その根底には「口が利けないのは、よくないこと」という思い込みがあります。発声で意思表示するマジョリティからは、声が出ないことは不便なこと、かわいそうなこととみなされるのです。声を使わずに生活をする人々が不便な思いをするのは、音声での表現を重視する人々中心で世界のシステムが形成されているからではないでしょうか。音声で発信する表現方法を持っていても、言葉を挟む権利を奪われる人も、同じように「口が利けない」状態だと思います。

沈黙へと誘われ

ザカリアは沈黙を獲得しました。信じなかったことが悪いとは書かれていません。信じられない出来事を前に、ザカリアは沈黙へと導かれたのです。彼がヘロデ王の時代に、神殿の祭司であり、男性であり、彼の周りに多くの人々が取り巻いていたようです。彼は人望があり、人間関係が構築できていました。ザカリアは言葉を発することができる立場にあり、それを表すかのように、神殿の奥で、天使とやりとりしているのです。特権を持っていました。

ハンナを引き継ぐ新バージョン

ここから先は

1,343字
この記事のみ ¥ 200

サポートいただけるととっても嬉しいです。ありがとうございます。活動資金として大切に使わせていただきます。感謝。