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銀河オーバードライブ(11)
どうやら、交渉は決裂したらしかった。膠着状態が続く。手錠をかけられた俺にはなにもできない。
「この小僧三人と船一隻の代わりになるような俺の利益をお前は見つけられるのか? アリスさんよ…… 」
「黙れ。お前に渡す金など無い」
二人の喧嘩は続いている。だが、この会話を聞いた俺はあることを咄嗟に思いついた。そして、気づけば俺は叫んでいた。
「なあ、代わりの利益を見つければ良いんだろ!」
「少年!」
「おお、威勢がいいじゃあねえか、小僧」
「…… アマゾネスって星に未開発の資源があると聞いたことがある。…… そこに俺たちで行って、見つけ出す。見つけ出したら…… 、俺たちを解放しろ」
これは命懸けの提案だった。エドの惑星アマゾネスで見つけ損なった資源の話を思い出して、それを口走ってしまったが、生きるか死ぬかの瀬戸際で思いついた物としては、あまりにも無茶な賭けだった。ドンは一考している様だった。アリスの方は焦っている様にも見える。俺は自分がどうしようもないくらいに無謀だったことを理解した。どうせ見つけられずに怒ったこの男に俺は殺されるだろう。どうせ死ぬなら、最後まで悪足掻きしてやる。そう一人で覚悟した。
「…… いいぜ。お前らに船を返してやる。その代わり、アマゾネスまで行って、俺の利益になる様な物を探してこい。いいな」
「…… わかった」
「お前! 何を取り決めたのかわかっているのか! お前の命が…… 」
「黙れ、アリス! これは俺たちの取引だ」
「くっ…… 」
アリスにはどうすることもできなかったらしい。ひとまず、ドンは俺たちの手錠を外して、持ち物を返すと言った。だが、これで自由になれたわけではない。ドンは、もし俺たちが逃げたら問答無用で殺すと宣告した。俺はアマゾネスまで飛ぶ前にレイとセイジが目を覚ましたら事を説明することにした。二人の命まで賭けてしまったことを俺は後悔している。二人は何と言うだろうか。窓の外を見ると真っ暗だった。
レイとセイジが目を覚ましたのはあれから二十分程経った頃だった。俺は二人が気を失っている間に起こった事と、二人が知らないうちに命を賭けた取り引きをしたことを説明する。
「冗談じゃねえ! 何勝手に決めてんだよ! 」
話を聞いたセイジが俺に怒りをぶつけるために俺を殴った。セイジが殴ったのは当然だ。俺が勝手に決めて良いことではないことを決めてしまったから。レイも何も言えないでいた。レイの表情は焦燥しきっていた。俺には二人に責められる以外何もできなかった。血まみれの顔が痛い。俺は自分が泣いていることに気がついた。二人を怒らせてしまった、巻き込んでしまった、命を賭けてしまった。それが自分でも許せない。しばらく沈黙が続いた。
「お前たち。なにをメソメソしているんだ」
長い沈黙を破ったのはまだドンの船に居たアリスだった。
「お前たちが喧嘩するのは構わないが、時間は待ってくれない。このままウジウジしていても、待っているのは死だ」
「あなたに、何がわかるんですか! 」
感情を抑えきれなくなったレイが反論した。アリスはそれを聞くとレイの肩を叩いて、
「俺にお前らの気持ちなどわからない。だが、どうすれば良いのかなんて呑気に考えている時間なんて人生にはないんだ! それがわかったらお前たちの手で船を出せ!」
レイは今にも泣きそうだった。一通り話すと、アリスは俺の元へとやってきた。彼女は辺りを見回してから、ホルスターから銃を一丁取り出して、俺に差し出した。
「持ってけ」
「いや、受け取れないです」
「…… 持っていくんだ」
アリスの強引な説得に負けた俺は渋々銃を受け取った。本当は銃なんて持ちたくはなかった。それでも、命がかかった今、俺は人を殺める力を持つしかなかった。
「…… 行こう」
セイジがやっと状況を受け入れたようだった。レイも泣きじゃくりながら同意する。俺もやっと気持ちが落ち着いたので、頷いた。俺たちの喧嘩が収まった。
自分たちの船に戻った俺たちは、急いで応急手当てをしてから船のエンジンを起動した。スイッチを入れる時の一つ一つの音が普段よりも重く響いてくる。ドンから与えられた猶予は船で出発してから二十四時間。二十四時間後にドン自らアマゾネスに赴いて、チェックするということだった。本当に彼が探している物を見つけられるだろうか。俺たちに死への不安が募るなか、船のエンジンは場違いなくらいにどんどん大きくなっていく。まるで元気そのものだった。時計を確かめる。時刻は午前零時の一分前。
「じゃあ、行くよ」
レイが操縦桿を動かして船が動き出した。ドンの船を出た瞬間、時刻はちょうど午前零時になり、レイが惑星アマゾネスまでの航路を設定してワープを開始する。自分たちの命がかかった二十四時間が始まった。
惑星アマゾネスの成層圏に到着したのは、出発してから三時間後だった。残り二十一時間。その間にドンが気に入りそうな物を見つけなければならない。俺たちは着陸できる場所を見つけて船を停め、歩くことにした。窓から辺りを観察すると、この一帯には森林と大きな河川しか存在せず、誰も人が住んでいるようには見えなかった。
「…… さっきは殴って悪かった」
船を停めて、いざ外へ出ようとした時セイジがぎこちなく俺に謝ってくれた。
「いいよ。俺の方こそ悪かった」
俺がセイジに返事をすると、奥からレイもやってきた。
「ワタル、…… 生きてまた旅を続けよう」
「ああ」
レイとセイジの言葉を聞いて、俺は嬉しくなった。俺はレイとセイジの過去や気持ちの全てを知ることなんてできないけれど、二人との確かな絆があることを改めて噛み締める。
「行こう」
船の出入口を開けた。残り二十時間。なんとしてでも生きて、この三人で旅を続ける。そう決意して俺たちは船を出た。
(続く)
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