燃料ドラム掘り起こし

人員装備“異常アリ”

#10年前の南極越冬記  2009/8/21

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

◇◇◇

やってしまった・・。長期で野外に出ると、僕らは毎晩昭和基地と無線で定時交信を行うのだけれど、50次では初めて「人員、車両、異常アリ」を報告することになってしまった。しかも「人員」の異常は、僕自身なのだ。

事の起こりはこうだ。雪上車の故障による作業の遅れで1日延泊になった、4泊5日のS16オペの4日目、昼飯の時間に、前日から少し元気が無かった一人の隊員が「気分が悪い」と言うので、大事を取って午後は雪上車のベッドで休んでもらうことにした。午後の作業を終え、夕飯時、今度は何ともなかった僕が、妙に胃もたれがするので飯を食うのをやめて少し横になることにした。そしてそのまま、二人とも高熱と吐き気に襲われダウンしてしまった。

その日の定時交信では「人員2名、異常アリ」を報告し、翌朝までに回復しなければ朝イチで先発搬送隊を出す、その晩は雪上車のエンジンを切らずにおくなど、僕ら二人のために色々と検討してくれていたらしい。ちなみに雪上車の中で寝るときは、エンジンは切ってから寝る決まりになっている。換気の問題があるからだが、車内は朝までにはマイナス20℃以下になってしまう。今回はエンジンと暖房を切らない代わりに、オペのリーダーが換気の番をしてくれていた。

結局、一晩吐いたりうなされたりし続けたが、二人とも朝までには動けるようにまで回復したので、緊急搬送はなし、予定の作業を終わらせてから皆で基地へと帰ることになった。基地へ戻ると既に入院の準備が万全で、点滴を打たれ、僕の人生初の入院先は『昭和基地・温倶留(オングル)中央病院』となった。食堂のホワイトボードには、「今晩は蟹鍋!でも病気のふたりはお粥食べて寝なさい♪」と愛のこもった(?)メッセージとともにお粥が用意されていた(もちろん蟹鍋もしっかり頂いたけれど)。

「南極では低温でウィルスや菌が生きていけないので、病気にはならない」と国内では聞いていたけれど、調べて見るとこの「高熱、嘔吐、集団感染」はどうも毎年起こっているようだ。ウィルスは「いない」訳ではなくて「新しいく持ち込まれない」だけで、どっかに隠れて生きているわけだ。

古いウィルスに対してはみんな免疫を持っているので平気だが、たまたま免疫を持っていないウィルスに出会うと、確実に免疫力が下がってる僕らはすぐにかかってしまう。新しい隊が来ると一緒に新しいウィルスも持ってくるので、越冬明けの隊員たちの多くが病気になるというのは有名な話だ。ウィルスに対する経験、という意味では「オジさんたちよりも若い隊員の方が南極では病気にかかり易い」と言えるのかもしれない。

今回病気になったことで、改めて仲間の優しさと暖かさを感じ、そしてオペメンバーはもちろん、昭和基地のみなに心配と迷惑をかけてしまったこと、感謝とともに重く反省している。そして自分自身の肉体とメンタルをコントロールできなかったことが悔しくてならない。隊では冗談で、すっかり「すぐ病気で倒れる弱い子」のレッテルを貼られてしまったが、それも甘んじて受けよう。自分が野外で動けなることがチームにどういう影響を与えるのか、それを考えると無理をせず、程々に休むことも大事なことなのだ。

来月からは、僕がオペのリーダーを担当する旅行隊も控えている。野外では何が起こるか分からない。それに対しリーダーとして臨機応変に対応できるようにしておかなければならない。

最後まで読んで頂きありがとうございます。頂いたサポートは次の遠征などの活動資金に使わせて頂きます。