宇宙の果て、距離を測る
#10年前の南極越冬記 2009/11/6
ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。
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長い1週間だった。年に2回、2月と11月には、僕の担当する地圏部門の大きな観測イベント、VLBI (Very Long Baseline Interferometry) 観測が行われる。このVLBI観測は、昭和基地(日本、東南極)の他に、O’HIGGINS(ドイツ南極観測基地、南極半島)、TIGOCONC(チリ)とKOKEE(ハワイ、カウアイ島)、HOBERT26(オーストラリア、ホバート)の、5つの観測拠点が共同で行う。
どういう観測をやるかと言うと、遠い遠い星(クエーサー)からやってくる同じ雑音を、5つの観測基地が「せーの」でアンテナで捕らえる。それぞれの基地の場所が離れているので、同じ雑音でもわずかながらアンテナに届くまでにタイムラグが発生する。そのタイムラグを利用することで、何千キロも離れた5つの基地の間の距離を、ミリ程度精度で正確に割り出すことができる。よく聞く「日本とハワイは毎年6センチずつ近づいている」というのも、実はこのVLBI観測で分かったことだ。
VLBI観測は原理的にはものすごくシンプルなんだけれど、最近まで「技術の壁」があってなかなか実現しなかった。弱い雑音を捕らえるマイクロ波技術、受信したデータを処理して高速に記録するデジタル技術、タイムラグを割り出す基準となる正確な時計などが成熟してきた、1980年代にNASAが中心となってようやく実現した観測だ。
このVLBI観測以外にも地圏部門の仕事は、NASAやCNESなどの世界各国の宇宙センターがらみの仕事が多いので、個人的にちょっぴり嬉しい・・・・とはいえ、実はこのVLBI観測、48時間ぶっ続けで星を追わなければならず結構しんどい。他の部門からお手伝いを募って交代で番をしたり、調理に夜食を差し入れてもらったり、みんなの協力のおかげで何とか観測を完了することができた。他の4つの基地はどうやってるのかなあ。