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スーパー高齢者伯母あさこの物語2

このお話は叔母の若い頃のことです。話してくれた当時は90歳頃

あなたは今どうゆうことをしているの?

と伯母にたずねられたので、かくかくしかじか、子どもに英語と音楽を教えています。そして、それは生徒が自分から学ぶモチベーションをあげられるよう、方法論を導くようにしたいと思っているのです、と話したところ、彼女の体験談を教えてくれました。

伯母は音楽学校卒業後、しばらくある高校の音楽の先生をしていましたが、当時その学校は生徒の態度が悪く、音楽の授業中に生徒が席につかず、うろうろ立ち歩いていたそうです。伯母はその状態の中で、立ち歩いている生徒には何も言わず、毎日ピアノに向かってベートーヴェンを弾いていたところ、日が経つに連れだんだんと生徒たちが着席して伯母のピアノに耳を傾けるようになりました。そんなある日、あることを思い立った伯母は、黒板に田園交響曲の第1主題を書き出し、それに続いて第2主題を、、そしてそれぞれの下に低音部の旋律を書き、生徒たちに2部合唱をさせました。2部合唱が出来たところで、黒板の楽譜を消して、レコードでその楽章を聴く。すると生徒たちは自分たちが歌った旋律が聞こえてくるので、次第に鑑賞に集中するようになりました。そうやって田園交響曲すべての主旋律を教えると生徒たちは全楽章を通して聴きたいと言い出し、今度はそれを1時間の授業ですべて聴きました。一つの交響曲を聴く喜びを知った生徒たちに、今度は第5番。伯母は自分でスコアを勉強しながら生徒たちに同じことを教えて全楽章を聴き、その後7、8、9番そして最初に戻って1、2、3、4番、結局、音楽の授業を聴いてもいなかった生徒は高校3年間でベートーヴェンの交響曲を全部聴いて卒業しました。中には、第5番の2楽章のトランペットの部分になると「ここは座っいては聴けません!」と敬意を表するように立ち上がって聴く生徒もいたそうです。もちろんずっと昔の話ですから、今の時代に通用する指導ではないと思いますが、おそらく当時、「音楽の授業は訳の分からないクラシック音楽を学ばされる」と思われていたハードルの高いイメージの前に少しの階段をつけ入り口を入りやすくして、生徒たちをベートーヴェンの世界へ招き入れた伯母。
伯母の柔軟でアカデミックな発想は今もなお私のどこかで背中を押してくれるのです


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