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海の上に道をひく

#10年前の南極越冬記  2009/7/29

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

◇◇◇

いま海氷の上に道を作っている。ルート工作というこの作業は、何も無い氷の大地の上に安全なルートを作るためのもの。二手に分れ、まず先行隊が氷の状態を調べ安全を確認しながら赤旗を立てていく。後発隊は旗と旗との間の磁方位や距離を測り、GPSで旗の位置情報を記録して行く。

海氷が割れてしまい、誤って先行隊が海の中へと落ちてしまう危険があるので、後発隊はいつでも救助できる装備を備えて、少し距離を置いて後方から付いていく。先行隊は海に落ちても助かるように、浮上型のSM30式雪上車を使うことが多い。こうやって尺取り虫のようにして、500メートルほどの間隔を空けて旗を立てていく。ひとつ先までルートを進めるのに、だいたい10分から15分位かかる。

いま目指しているのはラングホブデという、昭和基地から南へ30キロほど離れた大陸沿岸の露岩地帯。このラングホブデには、僕の担当する地圏部門の観測ポイントがあるのだ。ラングまでのルートができたら、その先のスカルブスネス、スカーレンという次の観測ポイントまで、どんどんルートを延ばして行く。最後のスカーレンまで辿り着けるのはたぶん9月の中頃かな。

ルートの上ならば、いつだって安全という訳ではない。海氷は生き物だ。たとえ海氷の厚さが2メートルを超えていて、陸の上に立っているかのような気がしても、その氷の下には深さ数百メートルの冷たい海水が隠れている。ホット・ミルクの上にできた膜のような海氷の上を、僕らは重さ数トンの雪上車で走っているようなもの。海氷は波を打ってタイド・クラックやプレッシャー・リッジという氷の裂け目を作り出すこともあるし、突然どこかへ流れ出してしまうことだってある。

先行隊は、氷の厚さや時期、陸地や氷山からの距離、過去の隊のルート、ドリルで掘った時の刃先の感触など、色々な情報を加味しながらルート・ポイントを決めて行く。駄目なら引き返す勇気だって必要だ。

明日からまた1泊2日の予定でルート工作に出る。ラングまで辿り着けるといいなあ。

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