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銀河オーバードライブ(15)

 雪山の中、俺たちはどうすることもできなかった。セイジは再び意識を失い、レイも頭から血を流して倒れている。二人の脈を確かめてみたが、幸い生きているようだった。しかし、俺自身も無事ではなかった。頭から血が流れていて、さらに腕が思うように動かない。怪我をしている中で追い討ちをかけるように外では吹雪が舞っている。

 ナビに表示されている座標を見てみると、どうやら当初の目的地だった宇宙ステーションまではとても近いようだったが、船が墜落したせいで船に取り付けられている通信装置は壊れていた。このままだと連絡が取れない。船体には墜落した影響で穴が開いており、外気が船内に行き渡り始めたことで、次第に俺たちの居る操縦室が冷たくなってきた。
「…… 寒い」
 思わず口に出てしまったが、誰も返しの言葉を言ってくれなかった。二人は生きてはいるが意識を失っている。このままだと俺たちは凍え死んでしまう。俺は自分のデバイスから放たれる微かな熱で手を温めながら、この状況を乗り越える手段を探すことにした。

 レイに通信装置を直してもらおうと思ったが、レイは今、意識を失っていて直すことができない。セイジに頼んで考えるのを手伝ってもらおうかと思ったが、セイジも意識を失っている。ふと、俺の中で二人の存在が大きいことに改めて気がつく。そうか、俺はこの二人にずっと支えられていたのだなと感慨に浸る。デバイスから放たれる熱が次第に冷たくなっていく。起動すると、もう充電が持たなかったようだった。熱を放つ物を俺は操縦室の中を探し回るが、この部屋には何も置かれていなかったので、見つかるわけがなくて、思わずため息をついた。白い息が目に見える。よく見ると、二人の髪や眉が白くなっていることに気がついた。

 まずい。誰も助けを呼べない中で、俺は自分が生きるために、二人を生かすために、何か使えそうな物を必死で探した。それでも、目ぼしい物は見つけられなかった。俺のデバイスの充電が完全に切れて使い物にならなくなったので、俺はセイジのデバイスを勝手にポケットから抜き取って微かな熱で手を温める。二人の髪と眉はさっきよりも白くなっていて、外の寒さがどれほどものか理解できた。

 俺は角で、縮こまって寒さを凌いでいたが、次第にセイジのデバイスも充電が切れはじめた。このまま死ぬのだろうか。だとしたら、とんだ人生の終わり方だなと思う。そう思うと少し悔しくなった。次第に俺の体も寒くて意識が飛びそうになりはじめた。

 セイジのデバイスが使い物にならなくなったので今度はレイのデバイスを勝手に手に取った。レイのデバイスはエドによって改造されている。どういう改造だっただろうか。そう考えているとあることに気がついた。そうだった。レイのデバイスは改造されたことで、銀河一つ分の範囲ならどこでも通信ができるのだった。俺はそれを思い出して、すぐに行動を起こした。

 レイのデバイスを起動して、まずは現在地の座標を調べ、次にその座標の情報と共に救助隊へのSOSを送った。これであとは、俺たちが死ぬ前に救助が来るのを待つだけになった。

 外の吹雪はとても強くて船内にも寒さが伝わり続けている。俺の体はもう限界まで来ていた。思うように体が動かせないのと、意識が消えそうになる。消えそうな意識の中で俺には人生で二度目の走馬灯が見え始めていた。今度は前よりも長かった。

 生まれた時、父と母が不仲になりはじめた時、レイとセイジに出会った時、二人との友情が生まれた時、“町”に不満を抱きはじめた時、宇宙船を見つけた時、三人で宇宙へ行こうと決めた時、船を修理している時、母が出て行って父を殴った時、船で“町”を出た時、エドにあった時、エドにいろいろなことを教えてもらった時、海賊に捕まった時、アリスに勇気づけられた時、村長と戦うことを選んだ時、ドン・ボラーの目を撃った時、セイジを担いで戦場を駆け回った時、壊れかけの船を飛ばそうと決めた時。

 いくつもの場面が頭の中で蘇る。俺はあの退屈だと思っていた日々の中で生きる意味をずっと見いだせていなかった。だけど、今になって、とんでもない回り道をしてやっと気がついたことがある。自分のために生きる意味を探し続ける。結局はみんな、この問いへの結論は出ないのだ。だからこそ、自分で満足のいく結論を求めて生きている間ずっと旅をする。それがひとまずの俺の結論だった。この先も、人生という旅は続く。その中で何ができるだろうか。

 まずは“町”に帰ろう。帰って迷惑をかけたみんなに謝ろう。しばらくしたらお金を貯めて三人で新しい船を買おう。船を買ったら今度はちゃんと目的地を決めて旅に出よう。旅先でいろんな人に会って、いろんなことを学ぼう。人生を学んだらそれを教訓にして生きていこう。生きているうちにいいことをしてみよう。

 なんだ、よくよく考えたらあるじゃないか。俺の生きる意味が。そう思って少し微笑んだところで俺の意識は途絶えた。


 目が覚めると、俺は病室らしき場所に居た。辺りを見回すと、レイとセイジも眠っている。俺たちは助かったようだ。俺の意識が戻ったことに気がついた、看護師らしき人が慌てて誰かに連絡を取っている。良かった。生きている。まだ生きている。ちゃんと生きている。それがいつも以上に嬉しく感じられた。程なくして医者の人がやってきて、俺たちの身に何があったのかを教えてくれた。宇宙ステーションが近くにあったためにすぐに救助隊が現場に着いたという。救助隊はレイのデバイスの現在地情報を利用して、俺たちの居場所を特定した。発見された時、俺たち全員が意識をなくしていたが、全員生きていたという。そこから、宇宙ステーション内の医療センターに運び込んで今に至るということだった。レイとセイジは無事に生きている。俺はそれがとても嬉しかった。

 この後、俺たちはあの”町“へと帰ることを選んだ。

(続く)

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