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ルート開通

#10年前の南極越冬記  2009/8/8

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

◇◇◇

何とかラングホブデまでのルートが通った。これから何度もこのルートを往復し、観測を行うことになる。開通前の最後のオペは、予報には無かった悪天候のせいで途中基地に引き返した事もあって、3日連続で海氷上で行動となった。

いつもそうだけれど、海氷の上に立っていると嫌なイメージばかりが頭をよぎる。ここで海氷が割れたら、 雪上車のトラブルが起きたら、もし誰かが海に落ちてしまったら、・・。

ルート工作自体は同じ手順の繰り返しだ。暫くすると身体のがその動きに集中してくる。その代わりフリーになった頭の方では、次々と嫌なイメージが巡る。何とかそれを打ち消すために、自分や仲間の位置や動き、海氷や周囲の状況を目で追い、もしも事が起きてしまったら自分はこう動く、すぐにあれとこれとが必要だ、その先は・・、そういうことを考えながら前へと進む。

加えて、マイナス38℃を記録した今年一番の寒さのせいもあって、さすがに基地に帰ったときは自分でもびっくりするくらいにグッタリしていた。「やっぱり陸の上はいいなあ!」と安心しながら夕食を突つき、風呂で暖まる。その晩、普段はめったに見ない夢を見た。海氷が割れて、目の前で雪上車が落ちていく夢・・。やっぱり相当緊張していたみたいだ。

明日からは、内陸のS16というところに暫く行ってくる。S16は極夜前の5月以来。行きはSM40S型だけれど、帰りはSM100S型という内陸用の大型雪上車も2台下ろしてくる。昭和基地に持ち帰って整備するためだ。重量のある100で海氷上を渡るので、より注意が必要だ。

「万が一の時に機敏に逃げれそう(?)」という理由で、100Sの運転は僕も担当する。何とも複雑な心境だけど、無事に帰ってこれるように、慎重に行動してこようと思う。

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