見出し画像

「ナチス 破壊の経済1923-1945」上巻の感想

昨年のことなのですが、読むことを目標にしている本の一冊「ナチス 破壊の経済1923-1945」(みすず書房 著:アダム・トゥース 訳:山形浩生、森本正史)を読みました。別のSNSで投稿した感想を上下巻に分けて、notesの方でも投稿してみたいと思います。

さて,私はプラモデルとかを作る軍事オタクですので、第二次世界大戦時のナチス・ドイツの兵器の性能の良さは知っており、「ナチスは悪いこともしたけど、良い成果もあげた。特に経済」みたいな話からは、まるで呪いにかかったみたいに、なかなか逃れることが出来ません。

かと言って、ナチスがどんな経済政策をしたのかは詳しく知らず、いつかナチスが実際にやったことをしっかり勉強して、可能であれば「ナチス良いこともした」論の「呪い」の「お祓い」をしときたいなぁと思い、少し高い本ですが購入していました。

経済に関する話ですので、最初は単純に感覚をつかむのが難しく、読む前に軽く経済について勉強しとけばよかったなぁ、と後悔。あと訳者の山形さんの本を何冊か読んでいるのですが、実は私は山形さんの訳のクセが少し苦手でして、そういったこともあって、少々、苦戦しました。

また、なんとなくナチスを批判したいことは分かるものの、いまいち本の方向性が最初は掴めませんでした。

「この本は何を言いたいのかなぁ」と読んでて、急に「ナチスドイツは最初から戦争するために、国の経済を統制しようとした」ということに気付いて、ハッとしました。

個人的には「ナチスの政策が良かったのでドイツは復活して、軍備を整えることが出来た」と思ってたのですが、これは認識が逆なんですね。

「違う方向に向かう可能性も有ったドイツ経済を捻じ曲げ、無理な部分は無理やり統制して、軍備に充てた」というのが、この本によると正しいです。

(有名なアウトバーンは、雇用にほとんど寄与しなかったとか面白い話も出てきます)

帯には「ナチスの経済政策が、如何に付け焼刃に過ぎなかったか」みたいなことが書いてありますが、個人的にはこんなにややこしくてめんどくさいことを、よくやりきったなという感想です。そこはドイツ人が優秀なところではあったのかな、と思います

しかし、この「ドイツ人は優秀」という認識は下巻を読む事で覆ります

何故戦争したかったか、についてはやはり「ドイツ民族はユダヤ人達の悪の企みによって脅威を受けている」みたいな、ナチスのおかしい考え方が根底にあり、この辺りはやはり以前に読んだナチスドイツの性犯罪を書いた本「戦場の性」でも感じたところです(こちらの感想もいずれ)

最近だと、ロシアがウクライナを侵略しましたが、やはり、ロシアも「NATOによりロシアは脅かされている(から、先に攻撃する)」みたいな言い方をしていて、独裁とか専制とかになるとそういう考え方に陥ってしまうのかな、と思ったりもしました。ナチスとロシアは直接関係の無い話ですが、そういう部分の共通点も興味深く読みました。

また、ユダヤ人迫害の関連で特に酷いと思った例を一つ挙げると、「輸入をしないと産業が成り立たず、結果、外貨を獲得するための輸出もできない」という流れで出てくるエピソード。

上記の通り、ドイツの経済は、まずは外貨が無いと成り立たないので、ナチスは厳しく外貨の統制をしました。ここで、ユダヤ人迫害の話が出てきます。

ナチスはユダヤ人にはドイツから出て行って欲しいと思っていたのですが、移民としてユダヤ人が資産を持ち出す際、それは外貨として持ちだしてしまうので、これにかなりきつい統制をしました。

ユダヤ人はドイツを出国する際は無一文に近くなってしまう訳で、なかなかドイツから出ることも出来ず、そしてドイツ国内に居ればナチスに迫害され…と地獄のような状況になったそうです。

それでも戦争直前には、たくさんのユダヤ人がドイツから逃げ出したそうですが、ユダヤ人があんなにもドイツで殺されてしまったのは、こういう規制で「ドイツから逃げることが出来なかった」と言うのもあるのかな、やはり、昨今の独裁国家とやることが似てるなと思い戦慄しました。

上巻は西部戦線での開戦直前で終了します。

これも、準備万端整って開戦!という感じではなく、無理やり軍備に費やしてきた統制経済が、ほぼ「これ以上何かやっても良い方向にいかない」ところまで行ってしまったので、「勝てるうちにやろう」という感じで始まります。戦車も砲弾も飛行機も不足していて、ナチスドイツの序盤の電撃戦について、かなりイメージが変わりました。

読み終えた時、下巻に行く前に箸休めとして少し別の本を読もうと思っていたのですが、そのまま、下巻を読み進めて、ナチスドイツの超統制経済の行く末を見届けることになりました。

では、来月の下巻の感想に続きます。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?