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銀河オーバードライブ⑩

第3章

 通常速度で航行を続けること三時間。何事もなく進んでいたが突如、船の動きが止まった。大きな衝撃の後に停止した船は再び動きはじめる。ラウンジにいた俺たちは急いで操縦室へと向かった。何が起こったのか。俺は混乱する。
「何があったんだ? 」
 操縦室へとたどり着くとセイジがレイに尋ねた。レイは急いで計器を確かめる。レイの顔は焦りと恐怖に満ちている。俺とセイジも表情が曇っていく。
「…… 制御不能になってる。誰かの船のトラクタービームに捕まったらしい」
「なんだって!」

 俺は思わず声を上げた。セイジもパニックになっているようだ。船は尚も制御が効かない。すると、前方に俺たちの船よりもさらに大きな船が見えてきた。俺たちの船との距離は徐々に近づいていく。俺たちの船はこの大型船に牽引されているらしい。
「海賊かもしれない」
 レイが怯えながら呟いた。まさか、エドが言っていた海賊というものに出会したのだろうか。この状況を鑑みるに本当に会ってしまったのかもしれないと俺は思った。船内にさらなる緊張が走る。
「どうすんだよ!」
 俺はレイにどうすればいいのか聞いた。レイは動揺しながらも、
「とりあえず、向こうとコンタクトを取ってみよう」
 と返した。レイは急いで船の通信装置を動かそうとする。幸い、通信装置は作動したので、向こうとの連絡を試みた。

「こちらランナウェイ号、応答してください。どうぞ」
『 …… 』
 少し待ってみたが向こうからの反応は無い。レイは間を置いて再び通信を試みたが応答はなかった。距離はさっきよりもより近づいている。緊迫の中、俺たちにはもうどうすることもできなかった。次第に俺たちの船は大型船の中のドッグへと入っていく。仕方なくレイは着陸脚を出した。俺たちは船が完全に止まるのを待つことにした。いや、正しくはそうすることしかできなかった。

 程なくして、船が完全に止まった。俺の中に恐怖の感情が走った。その直後船の出入口が開いた。向こうの誰かが操作スイッチを操作したらしい。
「おら! 行くぞお前ら!」
「おお!」
 直後、船内の向こうから甲高い男たちの声が響いた。船内を物色する音が聞こえる。どうやらこの大型船は本当に海賊たちの船だった。俺たちは命の危険を感じて、隠れることにした。できるだけ声を上げずに隠れ場所を探す。だが、遅かった。
「おっと、お前ら。そこまでだ」

 海賊のメンバーに見つかってしまった。俺たちは反対の方へ逃げようとしたが、そっちにも海賊がやってきて俺たちの腹を殴ってきた。
「うえっ!」
 俺とレイとセイジは一瞬のうちにその場で倒れ込んだ。
「元気がいいなお前ら。高く売れそうだ」
 そう海賊が言うと、そいつは俺にスタンガンか何かを向けた。俺の意識はそこで途絶えた。

 意識が戻った頃には俺の手には手錠がかけられ横にされていた。右横を振り向くと、レイとセイジも同じ状態だった。まだ二人は気絶していて、かなりの怪我を負っているようだった。俺は思わず、
「レイ! セイジ!」
 と叫んだが、二人は起きる気配がない。すると左横にいた海賊が
「うっせーんだよガキが!」
 と叫んで、俺を蹴り倒した。直後さらに海賊が集まって俺を一斉に蹴りはじめた。身体中が痛い。

「お前ら、そこまでだ!」
 蹴られ続けること数分、ついに誰かの一声で海賊たちは俺を蹴るのを止めた。俺の顔からは血が出ている。
「すみません、ボス」
 海賊たちの一人がご機嫌を取るかのように奥にいる大柄な男に向かってペコペコしている。アイツがこの海賊たちの親分らしい。そう思っているうちに男は銃を取り出し、さっきまで頭を下げていた部下に向かって一発撃った。撃たれたそいつの血が俺の顔や服に飛び散る。
「…… どう…… して」
 こう言ったきりその部下が動くことはもう無かった。残った部下たちは怖気付きながらさっきまで生きていたそいつの亡骸を引きずってその場を去っていく。引きずられたことで床に付いたそいつの血を見た瞬間、俺の中に死への恐怖が湧いた。

「安心しろ。お前たちは殺しやしねえ」
 奥の男は自らの部下を撃ち殺した銃を愛でながら俺にこう言った。嘘だ。どう足掻こうといずれはアイツに殺される。確証はなかったが、アイツの目は間違いなく人の痛みが分からない奴の目だった。
「…… お前、目つき悪いな。お前の目ん玉潰してやるよ」
 どうやら思っていることが顔に出ていたらしい。男は静かに宣言した。俺は死を覚悟した。その時だった。奥の自動ドアが開いた。

「失礼しますボス」
「…… なんだよ。楽しんでる時に」
 ドアの向こうから現れたのはさっきいた部下たちよりは位の高そうな女の部下だった。“ボス”は舌打ちを一回したが今度は撃ち殺すことはせず、女は“ボス”の耳元に近づいて何かを話しているようだった。耳元での話を終えると“ボス”は俺に聞こえるくらいの声で女と会話を始めた。

「ちぇ。またアリスのやつか」
「どうしますか?」
「…… この部屋に通してやれ」
「承知しました」
 一通りのやりとりを終えた後、女は入ってきたドアから戻っていった。アリス、どこかで聞いたことがある気がする名前だ。
「…… 命拾いしたな小僧。お前の目を潰すのはまた今度だ」

 愉快げに“ボス”は俺に向かって言い放った。俺はこの瞬間は命拾いをしたが、恐怖に駆られていることに変わりはない。程なくして、何人かの武装した女たちがやってきた。集団のリーダーらしき女は強い調子で“ボス”にこう言った。
「キャプテン・アリスだ。今すぐにその子たちを解放しろ」
 キャプテン・アリス、やっと思い出した。彼女はエドの昔からの仲間の一人だった。アリスという名を思い出した俺は思わず叫んだ。
「あなた、エドの仲間なの!」
「なに、エドを知っているのか。なら話が早い。ドン・マダー、この子らをすぐに解放しろ」

「それはできない相談だな」
「なに」
 アリスは海賊の“ボス”であるドン・マダーに銃を向けた。それでもドンは銃を向けられても尚、憎たらしい態度を変えなかった。レイとセイジは未だに眠っている。この場で俺にできることはあるのだろうか。そうしている間にもアリスとドンの交渉は続く。
「アリスさんよ…… 、お前のせいで俺はどれくらいの損失を被ったと思ってるんだ。そもそも、ウチの船の通信を傍受して中に乗り込むのはコンプラ的にどうなんですか?」
「さあね。でも、お前の方こそ人様の船をハイジャックして中の積荷を乗組員ごと裏マーケットで売りさばくのはどうかと思うが」
「なんだと…… 」

(続く)

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